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【書籍紹介】職場学習論(2010)

こんにちは、しょうごです。
本日の一冊は、「社員の育成って、何をすれば一番効果的なの? 」「誰かの成功体験ではなく、ちゃんと科学的に教えて欲しい…」そんな声にお応えする一冊です。
自社の社員育成にどこか納得感がない…と感じる方におすすめです!

・書籍名:職場学習論
・著者:中原淳(2010) 



■書籍紹介理由

私自身が「社員育成にどこか納得感がない…」とまさに感じているため。
部下や後輩もちのみなさんにとって「育成はいつも悩みの種だ」という方もいらっしゃると思います。
本書籍では、職場の社員育成において「他者がどう関わるのが効果的か?」が中心に述べられており、育成にお悩みの方に読んでいただきたい一冊です。

■書籍概要

「職場における学習」について、定義、職場学習の背景、定量・定性の調査方法をアカデミックに説明。その上で「他者からの支援の種類」「職場における能力向上とは」「能力向上に資する支援の種類」について説明しています。

■サマリ

他者からの支援の種類

本書では、職場における他者からの支援として『3つの支援』について説明しています。

  • 業務支援:業務を遂行していく上で直接的に関係してくる助言や指導

  • 精神支援:仕事の息抜きや、精神的な安らぎを与えてくれること

  • 内省支援:ある業務の経験や自分自身のあり方を客観的に振り返る機会を与えること

また「誰から支援を受けているのか?」について、本書では『上司』『上位者(先輩)』『同僚・同期』『部下・後輩』の4つの主語で、「業務支援」「精神支援」「内省支援」との有意性を相関分析しています。

職場における能力向上とは

本書では職場における能力向上について、以下6つの指標との相関性を調査しています。

1)業務能力向上
①業務を工夫してより効果的に進められるようになった
②仕事の進め方のコツをつかんだ
③苦手だった業務を円滑に進められるようになった
④より専門性の高い仕事ができるようになった
⑤自分の判断で業務を遂行できるようになった

2)他部門理解向上
⑥他者や他部門の立場を考えるようになった
⑦他者や他部門の業務内容を尊重するようになった
⑧他者や他部門の意見を受け入れるようになった

3)他部門調整能力向上
⑨複数の部門と調整しながら仕事を進められるようになった
⑩初めて組む相手ともうまく仕事を進められるようになった

4)視野拡大
11.より大きな視点から状況を捉えるようになった
12.多様な観点から考えるようになった

5)自己理解促進
13.自分のマイナス面を素直に受け入れることができるようになった
14.以前の自分を冷静に振り返られるようになった

6)タフネス向上
15.精神的なストレスに強くなった
16.精神的に打たれ強くなった
17.我慢することを覚えた

職場学習論.p72より

また6つの指標について、職種の違いによる能力向上の差についても調査しています。

能力向上に正の影響を与える支援

上で記載した職場における能力向上について、誰からの支援がもっとも正の影響を与えるか?という調査結果が、以下となります。

職場学習論.p103より作成

1)「業務支援」を最大に行なっているのは上司であり、その後は上位者(先輩)、同僚・同期、部下である。ただし、上司の行う業務支援は能力向上には結びつかず、能力向上に資する業務支援は同僚・同期によるもの。

2)「内省支援」に関しては、上司、上位者(先輩)、同僚・同期、部下など、職場の様々な人々から等しく受けており、能力向上にもつながる。

3)「精神支援」を最も行なっているのは同僚・同期であり、上司は最も精神支援を行っていない。ただし、能力向上に資する精神支援は上司によるもの。

このように、各支援によって「誰が関わることが、能力向上の観点で最も良いか?」が異なることがポイントとなります。
また、上司起点でメンバーの能力向上にどのように関わるか?を可視化したイメージが以下となります。

職場学習論.p115より作成

上司が直接的に関わることで正の影響を与えるもの、間接的に関わることで正の影響を与えるものは、異なる特徴があるため、支援によって誰が関わるか?(関わらせるか?)を変えることが重要になります。

業務経験に着目した能力向上

ここまで1対1での支援について説明してきましたが、職場組織が個人に与える要因についても説明します。

職場学習論.p134より作成

1)成功経験談は「能力向上」に資するが、組織レベルの信頼はその効果を正の方向に押し上げる効果を持つ。
2)失敗経験談は「能力向上」に資するが、組織レベルの信頼はその効果を正の方向に押し上げる効果を持つ。また成功経験談に比べて、組織レベルの信頼の効果が大きい。

職場における成功・失敗経験談の共有は、個人の能力向上に正の効果を発揮することが分かりましたが、組織レベルの信頼が前提となること。またその信頼は、失敗経験談を共有する際に特に重要になることが分かりました。
同時に、信頼だけが存在していても、個人の能力向上に資するわけではないことも分かりました。

■印象に残ったこと

メンバーの育成を、「誰が何をすることが効果的か?」を経験ではなく、アカデミックな調査のもと明らかにした点が、この本の偉大さと感じます。
特に、職場で部下を持つ立場として「上司がよく行う業務支援が、相対的に部下の能力向上につながっていないこと」一方で「精神支援は、上司が行うことでもっと能力向上に資すること」は、部下との接し方に示唆を与える非常に有益なアドバイスだと感じています。

また、昨今 "心理的安全性" が流行り言葉のように使われる中で、職場における「信頼」そのものが能力向上に資するのではなく、(経験談をシェアする)職場ぐるみの経験学習を進める上で「信頼」が大切なベースであるという点は、非常に納得感を感じています。

人の育成は、時に3K(勘・経験・気合い/根性)なんて言われることもありますが、勘や経験とあわせて "科学する" 切り口を持つことの大切さ・面白さを感じた、そんな今日の一冊でした。


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