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3月23日 日記。

疲れた。バイトが終わった。
今日も今日とて何も起きなかった。強いて言えば、喫煙所で犬から降りる時に少し足をくじいてしまったことくらいだ。くだらない。
今日はお客さんが7万人きて、レジが凄い混んでいた。土曜日だから仕方がないと、社員の田山さんは拡声器に向かって愚痴をこぼしていた。田山さんは不機嫌になると、やたらとホチキスをカチカチしだす。せめて何か留めてくれとは思うのだが、怖くて近づくことができない。前に田山さんがホチキスをカチカチをしている時に、ちょうどホチキスで留めて欲しい資料があったので、留めてもらえますか?と聞くと田山さんはありがとうと笑って、ホチキスを窓の外に投げてしまったことがある。それ以来不機嫌になった時の田山さんには近づかないようにしている。ホチキスがないと困るからだ。
今日の田山さんはやたれ不機嫌だ。先程から何度もトイレ〜〜と言って、レジに並ぶ7万人の客を前に店を出てしまう。本当はトイレじゃなくて、ホチキスを探しているのだろう。何回目かのトイレから戻ってくる際に、パンコーナーにあるトングを持ってきて、僕の隣でカチカチカチカチカチカチしている。
田山さんは拡声器を使って客を誘導する仕事をしている。二台あるレジの中央に立って、フォーク型に並ぼうとする客を制止する役目だ。田山さんは昔レジを打っていたらしいのだが、操作があまり得意ではないようで、過去に4000万の違算を叩き出したことがあるらしい。違算と言ってもプラス4000万だったので、店長は表面上田山さんをしかりつつも、実際はガッツポーズモノだったらしい。うちの店に4畳半の冷蔵庫があるのも、その4000万の余波だと聞いたことがある。しかし、プラス4000万を出す男は、いずれマイナス4000万も出す男である。という東京支社の支店長からの有り難いお言葉により、田山さんはレジから外されることになった。しかし影の功労者でもある田山さんをクビにするのも何だかなということで、拡声器を使って客を誘導する仕事を任されたらしい。最初は田山さんも困惑を隠せないようだったが、神の悪戯か、これが彼の天職だったようで、彼が拡声器を握ってから実際に店がかなり回るようになった。
彼の声はよく通る。めちゃめちゃに通る。
以前4万人の客がレジに並んだ時、最後尾の客の鼓膜が破れたことがある。その時田山さんは、外れた〜〜と悔しそうにしていて、不思議な人だなと思った。
そこ右に少し寄って下さい、財布を出してお待ち下さいと、叫びながら、未だに田山さんがトングをカチカチカチカチしている。あまりにカチカチカチカチうるさいので、何とかしなければと思い、僕は田山さんが持つ拡声器に油性ペンで、うさぎさんマークを書いた。田山さんは、おお、いい文章だな。と満足そうな顔をしてトングを遠くに投げてくれた。客のいない方に投げる所に彼の育ちの良さを感じた。トングはホチキスと違って店に何個でもあるし、そもそもパンは包装してあるので。よかった。

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落合諒です。お笑いと文章を書きます。何卒よろしくお願いします。