北村直也『男はつらいよ寅次郎夢枕』を語る
北村直也さんがFMラジオ「ムービーボヤージュ」で『男はつらいよ寅次郎夢枕』について語っていました。
(町田和美)いい天気ですね。北村さん、今日もよろしくお願いします。スタジオ収録はおよそ3ヶ月ぶりってことで、さっきスタッフに聞いたら。
(北村直也)こちらこそよろしくです。びっくりしますよね。こうしてまだ距離はありますけど。
(テンパープラザー広瀬)ディスタンスきっちりと。
(北村直也)むかしALFEEの曲で『星空のディスタンス』ってのがありましたけれども。80年代の曲で、すごく出だしがカッコいいっていう。
(町田和美)ともかく、しっかり感染予防しながらね。
(北村直也)そうですね。大事なことです。さて、今日は「男はつらいよ寅次郎夢枕」という、10作目の作品です。
(テンパープラザ広瀬)もう10作目になるんだ。
(北村直也)はい、一貫して山田洋次監督のメッセージとして、自立を目指す女性の心の葛藤、前回は不一致という言い方をしましたけれども、その揺れ動く気持ちの変化を上手くとらえているんです。
(町田和美)やっぱり監督さんの伝えたいことが色濃くあるような。
本当の優しさについて
(北村直也)その通りですね。女性の気持ちや強い思いに時代が追いついていかないことへの一種のレジスタンスなんです。それを映画を通して強烈に伝えようとされています。今回の八千草薫さん演じるお千代さんも過去ご主人との離婚によって別々に暮らしているお子さんがいるんですが、第8作の「男はつらいよ寅次郎恋歌」の池内淳子さんと違うのは、その子供さんにすら思うように会えない辛さを途中で描こうとしておられるところなんですね。
(町田和美)今回もつらい話が。
(北村直也)つらいですよ。寅さんのコミカルさが余計にその物悲しさを浮き立たせている、本当にこのあたりは流石だなと思います。
(テンパープラザ広瀬)やっぱり山田洋次監督さんならではなんですね。
(北村直也)辛いってことを直接表現せずに、笑いのネタを持ってくることで逆に物悲しさが際立つっていうか、ある種この映画ではパターン、いわゆる歌舞伎の世界で言う型(カタ)なんでしょけれど、それがワンパターン化せずに、どれもきちんと違う色を放っているんです。ただ繰り返しになりますが、時代がどれだけ移り変ろうとも、根強く残る女性の不平等感に対して異議を唱えている、そんな気がしますね。
(町田和美)時代ねぇ。
(テンパープラザ広瀬)昭和だもんね。
(北村直也)少なからず時代の流れは否めないですね。でもこの作品の中でもありますけれど、お千代さんは言うんですよ。「寅ちゃんやとらや(くるまや)の皆さんの優しい気持ちがうれしい」って。とらやの皆が気を遣って、お千代さんのために「子供」を連想するような言葉を使わないようにするんです。でもそこはお約束で。
(町田和美)あ、いつものやつ!
(北村直也)はい(笑)。逆に新聞の記事で子供を置き去りにして家出した親の話が出ていて、それに対して博が「けしからんなぁ!」とか言うもんだから、寅さんが強引に話題を変えようとテレビを付けろって話になるんですが、テレビはテレビでその記事の続きでニュース番組でそのけしからん親が逮捕されたとかで。
(テンパープラザ広瀬)どんどんね、悪い方へ行っちゃうんだ。
(北村直也)そう、どんどん墓穴を掘るんですよ(笑)。でお千代さんは胸が詰まって泣き出すんですよ。で、ここで山田監督が本当にうまいなぁと思うところなんですが、暴走する寅さんの影でお千代さんが泣き始めるんですけど、それをさくらが静止するんですよ、「お兄ちゃん!」って。
(町田和美)はい。
(北村直也)で、ほんのわずかですけど、それでも寅さんは暴走を続けるんですよ。この作品では童話を歌うんですけどね。結局は寅さんがお千代さんの涙に気づくんですけど、そこにタイムラグが生まれましてね。寅さんがまさに「ハッ」となるんですよ、その時間差があるために。
(町田和美)気づくのが遅くて「申し訳ない感」が出るんだ。
(北村直也)そうなんですよ。見てる観客も、しまったってなるんです。しかもここで音無の沈黙がなんと12秒もあるんですよ。
(町田和美)え!そんなに。
(北村直也)長いですよ。その沈黙を破って、さくらが「無理に呼んで悪かったわね」って泣き出したお千代さんに謝るんです。でもお千代さんは悲しくて泣いてるんじゃなくて、優しくてそれが本当にうれしくて泣いてるんだと言うわけです。
(テンパープラザ広瀬)わかるなぁ。優しいが故になんですね。
(北村直也)その通りですね。本当にうれしいんですよ。迷惑とかじゃなくて素直にうれしいんです。だから感情が溢れ出すんです。本当の優しさに触れたことで完全に心を開くんですね。ここに生まれたのが「真の信頼」なんです。この人たちの前なら「自分」を出していいんだって思った時に、人間は感情を押し殺すことなく涙と一緒に本当の自分ってもを出すんです。
(町田和美)本当の優しさに救われたんですね。
(北村直也)寅さんの色恋ネタだけじゃなくて、「男はつらいよ」という映画の中には人間の本質がきんと描かれているんですよ。
渾身のアドリブ
(北村直也)ただこの映画には、私が一番好きなシーンが1つあって、それがとらやのみんながアドリブをかわすシーンなんです。
(テンパープラザ広瀬)アドリブ?
(町田和美)よくお聞きしますよね、渥美清さんがアドリブを云々ってお話は。
(北村直也)そうなんですよ。でもそれって後日談で、実はあれは誰々のアドリブだったって話がほとんどなんです。ただ、今回この作品の1シーンにあるアドリブはもう見てておかしくておかしくて(笑)
(町田和美)え?わかるの?
(北村直也)はい、はっきりわかります。とらやで恋ってそもそも何なんだろうって話をするわけですよ、団欒の中で。でそれが次に幸せの話になって、幸せだの不幸せだの、どんどんヒートアップしてくるんですけど、寅さんがちょっと暴走しちゃうんですよ。
(北村直也)叫んじゃうんですよ(笑)
(町田和美)叫ぶ?
(北村直也)はい、「そーだよぉーーーーーーー」みたいな感じで。言った渥美清さん自身も「やり過ぎたかなこりゃ。NGだな。」みたいな決まりの悪そうな顔を一瞬見せるんですけど。結局カメラ回ってるもんで、そのまま流されるんですが、もうさくらもリアルに笑ってるんです。
(テンパープラザ広瀬)そんなに?
(北村直也)そんなになんです(笑)次のセリフが「あら先生、何か御用ですか」ってのをさくらが笑いながら言うんですよ。それをおばちゃんがわからないようにコツンって腕をこづいたり、博が怖い顔で嗜めるシーンがあるんですけど、倍賞さん本当におかしかったんだって。それがNGにならずにそのまま使われているんですよ。
(町田和美)へぇ〜〜、見てみたい!
(北村直也)是非見てください。本当におかしくて笑っちゃいますから(笑)
(町田和美)そんな、ほろっと来てそしてアドリブも楽しい「男はつらいよ寅次郎夢枕」は、大阪ステーションシネマ他で【7/3(金)~7/16(木)】に期間限定で4K上映されます。北村さん、今日もありがとうございました。来週もよろしくお願いします。
(北村直也)はい、ありがとうございました。
<書き起こし終わり>
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