四季の君
あなたが、誰かが そばにいてくれたなら
私は あたたかい涙 流すのにな。
最近、涙が出てくるようになった。恨むことに疲れて、やって来た町は、冬は寒く、夏は暑く。それでも両親からの手紙を、心の奥にピンでとめて、宝物みたいに携えて。私は決してさびしいところに来たんではないと、言い聞かせていた。
一人の場所を見つけるのはうまくて、顔にも出ない陰りは、心のどこかで雨が降っているな、と思わせた。ぼうっと、浪人して入った大学の図書館で、授業中の友達を待つとき。ああ私の居場所は一体どうしてこんなに静かなんだろう? 外は桜が降りやまぬいい陽気で、どうして館内の空調なぞに喉をやられているんだろう?
それでも私は幸せで、それがとても悲しかった。
故郷に置いてきた片思いの人は、いつかこんな風に、私を思い出してくれていたのかしら。
こんな寂しくてどうするんだ。これじゃ物語もえがけやしないじゃないか。
日々力を失くしていく技術に、目をそらしたいほどだった。もっと描ける。自分が上を向きさえすれば。自分を温めることができれば。
つら。
指からシャープペンが離れて、転がっていく。私はきっと、この時間と、戦わなくてはならない。小さなころから、ずっとずっと。そして大人になった今も、この時間は止まらずに動いている。なんて残酷なんだろう。残酷? まさか。私の中の寂しい時間が、埋められるほど、私が笑えていればいいだけだ。この時間を誰かとの時間に変えて、成長すればいい。
ペンを取って、私はまた物語に集中しようとする。よかった。ここは、きれいな居場所だ。私は子供の頃とは変わってしまったけれど、今でもまだ、物語を追っている。それだけで私は、本当の、しあわせな、空気の中にいれるんだ。
ありがとう。
そう小さくペンとノートと小説に、お礼を言った。