7月23日 喫煙大国
どこもかしこも喫煙者で溢れている。
かつての東京駅の喫煙所を思い出す。4 畳半の中に押し込められた我々喫煙者は、 肩を寄せ合いながら小さくなって、副流煙で一杯の真っ白な部屋の中でタバコ を吸っていた。副流煙を吐いて、誰かの口から出た副流煙を吸う。あの頃の東 京駅の喫煙所を何万倍、もしくは何億倍にもしたのが、現在の日本である。 僕達喫煙者はストライキのようなものを起こした。それは禁煙者達が一斉に僕 らを排除しようとしたためだ。決められた場所で喫煙しているのにも関わらず、 白い目を向けられ、その内灰皿が撤去された。タバコは販売されているのにも 関わらず、吸う場所がない。 最終的に政府は灰皿そのものの生産中止を命令し、喫煙者を根絶しようとした。 ここ数年喫煙所はもちろんのこと、灰皿すら見かけなくなった。 がしかし、喫煙者はめげなかった。我々は強い意志を持ってタバコを吸ってい る。灰皿が無いのなら、作ればいい。いや、作る必要すら無い。 この国そのものを灰皿にしたのである。
全国のヘビースモーカーから、1 日に1本細いタバコを吸うギャルまでもが一斉 に立ち上がり、そこら辺でタバコを吸い始めたのだ。 タバコを売るチャンスだと捉えた、JT かなんかが、タバコ界のキムタク的なハ リウッド被れのお兄ちゃんを起用して、「路上で吸うタバコかっこいい」みたい な広告を打ち出し、偏差値30以下の若者の中で、路上喫煙が爆流行りした。 我々喫煙者が日本を灰皿にしてから、交通事故が急増したと言われている。ど っかの専門家が考えるに、副流煙が霧のように漂っているせいで、前方が見え にくくなったことが原因とのことだ。知ったこっちゃないが、確かにこの国は 早朝の箱根のように、モヤがかかってしまっている。単純に 2 メートル以上先 が見えないのだ。
どこに行っても副流煙。とんでもないストレスに襲われているタバコを吸わな い人達は、最近喫煙外来というものに通っているらしい。いっそ、タバコの良 さを知り自分も喫煙者になることで、タバコへの嫌悪感を拭いストレスを軽減 しようという考えらしい。阿保そのものである。 頑固としてタバコを拒絶するもののために、政府は禁煙ルームというものを全 国各地に設置した。唯一モヤがかかっていない、クリアなスペースである。 一度、タバコを吸わない友人と遊んだ時、「逆一服したいから付き合ってくれな
い?」と禁煙ルームに付き添ったことがある。 辺りがしっかりと目視できるというのが久しぶりだっため、なんだか新鮮な気 分になったのを覚えている。 禁煙ルームの外は真っ白な副流煙で覆われていた。外から黒い影が迫っている のが分かった。バンっと禁煙ルームの扉が開き、ヒステリックな女性がハンカ チで口を押さえながら部屋に入ってきた。 外から、喫煙者達が女性に白い目を向けているのが分かった。
僕が通っている会社にも禁煙ルームはある。 タバコを吸わない者達は、勤務中にも関わらずオフィスを抜け出して、禁煙ル ームで休憩をしていることがある。最近ウチの会社でタバコを吸わない者だけ が、休憩時間街で休めるのがおかしいと問題になっている。私もそう思う。 かつてオフィスでの喫煙が禁止されていた頃、私はよく喫煙室にかけこんでい た。一人の禁煙者の方に、「ずるくないですか?」と言われたことがあり、彼は 何を言っているだろうと疑問に思った。何かを手にしたくば、何かを失わなけ ればならない。世の理、等価交換である。我々は 450 円や健康を売り払うこと で、タバコを吸う時間を得ている。ただ健康が欲しく何も失う気がない彼に、 何故休む時間が必要なのだろうか。 現在でも同じことを思う。何故、タバコを吸わないものが禁煙ルームなどにか け込んでいるのだろうと。そして我々喫煙者は健康を売り払いながら、何故仕 事をしなくてはならないのだろうか。甚だ疑問である。
ここ数年、コンビニではタバコと共においしい空気が売っている。 見た目はタバコと同じなのだが、入っているのはニコチンやタールではなく、 おいしい空気だという。禁煙者達は、450 円も払って、うまい空気を吸ってい るらしいのだ。阿保である。 ヘビーノットスモーカー程、酸素濃度が高いおいしい空気を吸うそうで、一度 に何本も吸うと友人から聞いたことがある。中毒かと思う。
僕は明日、会社の上司に禁煙ルームの撤去を申し出ようと思っている。 禁煙者達が近くにいると、綺麗な空気のニオイが服に染み付いて、それだけで 不快なのだ。かつて僕は、漂う空気のニオイに気がつくことは出来なかったが、
この副流煙だらけの今の日本では、無臭はかなり臭う。
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落合諒です。お笑いと文章を書きます。何卒よろしくお願いします。