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企業が発信する動画で実際にあった注釈図鑑

インハウスの動画制作では、びっくりするくらい細々とした指摘を受けるという話を以前に書いた。

指摘があって、難なく修正できる場合は修正するけれど、現実的でないこともある。撮り直しは予算や納期に見合わないことがある。

そんな時、仕方なく頼るのが注釈である。だいたい、画面のスミッコに小さな文字で入れるアレ。

どのような物言いがあって、どのような注釈が追加されるのかを図鑑のように紹介する。ナンセンスなのも多いので、独断による「ナンセンス度」を星3つで評価してみた。

  • ☆☆☆:納得の上で注釈を入れている

  • ★☆☆:気持ちは分からんでもない

  • ★★☆:どちらかと言えばナンセンス

  • ★★★:ナンセンスすぎてアホかと思う

一覧を見て「なんじゃこりゃ?」と思った箇所だけでも読んで、鼻で笑ってほしい。



※本動画は202X年XX月XX日開催分のアーカイブです(★★☆)

おそらく、マトモな知性を持ったYouTube(LIVEでない)の視聴者は、リアルタイムでないと理解しながら視聴している。だいたいのSNSでは、投稿日時がタイムスタンプのように残るので確認できる。

でも、「視聴者がリアルタイムだと勘違いしたらどうするんだ?」と気にする心配性な人がいる。動画内で「先月発売した新商品」という言及があると、「5年後の視聴者が新製品だと誤認したらどうするんだ!」が心配になりだす。

私の感想:そんな奴おらんやろ。

対策として、動画の説明欄、冒頭の数秒、時期に関する言及があったタイミングで、アーカイブである旨の注釈を入れる。


※モニターの募集は20XX年XX月に終了しています(★★☆)

上の内容の派生で、イベント告知の類は特に神経質になる。「3年後に観た人から、イベントに申し込めないと苦情が来たらどうするんだ!」という心配にお応えして、明示的に注釈を入れる。

イベントの参加者募集コンテンツだと、後から動画そのものは修正できない。終わったら削除すべきだと主張する人もいる。

「こんなイベントがあった」「実績がある」ことをアピールすることで、次回の開催時に「行ってみたい」気持ちにさせる意味がある。

折衷案として、募集期間の終了後に「募集は終了しました」記載を説明欄の冒頭に追加する。このあたりは、管理している部門の考え方や、SNSの種類によっても違いはある。

どうやら大人の事情として、問い合わせ窓口に問い合わせが飛んで、情報表示の不備があると、社内で何かしらのペナルティー(?)があるっぽい。

SNSのコンテンツに不備があったとして、わざわざWebで窓口調べて問い合わせる人なんているだろうか?素直にSNSのDMで聞くんじゃないの?とは思う。


※本動画は日本語の字幕をご利用いただけます(☆☆☆)

YouTubeには、後から編集できる字幕機能がある。動画内に字幕を埋め込んだ方がデザインは整えやすいけれど、YouTubeの字幕機能ならではのメリットもある。

具体的には、後から動画をレンダリングしなおすことなく字幕の差し替えが効く(私にとってはコレが重要)とか、多国語翻訳に対応しやすいとか。

YouTubeの字幕機能を使った場合、せっかく字幕に対応しているのに、お客さんが字幕をONにしてくれないと見てもらえない問題がある。そこで、冒頭らへんに注釈を入れている。

私の感想:これは必要な対応だと思う。

Webに埋め込む際に、字幕を強制ONにさせる引数もあるので、様々な方法を併用するとよい。

https://www.youtube.com/embed/hogehogehoge?rel=0&cc_load_policy=1&cc_lang_pref=ja

YouTube埋め込みで日本語表示を強制ONにする呪文は「?」以降


※内ぶた・蒸気口カバー・つゆ受け・…は食器洗い乾燥機・食器乾燥機が使用できます(★☆☆)

