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住宅ローンを組まずに家を建てて気づいたこと

我が家には、住宅ローンがない。
完済したわけではなく、初めからない。

銀行の審査が全滅したなど、いくつか理由はある。
なので、自己資金で家を建てた。


最近、我が家を建ててくれた大工さんのことを思い出す機会があった。
飼い猫にかまれて入院しているらしい。

彼と初めて会ったときのことは、今でも忘れられない。

最初の打ち合せで、「お金がないので、払えるところまでつくってほしい。残りは自分たちで本やYouTubeを見てDIYする」というこちらの想いを伝えた。

すると、彼はだんだん険しい顔になっていった。
芸人千鳥の大悟のような感じで怖かった。

そして言った。

「それはダメです。やらせてもらえるなら、全部僕が自分でやります。中途半端な家は建てられない」

「お金は出せる分だけでいいです。分けて払ってもらってもいい」

半分は自分の仕事、でも半分はシロウトの仕事で完成した家。

そんな、「欠陥住宅」と呼ばれるかもしれないものに自分が関わったとは言いたくないし、言わせない。

そんな彼の「矜持」が伝わってきた。
この人なら信頼できると思った。


いま思い返すと、彼のほかにもいろんな「その道のプロ」の力を借りて我が家は建った。

父。
引退前は住宅の設備工事の仕事をしていた。
なので、大工さんをはじめとして、自分のこれまでの仕事で出会ったいろんなジャンルの職人さんを紹介してくれた。
建築士資格を持っているので心強く、たくさんアドバイスもくれた。

電気屋さん。
四六時中しゃべっていて、父からは「口動かさずに手え動かせ」といつもからかわれていたが、息子さんと2人で細かい仕事ぶりだった。
ある日、シーリングファンをくれた。我が家が金欠だということを知り、使わないからあげるよと持ってきてくれたのだ。
黒がほしかったが、白だったので自分たちで黒く塗った。
塗る時は、リモコンの受光部には絶対に塗るなよ!と念押ししてくれた。

お風呂の施工の人。
ユニットバスは、ヤフオクで格安で手に入れたが、取り付けマニュアルが付いてなかった。
でも、彼は弟子と2人であーだこーだいいながら、割と難なく完成させた。
足りない部品に気づけば、ホームセンターに車を走らせ良さげなパネルを買ってきて、取り付けてくれもした。

私と妻はお風呂工事を見守りつつ、室内の珪藻土塗りをやっていた。
私たちの手際が悪かったのか、彼は工事の合間にやってきて、こういう風にやるといいとお手本を見せてくれた。
この仕事の後は、隣の県に行って高速道路の工事の現場監督をやると言っていた。「多能工」な不思議な人だった。

俳優光石研さんの『リバーサイドボーイズ』というエッセイを読んだ。

「俳優という仕事は、誰かの仕事に生かされているもの。自分がいるだけでは、ドラマや映画は成り立たない」

照明部
撮影部
録音部

その道のプロたちがいるから、俳優という仕事ができている。
それぞれの「顔の見える仕事ぶり」に何度もリスペクトを表しているのが印象的な本だった。

自分たちの家づくりも同じ。すべてつくり手の顔が見える仕事だった気がする。
お金をかけずにつくったので、ハウスメーカーや工務店がやるような各工程や、職人さんたちのスケジュール、支払いなどすべて私たち夫婦と父とで管理していた。なので、なおさらその思いが強い。

これは正直大変だったけど楽しかった。
だから、次は地域にあふれている「空き家」でも買って、また同じようなことをしたい。
別宅にするか、賃貸に出すか、売るのか、用途はわからないがまたやりたいと思っている。

そして、次は子どもと一緒にやりたい。
子どもに見せてあげたい。

世の中にはいろんな仕事がある。
いろんな人が働いていて、いろんな役割がある。

だから私たちは生きていける。




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