お丸山の一夜
今日から12月となり、愈々今年も残りが少なくなって參りました。
そのくせに今更夏の旅行の件を完結出來ない点は、なんともはや痛恨の極みでございますが、何分にもご容赦戴ければ幸いに存じます。
さて長い宇都宮の自轉車旅の1日が終わり、お待ちかねの時間がやって參りました。
宿でのくつろぎのひと時です。
部屋に入った時に既に布團が敷いてありました。
廣縁と床の間附きの8畳間。私の大好きなお部屋。これでこそ温泉宿です。
私の夢はこう云うお部屋を自室に持つ事です。
宿の和室特有の匂いを嗅いで浴衣に着替えて早速お風呂へ行きましょう。
暖簾は結界の一種。ここより先にキャメラを持ち込まないのが風呂と温泉を愛する者の嗜みだと思っております。
お風呂はモダンな造りの内湯にサウナと打たせ湯があり、外には緑に包まれた露天風呂があります。
幸運にも貸切状態だったのでゆったりと猛暑の日に流した汗を洗い流し、1日中自轉車を漕いできた脚を延ばしてその温泉を愉しんでおりました。
實はこの宿は昔「ホテルニューさくら」と云う名前の昔から在るホテルだったのです。
それをゴルフ場等を經營する企業が賈い取り、リニューアルオープンしたのが當宿と云う事になります。
お風呂は嘗ての様子と随分変わった印象がありますが、宿全軆を見るとその頃の面影がわずかに見られる様な氣が致します。
眞新しくなっている箇所もあれば、どこか懐かしい雰囲氣の部分もある不思議な感じのホテル。私は今に在ってもこう云う昔が残る場所が大切に残されているのが好きです。
この一寸した一角に置かれている椅子とテーブルは良いものです。
静かで落ち着いた空間。湯上りはここに腰掛けてゆっくり涼みます。
ロビーへ出てみましょう。
こちらはグレーを基調としたモダンな空間。
リニューアルの際に新しくなった部分でしょうか。これはこれで良いものです。
私はホテルのロビーと云うのが大好きな性分で、暫し氣分轉換にそこに在るソファーに腰掛けて佇んでいたりします。
コーヒー牛乳派の私ですが、この日は趣向を変えて今では瓶入りが珍しくなったフルーツ牛乳を戴きます。
ロビーの隅にある應接セットに腰掛けて、調度品等に目をやり乍ら戴く「お風呂上がりの一杯」は格別であります。
静かでお洒落な音樂と外を鳴く蝉の声が夏の旅路の宿を演出しており、なんとも面白いものです。
他にもこうしたテラスがあります。
後で珈琲でも飲みにこようかしらん…。そんな樂しい考えが次々に思い浮かびます。
湯上りに表へ出てみましょう。
「お丸山」と呼ばれる山の上に在るホテルなので市街地から少々距離がありますが、それだけに自然に囲まれていて静かな佇まいです。
丁度夕日の射す頃合い。ヒグラシの鳴く声を今年も聴けて本當によかったと心の底から思っております。
外の風に當たり乍らの夕涼み。愛用の電子煙管は今日も好調。
湯上りの浴衣にこの煙管で一服するのが一つの樂しみです。
夏の夕暮れはどこか寂しく、そして綺麗なものです。
そろそろお樂しみ、お夕飯の時間です。食事処へ行きましょう。
地元の食材をふんだんに使った懐石御膳。
キンキンに冷やした地酒呑み比べセットを注文。
自轉車の旅だったので前日夜から酒を我慢してきた甲斐があったと云うものです。
懐石料理は味だけでなく、その見た目を鑑賞する愉しみがあります。
じっくりと器物やお料理の色合いを眺めて繪になる1枚を撮りましょう。
折角、足腰にモノを言わせて自轉車でやって來たのです。
何か當地ならではの酒を愉しみたいので勧められたのがこの「紅白とちおとめ酒呑み比べセット」であります。
裏ごししたイチゴの柔らかな味わいはお料理にピッタリの相性です。
當地のブドウを使ったワイン。味わい深く鳥渡他ではお目にかゝれません。
メインのお料理、さくらポークのグリルです。
地元で元氣に育った豚君を戴きます。
この肉料理に自家製の七味を薦められましたので、ふりかけて食してみると、これが絶品であります。
残念乍らこの七味は販賣されていないのですが、遠く旅先での旨い物との出會いは幸福な出來事だと思います。
ご飯を炊くお釜は大谷石製。保温性に優れるのだそうです。
こうしたところでも當地の演出が見られるのは地場の懐石料理ならでは。樂しいものです。
この石も嘗てはあの地下空間に在ったのか…。と感慨深いものです。
↑大谷石のふるさと
後ろの四角いお皿に香の物が入っていたのですが、食べてしまった後です。
お味噌汁の具は、なめこ。やっぱり日本人はご飯と味噌汁です。
桃のゼリーです。夏にうってつけの涼しげなデザート。
「いっぱい食べれば満腹天國。満足極樂シュラシュシュシュ…」と云う(ちびまる子ちゃんの)昔の歌の文句がありますが、實に良き心地でお部屋に戻ります。
お部屋に戻ってお口直しに温泉饅頭と熱いお茶を。温泉宿ならではのこの一品は、宿で食べるとまた一段と旨いものです。
さっきから呑んで食べてばかりですが、こう見えても地元では「バキュームさん」と云う渾名が附けられております。普段が粗食なものですので…。
食べても太らぬ不思議な軆。見えないところで日々精進が私のモットーです。
少し時間を置いてこの日最後のお風呂に行きます。
酒が入っているので長湯は禁物。
夜の静寂に包まれた露天風呂をザブンと浸かり、良き頃にて切り上げます。
その際に賈った「サウナ専用ドリンク」なかなか面白いものです。
右側のは宿に着く迄に自轉車で飲み干してしまったスポーツドリンク。
これがホントの「となりのトトノッタ」であります。
…などと、整った割には良いギャグを言えなかった私は今日一日の締め括りをしなければならないのです。
廣縁での晩酌。窓際で呑むこの一杯が宿で過ごす夜を一層樂しく致します。
宿のお部屋から眺める夜空は今日の出來事を遠くの思い出の地に運んでいってしまう様です。
静かに、一人樂しくしみじみと。
窓臺には先程の「ととのった」
これがホントの「窓際のトットノッタちゃん」
……お後が宜しい様で…。
一日の終わりをこうしてのんびりと過ごせるのは幸せな事です。
願わくば、こうした至福のひと時を日常生活にも…とぞ思いつゝ、日々色んな事をしています。
「〽五臓六腑に~樽酒染~みぃ~る~~♪」とかよく結婚式で歌った演歌を口ずさんで夜は更けていきます。
「一人酒、手酌酒、演歌を聴き乍ら」そんな夜もたまには良いものです。
窓の外は眞っ暗な夜空に遠くの方で「町の明かりがとても綺麗ね」と横濱ではないのに思うところであります。
空気が澄んでいてその夜風はまさしく「旅の夜風」
「花も嵐も踏み越えて行くが男の生きる道」と自轉車を漕いだ大いなる充足感でいっぱいです。
夜空の星も綺麗に見え「星に願いを月に祈りを」を言うところであります。
この日一日見て廻った場所を思い返して撮った画像等を眺めてみては旅の樂しさを嚙み締めた夜でございました。
續く…