「つい」課金させるテクニックを解き明かす
ソシャゲーの類は時間の無駄だからやらない派だったのに、気が付けば私はHEROWARSを半年ほど継続プレイし、僅かながら課金までしている。
転んでもただでは起きないぞと、どんなテクニックを駆使してプレイヤーを獲得し、定着させ、マネタイズしているのかについて考察を試みる。
お客様と継続的なタッチポイントを保ちながら、フリーミアムやリカーリングにより収益化したい人に対して、何かヒントになれば幸い。
「私の方が上手くやれる」で気を引く
SNSやYouTubeの広告で、パズルゲームっぽい広告動画やバナーを見たことはないだろうか。
動画上ではドジな失敗をして、「私のが上手く出来るわい!」と思ってプレイしてみると、全然パズルではないアクションRPGがはじまる。もはや広告詐欺である。
内容とかけ離れた広告が生まれた経緯の記事は読みごたえあった。
とにかく、動画広告を見た私が「試しにプレイしてみよう」と思ったのは、「私の方がうまくやれるわ!」心理だった。
写真館の広告モデルは「ウチの子の方がカワイイわ!」という絶妙な抜擢をする話を思い出す。有能さを見せつけたい欲をくすぐるすることは、資格ビジネス「○○検定」でも見られる汎用的なテクニックかもしれない。
最初のおもてなしで引き留めて体験させる
ゲーム開始直後に、「広告詐欺かよ!」と言って辞めてしまう人もいるだろう。それでも、パズルゲームに時間を割ける余裕のある人がクリックするのだから、試しにアクションRPGをやってみる可能性は高い。
私を後押ししたのが、最初のチュートリアルで報酬を大盤振る舞いして引き留めること。フィードバックが丁寧で、課金しないと手に入らないエメラルドを大盤振る舞いする。最初はその価値に気付かないので、景気良く散財することに快感を覚える。
実世界で言うと、ぶらり来たお客さんを呼び止めて試食させつつ説明をするとか。部活紹介の時は先輩が優しく、入部したら厳しいような例が挙げられる。この方法が成功するかは一瞬の体験で心を掴めるくらい価値が作り込まれているによって左右される。
心理的欲求をくすぐって依存させる
HEROWARSの戦闘は基本的に自動で進められ、手動操作できるのは必殺技の発動タイミングくらいのものである。ただクリックするだけで負担が小さいからこそ、長く続けられる。
そういえば10年ほど前に「クッキークリッカー」が流行った。ただクリックするだけのゲームなのに中毒性が高く、ここまで削ぎ落として人を惹きつけるのかと感心した。
HEROWARSは、本質的にはクッキークリッカーと同じ。クリックして敵を倒し、得た資源を注ぎ込んで強化し、より強い敵を倒すサイクルに要約できる。
解説記事によるとクッキークリッカーは「①有能さへの欲求」「②関係性への欲求」「③自律性への欲求」を利用しているらしい。これはHEROWARSにも当てはまるだろう。
①有能さへの欲求がヒーロー強化の動機となる。特に②③において、プレイヤーとゲームという関係性のみならず、同じギルドに所属する他プレイヤーという生身の人間を使って欲求を突いてくる。この話は後述。
飽きた頃に意外性で集中力を回復させる
クッキークリッカーはものすごく中毒性があるけれど、今も継続しているという人は少ないだろう。10年前の流行った当時でさえ、1週間は続かなかった記憶がある。
これに対して、私が半年継続できたHEROWARSは何が違うのだろうか。倒して鍛えて倒すという予定調和に飽きた頃に、新しいゲーム要素を解放することに思う。ゲーム中盤はレベル10ごとに新しいゲームが出現する。
以前に読んだ「『ついやってしまう』体験のつくりかた 人を動かす『直感・驚き・物語』のしくみ」で紹介される「驚き」の事例で言うと、ドラクエではプレイヤーが飽きそうな中盤に「ぱふぱふ」イベントが登場する。
これは、ゲームに飽き始めたプレイヤーをあえて裏切ることで、集中力を取り戻して継続させることを狙っている。その効果を得るために、わざわざシリアスな世界観を刷り込ませておいて、突然ふざける。
そう思って振り返ると、HEROWARSにもいくつか裏切りがある。「主人公ヅラしてるオマエ、中途半端で活躍できんやん!」「メインゲームに見せかけて、キャンペーンこそオマケやん!」という裏切りは、ゲーム内の行動や目的を覆された。
「ついやってしまう」直感から物語まで
紹介した書籍の内容に関しては、以下の記事がまとまっている。単なるUIの話に終始せずプレイヤーの体験まで、①直感・②驚き・③物語の3レイヤーで語っている。1つ前の節では②の内容であった。
ゲームデザインは心理テクニックのオンパレードで、他のことにも転用きくのではと思っている。例えば、マップを埋めることは収集癖を刺激しているらしい。これは①直感かな。
往年の名作マリオは「コイン取ったら敵が踏めて、自然とルールがわかった」設計になっていて、①直感のデザインとして秀逸。これと比べれば、HEROWARSのチュートリアルは強制的にやらされている感はある。
