
千里眼散る剃刀花
散りゆく宵雨の線香花
翠色焦がす焔揺らいで
いつかの死者も柔らかな笑みを零す
震える指先の爪は淡く
彼方の蒼、剥いだ綿雲の質感は
余白の糖度と背徳に充ちた誕生日
井戸の底に眠る砂嵐の画面と
此処にしか映り得ない異質が
逃れようの無い断末魔を奏でる
__暗幕__
シアン滲む空は乱気流に浸されて
影絵の様に揺らぐ悲劇とエンディングが
待ち焦がれた茜色の隠匿を齎す
化学式の配列は寸分の狂いもなく
貴女の呼吸を、煌めく瞳を奪い去ってゆくから――
千里眼散る剃刀花
灰燼と化した幔幕の花札
冷熱に窒息する桃肌の痕跡
アンダルシアの夢ゆらめいて
壊れたモノクロームの祈りは
虹色びいどろに冒され、沈黙に溺れてしまう
幻灯機の硝子越しに降りしきる、みぞれ桜
世界は蠱惑と困惑のなかで春を歪めて……
青一号溶けゆく鋼鉄の暁
眩暈と酩酊、沈黙の夢また夢、夢の沈黙
涎を垂らす夢みる機械は
救済無き暗翳を呈示した
流れる血すら存在しないスクリーンの深層
彼方の春の砲声が夢幻のように遠のいてゆく