ヨルシカへの愛
4月7日にヨルシカのライブへ行く。去年やった物の再演に近い内容なのだが、当時僕はゼミと重なっていた為、それは泣く泣くキャンセルしていた。2021年の「盗作」のライブから全部行っていたので、ずっと心残りだった。今回の再演はまるで僕の為に用意された救済の様で嬉しい。「1番好きなアーティストは?」と聞かれたら迷いなく「ヨルシカ」が出る。余り聴かなくなった時期があろうが、ヨルシカだけは、ただの音楽という域を超えた僕自身の軸となっている。
ヨルシカとの出会いは2018年後期か2019年に、たまたまYouTubeで出てきた「言って」か「ヒッチコック」だったと思う。作曲のn-buna自体はそれより前に「ウミユリ海底譚」で知っていた。最初はそんなにハマらなかったが、少し時間を置いて再度聴いた時にとんでもない感銘を受けた気がする。
それから「だから僕は音楽を辞めた」のティザーが公開されていることに気づき、なんとなく開いた所、サビ辺りだけ流れる曲々のその綺麗さに圧倒され放心状態になってしまった。初回限定盤のアルバムをすぐに予約した。アルバムが出るまでそのティザーを何回何十回も流した。
そしてついに曲の全部が聴けた時、僕は人生最大の感動を体験した。音楽に一週間、なんならもっと引きずるような気持ちにさせる力があるなんて思わなかった。このアルバム、引いてはヨルシカには海や桜のような、酷いくらいに真っ直ぐで美しい芸術性があった。数え切れないほどに泣いた。
それから続編の「エルマ」が出たあと、「だから僕は音楽を辞めた」のストーリーは一段落ついて、今度は「盗作」がリリースされた。このアルバムには心底驚かされた。前とは変わってテーマも曲調も鋭い。けれどよく見てみると素直な美しさはしっかりと残っていた。僕はヨルシカの中でこのアルバムが1番好きかもしれない。
ヨルシカの曲は一般的なアーティストの曲と違って、どちらかというと物語的なフィクションに属する。作品自体にフォーカスして欲しい想いから、メンバーのn-bunaとsuisは顔を出していない。n-bunaは元々Twitterをやっていたが、そういう観点からアカウントを消してしまった。
僕は自分勝手なので「そんなのいいからお前の異常な呟きをもっと、幾つも見せてくれ」と思ってしまう。
彼らの楽曲は和歌や詩、小説や童話を意識した物が多い。歌詞やタイトルにもそのまま出てくることすらある。ある意味現実味というのがかなり薄くて「作り手の我」を感じさせない珍しい構造を作っている。しかしそれでも尚、漏れ出すように可視化される「作曲者n-bunaの心根」を僕は愛しているし、十四する。
彼は公式ファンクラブのブログでたまーに日記のようなものを書くのだが、とんでもなく拗れてて、頭がおかしくて、それなのに少年のような純粋さがあると読んでて感じる。
僕は一時期n-bunaのことが好きすぎてひたすら経歴やインタビュー、情報の含む発言をストーカーのように探し漁っていた。
「n-bunaの脳天に太いストローを突き刺し、脳みそをズルズルと吸い込んで、彼の思想を端から端まで全て知りたい」
という感情がとにかく強くあった。多分これが恋なんだと思う。勿論ボーカルsuisもすぐに割れてしまいそうな繊細さがあるかと思ったら、芯のある叫びみたいな表現もできる歌声で魅力がある。ベースのキタニタツヤも作曲者として僕はとても好きだ。
だけど、だけど、ライブの時皆が各々の音を奏でる中、僕の焦点は気づいたらn-bunaだけになっている。
ライブ会場のトイレでn-bunaと偶然鉢合わせる妄想なんて何回もした。暗くてハッキリ分からない顔がどんな見た目か何回も考えた。常に不機嫌そうな顔をしていて、けれども笑ったらとても素敵な印象を与える表情っぽいなと何回も考えた。
卒論のテーマだって貴方の「月に吠える」という萩原朔太郎の詩集を元にした曲が大好きだから、それにした。僕は貴方をもっと知りたい。貴方のように綺麗な物を創りたい。薬で穢れきった心と体になっても、貴方の背中を追いかけることを諦められない。一瞬でいい、1秒後には完全に忘れてもいいから、僕という人間を認識して、貴方の世界に1度だけでもいいから存在したい。もしその代償が"死"であっても僕はそれを選ぶ。というよりも貴方の目の前で臓物と血を撒き散らして死にたい!貴方の血肉を喉に流し込んで肉体的に貴方と共存したい!
ヨルシカの曲とライブがあるからまだ前を向ける。ヨルシカが、n-bunaが、何度も僕の心臓を強く握ってくれるからそれは結果的に動いている。憂鬱だった誕生日に「雨とカプチーノ」を出してくれた嬉しさを未だに覚えている。n-bunaはスウェーデンで暮らしていた時期があったらしいから、僕が行きたい国はスウェーデンだ。
次はどんなアルバムを出すのだろう?どの芸術家に焦点をあてて作る?それとも「だから僕は音楽を辞めた」のように"創作と恋愛"をテーマにしたオマージュの薄いものにする?一周まわって酷く現代・現実的な事柄を語るものにするか?きっと何についての曲だろうが僕は「良い」と手を叩く。本当の信者みたいだ。n-bunaが1番嫌いそうな人種である。
それでも愛の最上級とはそういう物じゃないかと思う。