夜の迷路 (短編小説)
寡黙で孤独な青年の耳に届く若い女性の声、その正体は...。ショートショートの神様・星新一の名作。といっても、星先生の作品は全てが名作なのだが。
小学生の頃、担任の先生から「おもろいで」と紹介され、しばらく夢中になって読んでいた。文庫本で20ページ、子どもにもちょうど良い長さで平易な文章。すらすら文字を追ったその先に、ええっ!?と驚く展開が待っている。読書の面白さを知るきっかけとして、申し分ないのが星新一の短編だと思う。
数多ある名作のなかで、今回挙げた「夜の迷路」。単純なお話なのだが、ラストの一文のせいでそう思えなくなってしまう。「これはいろいろな見方のできる、不思議な一編ではないだろうか」と、読者を迷路に誘い込むのだ。
"孤独な青年のラブストーリー"と取れば、物悲しい気分になる。牡丹燈籠のお露と新三郎のように、"一種のホラー"と取ることもできる。そして現代に重ねると、ひとりを突き詰めた先にある"究極の孤独"を描いたものにも思える。
短くて簡単に読めるのに、結末の後に読者をさらに深い思考の森へ連れて行く。星先生のショートショート、本当はショートではなく今流行の"sustainable"な小説なのではないだろうか。