蝉声
手に取る順を完全に間違えたと思った。
ページを捲る度に、この気持ちが強くなった。
『蝉声/河野裕子』
唯一知っていた(と言っても半分だけ)歌が載っているということと、最後の歌集ということと…。
そう、亡くなっているのだから。
この歌集は、閉じられていくであろう日にむけての日々の記録のような感じ。歌に詠まれた言葉が生活としてそのまま目の前に立ち上がってくる。
この歌集だけなんだろうか。この方だけなんだろうか。時代なんかも関係してくるんだろうか。他の歌集も同じように生活にぴたっと密着したものなんだろうか。
なんか、歌である程度の軌跡が追えてしまう与謝野晶子みたいだ、と。
背景はある程度分かって手に入れたはずなのに、ここまでドンとくるとは思ってなかった。甘かった…。
手にしてから十日は過ぎているのに、なかなか前に進まない。
髪…
するすると痛み伴う事もなく抜け去る様を我は許さず
昼日中ただ黙々と手櫛せり泣けば済むほど甘くもあらず
読み流せなくて、辛い。