家電を紹介する動画で「内鍋以外は食洗機が使えます」という発言に対して、「内鍋以外とは何かを列挙すべきだ」という指摘があった。

ビジネスオーナーとしては、複雑なお手入れが必要なパーツは少ないことを訴求したい。長々と列挙することで「多いな」という印象は与えたくない。

一方の取り締まる側としては、列挙しないのは誤認を誘導させていると心配する。

私の感想:どっちの気持ちも分かるけども。


※VOICEVOX:四国めたん(☆☆☆)

自動音声、BGMer、openstreetmap.orgなどなど。商用利用は許可されているけれど、クレジットを入れなければ利用規約の違反になってしまうものがある。

説明欄にも入れるのがカタイけれど、コンテンツが別の用途に流用されることも考えると、動画にも埋め込むのがカタイ。


※試作機で撮影しています(★☆☆)

可動部のある家電(例:洗濯機)は、使う人が怪我しないよう、ふたを開けた状態では動かないようにできている。だけど、原理や特長を説明するために、カバーセンサーを殺して中の様子を見せたいことがある。

そんな危険な製品だと思われないようにと、良い子は真似しないで的な意図で「試作機で撮影しています」の注釈を入れる。


※正しい手順はA⇀Bの順です(☆☆☆)

手順説明の動画撮影で、正しくはA→Bのところを、間違えてB→Aで進めて撮影していた場合に、後からなんとか誤魔化したい場合は、注釈に頼る。

かたい食材を先に入れると内鍋が傷付くおそれがあるので、野菜を先に入れないといけなかったなど。

私の感想:必要と納得した上で作業はするけど、配慮は求める。

制作ではなく依頼元の落ち度なのに、あんたが「修正」と呼ぶのはおかしいだろと言いたい気持ちが成長し過ぎて、別の記事になった。


※2個 焼き加減3設定の目安時間です(★☆☆)

調理家電を紹介動画で、「たったの5分でできます!」という発言をしてしまった場合に、条件によって加熱時間が異なる場合には注釈が求められる。

冷凍・冷蔵などの状態や、分量によって時間が長くなることがあった場合に「5分だと期待して買ったのに、もっと時間がかかるなんて詐欺だ!」という苦情が来ることを心配している。


※当社比です(★☆☆)

何倍軽くなったとか、小さくなったとか、たくさん入るとか。以前の機種と比較して良くなったと謳う時に求められる注釈。

呪文のように「当社比です」を入れていて、これによって何が対策できているのか、もはやよく分からない。

それでも「当社比です」は文字数が少ないからマシなほう。

何かしら実験をしてスペックを謳う場合は、その測定条件を列挙しないといけない。意地悪で小さい文字にしている訳ではないけれど、もはや読めるのは疑問。


※本動画内の資料の文字は小さいところがあります(★★★)

私が担当した中では、最もナンセンスだなぁと思う注釈。

必要だと言われて「読めるのか?」と思いながら追加した注釈は、別の人から「読めないじゃないか」と指摘される。そんなこと言われても、どうしろと言うのだ?

苦肉の策として、文字が小さい注釈があることを示すための注釈を入れる。

私の感想:正気か?

これで何が解決するのか謎なんやが、指摘者を立てて「俺はちゃんと仕事したぞ」という気持ちにさせてあげるために、ナンセンスな注釈を入れる。


企業コンテンツの裏側を想像する嗜みかたのススメ

企業が出すコンテンツを目にするシーンは、だいたい「宣伝を見せられている」という感想になるだろう。

でも、注釈の裏側にはこんなクソみたいなドラマがあると思うと、ちょっと面白くならないだろうか。制作者の苦悩、取り締まる人の仕事したった感が見えてくる。

逆に「この発言は注釈入れなくて大丈夫か?」「苦情くるかもしれないのに攻めてるなぁ」という感想もわいてきて、楽しみ方が増える。

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odapeth
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