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【書籍紹介】若年就業者の組織適応(2020)

こんにちは、しょうごです。
本日は、新入社員の組織適応を科学する一冊です。
「思ってたのと違った…」という理由で、新入社員がモチベーションが下がっていたり、なんか転職しそう。というお悩みを抱えている方におすすめです!

・書籍名:若年就業者の組織適応
・著者:尾形真実哉(2020) 



■書籍紹介理由

身の回りで「最近の新卒はー」とか「俺が新卒の頃はー」と言った話をよく聞き、新入社員の接し方に悩んでいる方を多く見かけるため。
新入社員は誰も通る道で経験先行になりがちですが、新入社員の成長を科学したいと思い紹介です。

■書籍概要

若手就業者の組織適応について、心理的適応課題の "リアリティショック" について分析し、リアリティショックの内容、組織適応に及ぼす影響を量的に分析しています。またリアリティショックの解消をサポートする他者として「上司」「同僚」「同期」の役割や、若手就業者自身による組織適応を促進する行動(プロアクティブ行動)を喚起する要因についても説明しています。

■サマリ

【用語】組織適応とは

知識的側面と感情的側面の組み合わせで、組織適応を考えています。

  • 知識的側面は、組織社会化*を「職業的社会化」と「文化的社会化」に分類する。

  • 感情的側面は、「組織(情緒的コミットメント)」「離職意思」「仕事のやりがい」の3つの概念で考える。

若年就業者の組織適応(P27)より

*組織社会化とは
新しく組織に加わったメンバーが、組織の目標を達成するために求められる役割や知識、規範、価値観などを獲得して、組織に適応していくプロセス

日本の人事部より(https://jinjibu.jp/keyword/detl/502/

【用語】リアリティショックとは

本書籍では「組織に所属する前に形成された個人の仕事への期待と、組織のメンバーになった後の仕事に対する知覚の相違」と定義しています。

リアリティショックの発生メカニズム

入社前の期待の分類について
リアリティショックが発生するメカニズムには入社前段階と、入社後段階の双方が密接に関連しています。
入社前段階では、多様な情報や教育・トレーニングにより様々な情報を得て、入社後に対する期待を形成することになります。

入社前の期待の分類
■自己:自己の能力、信頼の獲得
■タスク:職務内容、多忙さ
■職務環境
・会社:方向性、社風
・職場:フットワークの軽さ、意思決定の迅速さ
・人間関係:関係の良好さ、受容
■報酬
・内的報酬:自己成長(知的、精神的、技能的)、自立
・外的報酬:給料、出世、出会い

以上のような入社前段階に形成された期待と入社後の組織現実の相違が、リアリティショックを形成させることになります。

リアリティショックの種類

インタビュー調査は若年ホワイトカラーを対象に行われており、その多くがリアリティショックを感受していた組織現実として、以下を取り上げていました。

■同期同僚ショック:同期の能力、同期との人間関係、職場の同僚との人間関係、職場の同僚の能力
■仕事ショック:仕事上与えられる自立性、仕事から得られる成長機会、仕事から得られる達成感
■評価ショック:給料、昇進機会
■組織ショック:会社の雰囲気・社風、会社の将来性

リアリティショックの個人的・組織的対処

リアリティショックへの対象方法としては、入社前・入社後の段階において、「個人」「組織」の切り口で対処が必要と言われています。

若年就業者の組織適応(P122)より

■個人的アクション
・入社前:積極的な情報探索行動(インターンシップやOBOG訪問)
・入社後:成長機会と捉え、対処行動に取り組む。他者(上司や先輩)からの援助
■組織的アクション
・入社前:現実的職務情報の事前提供。導入時研修。
・入社後:組織内キャリアカウンセリングなどのケアリングや教育制度、メンタリング制度などの組織適応施策の充実。再動機づけ(職務再設計や再配置)。

組織適応エージェント

本書では、若年就業者の組織適応の役割を果たす存在を「適応エージェント」と呼んでいます。
適応エージェントの果たす役割としては、入社後の予期的社会化の程度を高めることと、入社後の多様な適応エージェントから得られるサポートの双方を状況に合わせて提供することが重要と言われています。

  • 予期的社会化の重要性
    入社前の仕事や会社に対する事前知識は、会社への愛着や職業的/文化的社会化を促進し、離職意識を低減させる。

  • 同僚の重要性
    日々仕事を共にする同僚は、若年ホワイトカラーの組織適応に重要な役割を果たす適応エージェントである。

  • 情報の信頼性の重要
    職場のコミュニケーション風土や情報の信頼性は、若年ホワイトカラーの文化的社会化や離職意識に影響を及ぼす。重要な点はコミュニケーションを多く取れば良いわけではなく、そこで行き交う情報の質(信頼性)。

  • ジャスト・イン・タイムのサポートの重要性
    円滑な組織運営のためには、適当なタイミングで、適当な組織エージェントを提供することが重要。

若手就業者のプロアクティブ行動を誘発する要因

ここまで若年就業者の組織適応を促進する個人・組織の関わりについて説明しましたが、若年従業者自身がどのように行動するか?に着目します。
若年就業者が自ら創意工夫し、積極的に周囲に働きかけることを「プロアクティブ行動」と呼称します。また本書ではプロアクティブ行動として、以下4つを定義しています。

  1. 革新行動
    古いやり方に固執せず、積極的に新しいアイデアを提案したり、実行する行動。自ら新しいことを実践してみることで、多くを経験することができ、経験から多くの情報や知識を獲得することが可能となり、組織適応が促進される。

  2. ネットワーク活用行動
    組織内の他者との関係性構築。ネットワークから得られた情報を仕事に活かす若年就業者の行動。

  3. フィードバック探索行動
    自分自身の仕事や役割に対するフィードバックを上司や同僚、仕事それ自体から積極的に求め、そこから仕事や会社に対する多様な情報を得て、内省する行動。

  4. 積極的問題解決行動
    適応課題に直面してもそれを積極的に乗り越えていく行動。

本書では、プロアクティブ行動を喚起する要因を意図的に提供することで、組織適応を促進し、定着率を高めることが可能と説明しています。
その中でも、上司が果たす役割として、以下が重要と説明しています。

  • 内容とタイミングを意識し、若年就業者に有意義なフィードバックを提供すること(フィードバック探索行動を喚起)

  • 若年就業者に、自立性や重要性の高い仕事を割り当てる。

まとめ

  • 若年就業者の組織適応課題には多様性があり、複雑である。組織はそれを理解してサポートを提供することが重要。

  • 若年就業者の組織適応にはそれぞれ多様なエージェントが求められる。とりわけ、予期的社会化(入社前の組織適応の促進行動)と上司、同僚は若年就業者の重要なエージェントになる。

  • 若年就業者自身の行動が重要になる。

  • 若年就業者をどのように仕事に携わらせるかが重要になる。

  • 若年就業者を取り巻く環境が、彼らの組織適応に重要な影響を及ぼすため、組織には組織適応を促進させるための環境整備への尽力が求められる。

■印象に残ったこと

新卒育成、ここまで考えないといけないか…というのが率直な感想です。
と同時に、労働人口減少、新卒採用の売り手市場が進む中で、ここまで考えないといけないんだとも同時に感じています。

「新入社員のサポートは、入社後に天塩にかけて時間をかければ…」という発想がつい浮かんできそうですが、時系列毎のサポート、適応エージェントの種類など、いつ・誰が・どう関わることが適切か?を科学することで、なんとなくで終わらないことの深さを学んだ、そんな今日の一冊でした。


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