HEROWARSにストーリー性はないものの、書籍で言う③物語にあたる要素としては、育成させるキャラクターの選択に自己投影が詰まっている。キャラクター50人のうちどの5人を1軍にチョイスするかに自分を投影する。
キャラクターの相性は「複雑なじゃんけん」に例えられる。相性を考えながら資源を投資するキャラクターを決める。詐欺広告から一周回って、キャラクター選択が複雑なパズル要素があるのは面白い。
生身の人間に連帯責任をとらせる
意外性を企てようとも無限に新しい要素を追加するのは現実的ではない。それを補うのが「ギルド」の仕掛けに思う。プレイヤーはギルドに所属し、最大30プレイヤーの組織で協力しながらゲームを進める。
同じサーバーにいる他のギルドと戦って順位を上げたり、連帯責任で事を成してアイテムを手に入れたりする。いつしか、コチラの方がゲームのメインになる。
古参が牛耳っていたらツマラナイところ、実はサーバー内には同じ時期に始めたプレイヤーが集まっている。自分もライバルも同じようなスピードで成長してゆくのは上手い設計に感じる。
もし、ギルドが無かったらどこかの段階でとっくに辞めていたかもしれない。人も業も知らないけれど、生身の人間の期待に応えたい気持ちが湧き、もっと頑張ろうとする動悸がわく。
損失回避バイアスを利用して課金させる
当初の私には、オンラインゲームに課金するつもりなんて無かったのに、結果として課金した。そこに利用されているのは「損失回避バイアス」だろう。
株で損切りが難しい心理のようなもので、ゲームで言うと「ここまで手間かけたんだから、いま辞めるなんて勿体ない」につけこむ。
具体例として、装備を無色→緑→青→紫→黄→赤と成長させるシステムがある。序盤は「無課金で全然遊べるじゃん」と勘違いさせておいて、紫に差し掛かると絶望的にコストが増える。一日中バトルしても強化できない。
そこに、200円払えばバトルがスキップできるVIPチケットが提示される。ゲーム開始直後だと「時間つぶしにゲームするのに時短に金払う意味が分からん」と思うところ、期が熟せば「めっちゃ快適にプレイできるやん!」と喉から手が出るほど欲しくなる。
フリーミアムで成功するには「無料でイケますよ」感を出して人を呼び、依存した頃に「やっぱ課金しないと無理」と思わせることは役立つだろう。そして、課金の額はバリエーションを持ち、最初のハードルはワンコインで超えられるのがよいだろう。
課金による差異を増幅させる
実世界の成長曲線は「上に凸」になっていて、成長すればするほど上達を感じにくくなる。最初はバリバリ成長するけれど、そのうち変化がなくなる。
これに対して、HEROWARSの成長曲線は「下に凸」で、レベルが上がるほど指数関数的に能力が伸びるチューニングがなされている。
厳密に言えばキャラクターの「レベル」は130でカンストするのだけど、その他に強化すべき要素として装備、スター、グリフ、アーティファクト、ペット、上昇、…などなど山ほど用意されている。むしろ「レベル130になってからがスタートだ」とも言われる。
様々な要素を強化すれば強化するほどレベルアップするためのコストは高くなるけれど、そのぶん伸びる能力も大きくなる。平たく言えば、底なしにお金を積めば積んだだけ強くなる。
かわいいは正義
ここまで書き下すと、すごく拝金主義に見える。それなのに、プレイしていて不思議といやらしさは感じない。その秘密は、グラフィックやモーションのかわいらしさにあると睨んでいる。
別の事例で「ネットワークに繋がったカメラでアナタの私生活をつぶさに観るプロダクト」があったら、気持ち悪くて導入したくないだろう。でも、aiboの形をしていたら、なんだか許せてしまわない?
もはや「かわいいは正義」はビジネスの定石である。いやらしいビジネスモデルも、「かわいい」を被せれば誤魔化せてしまう力がある。
まとめ
この記事では、バナーを踏む→試しにプレイする→生活に入り込む→課金するという一連の時間軸を持った体験に対応づけて、どんなテクニックが駆使されているのか考察を試みた。
前半は即効性のある欲求やインタラクションが多かったのが、後半にゆくほど社会性や自己実現のような大きな欲求に迫っている。
よく「UXデザインとは何か?」という議論がある。プレイヤーにどんな行動を起こさせるため、どんな気持ちにさせるかを企ててモノやサービスに落とし込む意味では、HEROWARSは立派にUXデザインをやっている。
嫌々でも目的達成のため使ってもらえる業務製品や家電と比べて、常にプレイヤーを魅了し続けなければならないゲームは進んでいるなと感じる。ゲームデザインなんて未経験だけど、もしかすると「家電に脳トレゲームを搭載する」なんて事があれば役立たないとも限らない。
一般論として「ゲームなんて時間の無駄」は一理あると認めた上で、UXデザインにおいては、あらゆる体験が糧となる。時間の無駄にしないようにも、パターンとしてストックして何かに活かしたい。