3月20日 菜の花
病院の中の売店でバイトをしている。店の前でボランティアのおばちゃん達がわいわい騒いでいる。無給で病院のお手伝いをしているらしい。
彼女達は僕を息子のように可愛がってくれる。髪をペタペタ触ってきたり、あんたのお笑い見に行きたいから場所を教えて、背筋伸ばしてシャキッとしなさい、私と漫才しようなど、愛すべき鬱蒼しさまで母親のようで、あーだこーだと話しかけてくれる。
おばちゃん達がハシャイでいたので話を聞いて見ると、これから病院の裏にある山へ菜の花を取りに行くというのだ。素敵だ。あんたもいるかと聞かれたので、是非とお願いをした。菜の花は黄色の花びらが幾重にも連なっていて、甘酸っぱい匂いがする。帰り道に花瓶でも買って、キッチンに置こうと想像するとまだまだ働ける気がした。
おばちゃん達はサンバイザーをつけたり、軍手をしたり、大きなビニール袋をフワフワさせたりして、山へ向かっていった。
それから1時間後おばちゃん達が店に来て、僕に袋一杯の菜の花をくれた。キッチンに飾るねというと、食べるんだよ言われびっくりした。
袋の中を見ると花という花が一輪もなく、濃い緑の葉っぱが敷き詰められていた。どこが菜の花なのか分からなかったが、気持ち良く受け取った。
バイト先の主婦達に調理法を聞き、今日は菜の花のおひたしを作ることにした。
最近は、スタンドを上げたままの状態で自転車を思いっきり漕いでいるような日々を送っている。ような気がする。よく分からないけど。
必死でペダルを漕いでいる感覚はあるのだが、感触としては宙を掻いているような感じだ。一向に景色が変わらない。進退を一切感じない。誰かが後ろから押してくれて、物凄い速度で回るタイヤが地に着くのを待っていたんだけど、どうやら違うみたいだ。
前傾姿勢で漕ぎまくってふとした時に前にグイっとなって、ドピュンーーンと自分きっかけで進めるのかもしれない。そこからは恐らく止まることが許されないような気がしている。
自転車を漕ぎながら、あれも違うこれも違うとやる方法もあるみたいだが、その機は逃してしまったようで、どうにもこうにも。もうふくらはぎパンパンにして行ける時に行くしかなさそうだ。その方が確実な気はしているよ。
バイト先のお客さん、店員、皆が頑張ってねと言ってくれる。達筆な字で「目指せM-1」と書かれた年賀状を、病院に僕宛で送ってくれるお客さんもいる。
僕は人から言われる「頑張ってね」という言葉を舐めていた。
でも最近、皆本気で言ってくれていることに気がついた。僕に「頑張って」というのは体力がいるようで、多かれ少なれそこに密度みたいなものを感じる。
ああ、菜の花のおひたし、まだ味が良くわかんねえ〜〜。
けど旨いよ。ありがとう。
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落合諒です。お笑いと文章を書きます。何卒よろしくお願いします。