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丹下左膳「百万両の壺」(映画2004)

百万両の隠し場所が塗り込められた「こけ猿の壺」を巡って、丹下左膳の周囲で起こるドタバタ時代劇コメディー。
前に中村獅童主演のドラマ版(2004年6月日テレ系)を見たことがあるが、映画版の左膳は豊川悦司。
ストーリは同じだしどちらも面白かったが、制作費の差もあるのか、映画版の方がより本格時代劇の雰囲気が出ていたように思う。

丹下左膳は右腕右目を失った浪人剣士である。
何故なのか詳細は不明だが、そうなった現場のシーンで映画は始まる。
強くてかっこいい立ち回りで幕が開くのは、時代劇ファン大喜びのオープニングだ。
酷いシーンの後に現れる、櫛巻きお藤の登場はもの悲しいが、一転して明るい矢場に移る展開はテンポが良い。
左膳は用心棒としてこの矢場に居候し、お藤と仲良くケンカしながら明るく暮らしている。

美しくて肝が座った矢場の女主人・お藤を演じる和久井映見も適役だ。
子ども嫌いだと公言しながら、ひょんなことから面倒を見るようになった孤児ちょび安を、母親のように見守り可愛がる。照れ屋なのだろう、本当はとても情が深いお藤。
そういう点が破天荒ながら心優しい左膳と似たもの同士で、やりとりも見ていて心が和む。

こけ猿の壺、大金、敵討ち、ちょっとしたラブストーリー、ホームドラマ的展開、孤児と出生の秘密など、
様々な要素が盛り込まれていながら破綻せず全て決着をつけ、かつ面白く爽快なこの作品。

そもそもこの映画の原案となった「丹下左膳余話 百萬両の壺」は、山中貞雄監督の創作である。
それまでの暗くてニヒルな左膳を、明るくコミカルな好人物に作り変えた結果、原作者の林不忘から抗議されたそうだ。
私自身は本作以外の左膳を見ていないので知らないのだが、きっと明るい左膳の方が好きだろう。

じつはこの映画を見る前に「スパイの妻」の劇中映画で、山中貞雄監督の名前を目にしていた。
彼は天才映画監督といわれながら、28歳の若さで中国にて戦病死している。
もっと映画を作りたかっただろう。
「最後に、先輩友人諸氏に一言。よい映画をこさえて下さい」と、遺書をのこしているという。
こんな面白い映画を見ることができて、山中監督とその志を受け継いだスタッフには心から感謝と賛辞を送りたい。


最後になるが、この映画にはもう一つお楽しみがある。
それは今年元旦に逝去した、あの福本清三さんが映っているのだ。
「5万回斬られた男」福本さん。本作では少しセリフがあり、出番も少し長く、最後はアップで斬られている。
なのにエンドロールに名前が無かったのは、斬られ役福本さんなりの矜持だったのだろうか。
時代劇の面白さを伝え続けてきてくれた福本さんにも、改めて感謝を捧げたいと思う。

映画って、本当に素晴らしい。

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