Vancouver書店レポvol.9/ オープン2日前にカナダ全土がロックダウン。お店のデザインもテーブルもインテリアも家族で作りあげた、リビングルームのような書店
スコットランド出身のZoeとオーストラリア出身のIanがバンクーバーに新書店をオープン
初めてその書店を知ったのは、Massy Books の取材中だった。「Granvile Island(マーケットやレストラン、ギャラリーが集まる、バンクーバーの代表的な観光地のひとつ)に新しい書店がオープンしたらしいよ」とスタッフのマイケルが言うと、隣にいたエミリーが「私も噂で聞いたわ」と。マイケル曰く、「店名はシェークスピアにちなんで、えーっと何だったっけな・・・」このコロナ禍にオープンする本屋がある⁉︎ いったいなんでまた。そんな雰囲気がふたりの会話の端々に滲んでいた。
それから数日後。『Upstart&Crow』を訪れた。今まで取材した書店の中で、いちばんおしゃれ、でもどこかリラックスした雰囲気。どういった経緯で、このご時世に書店をオープンすることになったのだろう。店長のZoeにたずねてみた。
「まず、2019年7月に書店を始めようと計画して、12月にこのスペースを見つけました。ところが2020年の3月、オープンの2日前にカナダがロックダウンになったんです」
Zoeは笑いながらそう言った。けれど、彼女と、ビジネスパートナーのIanの当時の心情は計り知れない。Zoeはスコットランド出身。マーケティングエージェンシーで働いていて、出版業界と関わりがあり、同時にライターでもあった。
一方、Ianはオーストラリア出身で、ジャーナリスト兼作家。ふたりはバンクーバーで出会い、この街にはいくつか素晴らしいインディペンデント系書店があるけれど、「なんていうか本を祝福するような、十分なスペースがあるお店が無い」と意気投合。一緒に書店を始めようと決意したそう。
「最初はもちろん不安でした。でも今思うと、ロックダウンはいい機会だったと思います。時間ができて自分たちらしくスペースを作り込めたし、何よりローカルの人たちがしょっちゅう顔を出してくれて、いろいろアイデアをくれたり人を紹介してくれたり、本当に支えられました」
ふたりが最終的に目指したのは、「リビングルームのような書店」だったそう。
「とくに何かを参考にした訳ではないけど、父が建築家だったので、空間は彼がデザインしました。レジの壁全面にあるシダーの木板は、お付き合いのあるFirst Nation(先住民)の団体から譲っていただいたもの。そこに飾ってある絵は、Ianの21歳の娘さんが描いたんですよ!すごい才能でしょ? で、その中央に置いてあるテーブルは、私たちでゼロから手作りしました」
新しくて洗練されているけど、どこかリビングルームにいるような暖かさもある。それはふたりが、そしてふたりの家族がお店づくりに深く関わっているからかもしれない。
「そうですね。店名の『Upstart&Crow』も、イアンのママがオーストラリアでその名前のガーデニングのお店を経営していて、同じ名前で本屋を開きたがっていたんです。でもそれがなかなか叶わなくて、名前をシェアさせてもらいました」
よく来るお客さんの年齢層は60歳以上と25歳以下
バンクーバーに突如現われた”リビングルーム”は、本の数は決して多いわけではない。
「すべての本は私が選んでいます。本当に好きな本だけでスタートしたかったんです」
Books on Books、Deep Dives、Observations、Modern Life、How we live in 、How we got here、Planet、Women、Justice、Riveting Lives、Page Turners etc…
これらは全てこの店内にあるカテゴリー名。とてもユニークで、こだわりを持って並べている想いが伝わってくる。
「とくに、中央のテーブルの上の選書はこだわっています。全体としては翻訳本や告白本が人気だけど、意外だったのはマーロン・ジェームスやカフカなど、クラシックなものも売れるんです」
聞けば、メインの客層は60歳以上と25歳以下なんだそう。この”リビングルーム”は、目の肥えた本の虫たちを虜にしつつ、インスタ映えもする稀有な場所。ふと見渡せば、本以外にも女性向けのスキンケアアイテムや可愛らしい靴下、バスプロダクツなどもセンス良く並べられている。
「女性がやっているビジネスで、なるべくナチュラルでローカルなものを選んでいます。いずれはギフトパッケージなんかも作って、クリスマスや特別な日のプレゼントとして選ばれると嬉しいですね。グッズ販売はお店としてのもうひとつの”Hope”なんです」
最後にお決まりの質問。書店の魅力について聞いてみた。
「今はすぐに情報が手に入りますよね。オンラインのおすすめ機能の進化もすごい。でも、例えばこの本とこの本は、アマゾンで隣同士には絶対ならないし、触ることもできない。あと、紙の本て、私の場合読んだことを(電子書籍よりも)覚えてられるんです。なんというか、一種の魔法ですよね。だからお客さんにも、リクエストを聞いた上で自信を持って薦めることができる」
「薬局の薬剤師みたいですね」「確かに!そうかも」そんなやりとりをしていると、取材のために閉めてくれていたドアからIanが入ってきた。紹介も早々に、Zoeが彼にも聞いてくれた。
「あなたにとっての書店の魅力って何?」
するとIanは、ジャーナリストらしくスルスルと、早い口調で語り始めた。
「物語は、人と人をつなぐ”共感のコミュニティ”です。ベストセラーじゃなくても、世の中にはたくさんの偉大な物語が存在します。英語、日本語、ドイツ語、フランス語。今では物語は翻訳されて世界のいろいろな場所にある。そんな物語たちと出会える場所でありたい。僕たちは挑戦し続けます」
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💡SHOP DATA
Upstart&Crow
1387 Railspur Alley, Granville Island • Vancouver
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