【虎に翼 感想】第44話 優三の言葉で聞く日本国憲法
寅子を訪ねてくる人物
後ろ姿が似ている人を見つけてきたな……
登戸の家に、小笠原という人物が訪ねてきた。
収容所の病室で優三さんと隣同士だった彼は、寅子が作った千人針のお守りを返しに来てくれたのだ。
優三さんは、小笠原氏の体調が悪化したときに、「とてつもないご利益がある」と、握らせてくれていた。そのおかげもあり体調は回復したが、“ご利益を吸い取ってしまった” と、彼は悔やんでいたのだ。
ほんの短い付き合いだった小笠原氏にも、“とても優しい、いい男だった” と言わしめてしまう。優三さんは、もう少しで引き揚げが始まるというときに亡くなってしまった。本当に残念だ。
寅子はどういう心境だったのだろうか。
死亡告知書だけだったら、“紙切れ一枚のことだし間違いかもしれない、ひょっこり帰ってくるかもしれない” と、希望を持てるかもしれない。だけど、死に際に傍にいた人が現れてしまってお守りを返されては、優三さんの死は確定である。寅子の、小笠原氏と向かい合っているのに心ここにあらずといった様相は、死を受け入れられないせいであろうか。
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直明が、「新しい仕事を探す。早く一人前になって、この家の大黒柱になる」と気負っている。似たもの姉弟だ。寅子の頭の中には歴代の直明が登場する。このままでよいのかと。直明にも、思い描いていた将来があったから。
今もあまり変わらない。今の時代も、学習することを諦めたり、奨学金の返済に苦しんでいる人がいる。
日本国憲法
この文字を、寅子は初めて目にしたようだった。それは、新聞をずっと読んでいなかったことを意味する。自宅に新聞がなかったというのも一つの理由としてありそうだが、寅子自身に読む意欲がなかったはずだ。思い返せば、弁護士を辞めたあと、直言に新聞を見せられても読もうとしなかった。
第1話の冒頭のシーンに戻った。まさか、焼き鳥を包んでいた新聞だったとは……
はるさんが、直言の大事なカメラを売ってまでして、お金を持たせてくれて本当によかった。
焼き鳥屋のおばちゃんが、新聞のあのページをチョイスして焼き鳥を包んでくれて、本当によかった。
優三さんの死と真正面から向き合えたから。
そして……まさかの優三さんの別ショットがあったなんて。本当に遺言になってしまったあの言葉を、もう一度聞けてよかった。
寅ちゃんができるのは、寅ちゃんが好きに生きること。
弁護士をしてもいい、
違う仕事を初めてもいい。
優未のいいお母さんでもいい。
ぼくの大好きな無我夢中の寅ちゃんの顔をして、何かを頑張ってくれること。
いや、頑張らなくてもいい。
後悔せず、心から人生をやり切ってくれること。
これが僕の望みです。
優三さんの言葉は言い換えれば、
“労働の権利”
“職業選択の自由”
“学問の自由”
“居住の自由”
そして、“個人として尊重される”
ということではないだろうか。
目に入ってくる日本国憲法の条文を優三が読み上げている。寅子にそんな情景が浮かんできたのではないかと……そう感じられた最後のシーンだった。
このとき昭和21年10月。日本国憲法は、11月3日に公布され、昭和22年5月3日に施行された。
やっと、寅子の戦後が始まった。優三さんに導かれた日本国憲法は、寅子の人生の核になる。そしてこの後、必ず出てくるであろう民法改正……改正されたからといって、すぐに何かが変わるわけではないということが、今後、描かれるのだろうけど……。そこに寅子がどう向き合っていくのか。それを見守っていきたい。
本作が始まってからというもの、20年以上前に買った『大きな文字で日本国憲法読もう』(街と暮らし社)を机の上に出しています。文字が大きくて、条文だけが載っていて、素人が見るのにとても良い。
当時、派遣で携帯電話会社で働いていて、会社の飲み会の集合場所に早く着きすぎて、時間をつぶすために入った本屋で購入した記憶。法律事務所で働くことを諦めていなかったから、つい買ってしまったんだと思います。仕事では出番はなかったけど、ずっと眠っていた本が、今役立っています。
「虎に翼」5/30より
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