「和inで5時」ミュージックビデオ制作の裏側
水道筋で行きつけの「スタンディングバル 和in」に入り浸り過ぎて、昨年の秋頃からは店員としても抜擢されるようになった。
和inは2023年1月に3周年を迎え、ご祝儀としてお店の宣伝ソングを贈ろうと思い立った。商店街の店舗紹介で流す曲と、勢いでミュージックビデオまで作った。まずは成果物から。
以下、制作の裏舞台について話をする。目次を斜め読みして気になるところだけでもどうぞ。
土台となる曲を決める
分かる人には分かる通り、鈴木雅之さん「渋谷で5時」の替え歌である。
元々は「違う、そうじゃない」の替え歌にのせて、「違う、ワインじゃない、日本酒のお店」というメッセージを伝える案もあった。
近頃、ネットスラングとして「違う、そうじゃない」が引用されることもある中、本家である鈴木雅之さんがTHE FIRST TAKEを披露され、そのカッコよさで聴き手を圧倒した。昨年末には紅白でも披露され、世代を超えて知られる曲となった。
でも、お店の雰囲気には「渋谷で5時」の方が合っていると、おかみさんからの要望があった。確かに、女性も入りやすい点や、トレンディー(?)なお店のイメージが表現できる。そうやって土台となる楽曲が決まった。
実際、店員をやっていると「この店は何時からやっているんですか?」と聞かれることも多いので、メッセージとしても「和inで5時」を知らしめる必要があった。
替え歌の歌詞をつくる
動画内にも入れた歌詞テロップを再掲する。アーケードの放送で流せる尺が1分と聞いていたので、Cメロから入ってサビのループ回数とテンポで、ジャスト1分に調節した。
優れた「替え歌」とは、どのようなものだろうか。オリジナルの歌詞の響き残しつつも、主題を自然に伝えることであると私は考えている。
原曲の雰囲気を残す「音」を持ちながら、自分が伝えたい「意味」をのせてくれる言葉を探すのは、謎かけのような頭の使い方をする。下の動画でキリショーさん達は「パズルだよね」だと話していた(3:33付近)。
ちょうど、ゴールデンボンバーさんが代表曲「女々しくて」をベースに、2022年の流行を振り返る替え歌をつくっていた。そのプロセスをYouTubeで披露されていて、細かい判断でプロ意識を見せつけられた。
そこまで上手くはなくとも、我々だって推敲を繰り返して歌詞を完成させた。例えば、「帰れない」という歌詞を残すと、不倫っぽさが出てイメージに合わない印象になったので、表現やニュアンスの調整を重ねた。
デモ音源で構成の意思疎通をする
MIDIを打ち込んで、自分の声を吹き込んでデモ音源をつくった。これは、曲の構成や尺を意思疎通する目的で、デモ音源そのもののクオリティは低い。
前半は歌から始まり、後半はナレーションという構成で提案した。
ちょうどバナーや展示などのグラフィックデザインでも、役割として「目を引くこと」と「情報提供」のどちらにどのくらいの比重を割くのかを議論する。バランスについて意識合わせしながら、制作を進める。
グラフィックであれば「イメージ」と「説明文」のバランスとなるところ、音楽では「歌」と「ナレーション」に対応すると捉えている。
ナレーションを決めて録音
デモ版では私が仮でナレーションを付けたのを、尺におさまるようayaさんが提案してくれた。
ayaさんはお店の飲み友であるとともに、歌・ナレーション・演劇・ダンス・etc…一通りできる。以前に私が劇団のオンライン配信をお手伝いしたことがあり、お互い様で参加してくださったのもある。
後述のヒロキさんも然り、アマチュアクリエイターの作品づくりは「持ちつ持たれつ」である。
話はayaさんに戻る。声色のパターンをいくつか振って「どれにしますか?」と言われた時にはスゲェなと思った。
