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Vancouverの書店レポvol.5/写真集に特化した書店が語る写真の魅力

水上バスで15分。運営はドネーション

 バンクーバーのダウンタウンと対岸のノース・バンクーバーをつなぐ水上バスの窓からは、高層マンションと小さな島々、という景色が広がる。片道約15分程だが、最前列に座る子どもたちと同じように、ついボーッとその風景を眺めてしまう。

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 水上バスを降り、ちょっとした路面店が並ぶアーケードを抜けると、ひときわ目立つ不思議な形の建物が見えてくる。それが「THE POLYGON GALLERY」だ。

②海の向こうにダウンタウン


②ポリゴンギャラリー

 ギャラリーにしては想像以上に大きく、すべてドネーションで運営されていることを知った時は驚いた。先日取材した『Spartacus Books』もそうだったけれど、一部のバンクーバーの人たちの、文化やアートへのサポートはとても厚い。

 このギャラリーの2階の1角にあるのが、写真集に特化した『The Polygon Bookstore』。家族で初めて訪れたとき、ほんの5m×15mほどのスペースに所狭しと並んだ写真集のラインナップを見て、強烈な”個人”を感じた。誰かの”好み”が自由に、丁寧に、この空間をパッケージしている印象を受けた。

③外観

私はね、amazonと競争しているんですよ

「もうね、私写真集が大好きなの。家にも、何冊あるかわからないほどコレクションしてるわ。ついこの間も同じ写真集を二冊買っていることに気づいて、まあ、そのくらいたくさんあるってことね」
 ブックセラー&マネージャーとして30年以上のキャリアを持つDianeは、ハスキーな声でそう笑った。

⑦ポートレート

「私自身もフォトグラファーで、エミリーカー美術大学(カナダ西海岸の美大の名門)で写真を教えながら、この仕事を続けてきました。2年前までは、3ブロック先の古いビルで、今よりもずいぶん小さなスケールでやっていたんですよ」
そこから資金を集め、ギャラリー名も変えて新築、今に至る。

ここの本たちはどういった基準で選ばれているんですか?とたずねると、「just me」と一言。
「ロンドンのMac booksやstanleybarkerなど、小さいスケールの出版社としょっちゅうやりとりをしています。私はね、amazonと競争しているんですよ。なるべくアマゾンで買えないものを取り揃えたいから」

 websiteでは、やりとりのある出版社のリストを見ることができた。Dianeの眼にかなったレアな写真集たちの購入も可能だ。「日本の出版社とも昔やりとりをしたけれど、あー、名前が出てこない。とにかく輸送費が高くて、仕入れるのがなかなか難しいのよね」と笑う。
「Daido Moriyama, Araki はここでも人気です。あとは女性のーーそう、Rinko Kawauchi。それから、Kohei Yoshiyukiは知ってますか? ここでエキシビジョンもやりました」

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他にはどんな写真集が人気ですか?
「Robert Frank, Soul Leiterは鉄板ね。バンクーバーの写真家だと、Jeff Wall、Rooney Graham、Stan Douglas。あとはこの二冊の写真集が最近人気かな」

⑤2冊

 ときにはそんなフォトグラファーたちを呼んでワークショップも開いている。「160人まで収容可能で、例えばDanny Lyonのときは世界中から応募が殺到しましたね」。そのカタログも自分たちで作成・出版・販売している。
「ぜひこれを持って行ってください」と、過去のエキシビジョンのカタログを3冊も授けてくれた(写真に写っているのは全て展示会のカタログ↓)。

⑥カタログ

写真は写真集で見たい、そして所有したい

 コアな写真集コレクターは世界中にいる。バンクーバーにも、少ないけれど熱烈な写真集マニアがいるのだそう。
「私たちの顧客で、しょっちゅう『Diane、何か新しい本入った?』と電話をかけてきて、『何冊か入ったわよ』と伝えると『それ全部ちょうだい』って。いつもそのパターンなんです」
「コレクターといえば、あなたインスタグラムは見る? おすすめのインスタグラマーが二人いるの」と、バックヤードにケータイを取りに行ったDiane(もしやふだんは持ち歩いてない?)。教えてくれたのは『@pier24photography』と『@dariushimes』。

 「@pier24photographyはサンフランシスコにある非営利の美術館。写真集コレクターたちが自分の本棚と最初に買った写真集、一番最近読んだ写真集、これから買いたい写真集などを一問一答で答えています。@dariushimesはロンドンのオークションハウスchristiesで写真部門の責任者を務めるdariushimesが、おすすめの写真集を自宅から(ときにはオークションのプレビュー会場から)紹介する内容。どちらも写真集愛に溢れていて、いつもチェックしているんですよ」

 ふと思った。今はインスタグラムでいくらでも美しい写真(画像)を見ることができる。では、写真集の、引いては写真の魅力ってなんなんだろう。
「やっぱり私は写真集が好き。写真は写真集というスクリーンで観たい、そして、それを所有したい。写真って想像力を問われるし、世界の、違った新しい見方を教えてくれる。それこそ写真の力だと思う」
「写真はここに触れますよね」と、ハートを指して言った。

「最後に写真を撮らせてもらえますか?」「もちろん、どうぞ」「いや、あなた込みで」「え!それ必要ですか?」そんなやりとりの後、スッと店内の絶妙な位置に立ち、こちらをまっすぐに見る眼差しは、フォトグラファーの”撮る眼”でもあり、見事に”撮らされた”感もあった。

💡SHOP DATA
101 Carrie Cates Court North Vancouver, BC
https://dev.thepolygon.ca/shop/bookstore/
Instagram:https://www.instagram.com/polygongallery/
Facebook:https://www.facebook.com/polygongallery


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