
抽象的の意味に関する抽象的な話
もともと私の投稿には抽象的な話は多いけれど、「抽象的」が何を指すのかズレがあったという抽象的な話をする。
私のお仕事として、アンケートやインタビューなどで得た情報から、「人々がお金を出してでも欲しいものは何か?」と要求を分析して、解決策のプロトを作ってぶつけ、再びその反応を得るような活動がある。
そのお仕事の中で、一緒に取り組む仲間から「抽象と具体を行き来しながら進めよう!」という意識合わせがあった。なんとなく通じているのかと思ったら、話を進めるうちに噛み合わない違和感もあった。
思い切って「ここで言う具体って、具体的にどういうこと?」と聞いてみたら、認識に違いがあることが分かった。
欲求と解決策の行き来
「抽象と具体を行き来」と発言していた人に意図を聞くと、「欲求と解決策の行き来」だった。いわゆる「バリュープロポジションキャンバス」の右側(顧客の仕事)と左側(プロダクト&サービス)に対応する。

どんなニーズがあるから、どんな提案をぶつけるか。一方通行ではなく仮置きして進めては戻って、繰り返しながら固めようという主張。
うむ確かに。欲求に関して、どれだけ鋭い洞察を導いたとしても、それが製品を通して体験できるものに反映されていなければ意味がない。
一方で、面白い製品のアイデアを思いついたとしても、それが要求と噛み合わなかったとすれば、ただ面白そうなだけで実際にお金出して買う人はいない。
だから、「どの欲求に着目するか?」と「それを提供する現実的な解決策に着地できるか?」は、行き来しながら整合するように落とし込む必要がある。
顕在化した欲求と上位の欲求
「抽象と具体の行き来」と聞いて私が連想したことは、バリュープロポジションキャンバスの右側の中にある。
アンケートやインタビューで得た声が「具体的」な欲求。それに「なぜ?」を投げかけることで、手段に対する目的にまで遡るのが「抽象的」な欲求と捉えていた。
おそらく、私がランチにB定食を選んだ理由も、「なぜ?」を繰り返してゆけば「しあわせになりたいから」に収束する。これは普遍的であり、抽象的だ。
言葉遣いとしては、以下の記事と一致している。抽象的な要求に「どうやって?」を問うと、具体的な欲求に降りてこれる。梯子の昇り降りになぞらえている。
後者の抽象的な方を、「本質的欲求」「上位の要求」と呼んだり、「Haveニーズ→Doニーズ→Beニーズ」の階層で捉えたりもする。
ランチでB定食を選んだ理由を「なぜ?」と聞いて、淀みなく答えられる人の方が少ないだろう。だから、名探偵のようにたくさんの証拠を集めて、「もしかしてこうなんじゃないか?」という仮説を立てるしかない。
手法としては、KA法、上位下位関係分析、KJ法(狭義)やらあるけれど、頭の使い方は同じなんじゃないのと思っている。どれだけ方法論を引っ張り出しても、考え続けふとした瞬間に天から降りてくるように、閃くしかない。
そこまで苦労して、抽象的に考える必要なんてあるのか?…それはアイデアに求められる革新性による。
ちょっとした改善であれば労力をかけず、言われた通り叶えて事足りることもある。
斬新かつ有用なアイデアを出すには、深い洞察に基づいて「上位の要求」を掘り当てる必要がある。
演繹的に導くのであれば一方通行に進むが、アブダクションではいったんジャンプし、具体例を当てはめて説明が付くかで当り付けをする。この意味で、具体と抽象を行き来する必要がある。
それを抽象的と呼ぶのは妥当か?
ここまで書いて、それぞれニュアンスの異なる概念に「抽象と具体」を当てはめるのは妥当なのか?という疑問がわいた。辞書っぽいものを眺めると、ちょうど2通りあった。
1 いくつかの事物に共通なものを抜き出して、それを一般化して考えるさま。「本質を抽象的にとらえる」
2 頭の中だけで考えていて、具体性に欠けるさま。「抽象的で、わかりにくい文章」⇔具象的/具体的。
この投稿で最初に書いた「要求と解決策」に対応するのが、2の意味での「抽象と具体」である。要求は思考の世界にあるのに対して、実態あるプロダクトに落とし込むことで、触って評価することができる。
ラダーアップダウンによって行き来できる「顕在欲求と上位欲求」の関係は、1の意味での抽象化と言える。反対語として「具体的」は挙げられていないけれど、反対語が無いのも不便なので、便宜的に「抽象と具体」を対応させてきた。
両方が正しいとすると、2つの「抽象的」は二次元に整理することができる。

本質的な意味でDoニーズよりBeニーズが抽象的
カメラマンに「それとって」とお願いするときや、ITインフラエンジニアに「ドライバーが必要」と言う時には、どちらの意味で言ってんのか注意を払う。
UXリサーチャーに「具体と抽象」と言うときにも、それがどっちの意味なのかは意識する必要がありそう。
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