特にファインプレーだったのは、「みなさまのご来店」「雄町してま~す」の部分を、常連さんも交えてコールアンドレスポンスにしようというアイデアだった。
日本酒会で常連さんより早めに集まり、ノートPC・オーディオI/F・マイクを立てて、ayaさんの歌とナレーションを録音した。
その流れで日本酒会の開始時、酔うより先に常連さんのコールアンドレスを録音した。
音源を付けて曲をミックスする
無課金DTMerの私では曲のクオリティの担保が厳しかったので、音楽制作をヒロキさんにお願いした。
もともとバンドマンだったのが、コロナ禍を期にボカロPとしてデビューされた。ともかく、餅は餅屋。
作業の過程を見せながら進めてくれた。エエ音源に置き換えるだけでも曲っぽさが増して感動した。
さらに、楽器を追加してオケを分厚くしたり、弾き方のニュアンスを整えたり、録音音源を補正したり、全体を馴染ませたりしてくれた。
最初のバージョンを晒すのはまぁまぁ恥ずかしいのだけど、ヒロキさんのエエ仕事ぶりが比較できるので残しておく。
鈴木雅之さんのハモリ音程が難しいことを言い訳にしつつ、けっこう外していたのが補正されたことがわかってしまう。
ミュージックビデオの構成
ミュージックビデオの大まかな構成も「渋谷で5時」から拝借した。本家の2:46あたりの映像を見比べてほしい。
おおまか、デュエットで歌っているカットの中に、待ち合わせするカップルをインサートするもの。絵コンテ書くまでもなさそうだけど、とりあえず作った。
既存動画から静止画を抜いてGoogleDriveに入れると、半自動でスプシ上に並べてくれるGASを以前に組んだ。今回も流用で役立てられたので、需要があれば記事として書く。
ミュージックビデオの撮影編集
ミュージックビデオの制作にあたり、舞台や社交ダンスで培ったayaさんのスキルを活かし、鈴木雅之メイクを施してもらえた。ヒゲは可能な限り地毛を伸ばして、さらにマスカラでカサマシしている。
開店前の店舗で撮影していたら、「有名人でも来てるのか?」という雰囲気で遠目に見守って下さるおっちゃんもいた。こちとら一般人。
ayaさんの所属チームから社交ダンス衣装を借りたほか、常連のやっさんが新婚旅行の時に買ったという思い出のサングラスも拝借している。
カット編集はDavinciResolveを使い、しっかり歌詞を伝えるべく本人映像カラオケ風のテロップを付けた。
歌パートは軽くカラグレしているけれど、最後まで撮影していたインサート素材は、ほとんど撮って出しのまま使っている。
創作に人を巻き込むこと
ナレーションでのアイデアを踏襲して、ミュージックビデオでも常連さんや店員さんに出演していただいた。
本家に倣った「待ち合わせ」カットや、歌詞に連動するカットを撮ってインサートしている。例えば「店が始まる」の歌詞に合わせて、看板を営業中に裏返す映像を当てるなど。
マーケ界隈でも注目されるファンベースの定石として「コアファンを企画や創作に巻き込む」というのがある。
熱量を持ったファンが、「自分も携わった」と話題にしてくれることは、広告宣伝費をかけるよりコスパが良かったりする。
...というのが教科書通りの話ながら、企業やクリエイター様においては「俺が自分でやった!」と言えなきゃ気が済まない価値観もあったりする。
でもやっぱり、周りの人を巻き込んで多くの人が「俺も参加してる」と自慢できる状況は素敵だし、それを企てるのは楽しい。極論、誰が作者か分からないくらいが理想。
…そんな理想に近付こうと、どローカルで作品に参加いただいた。もちろん、ayaさんやヒロキさんなしには作品として完成しなかったけれど、今回はみなさんを巻き込めたことが成果だと確信している。
日本酒が自慢ながら、集まる人々もよい。神戸に来たらぜひ「スタンディングバル和in」に立ち寄ってみてね!