エデンの東 (映画 1955)
タイトルと音楽とジェームス・ディーン。それだけで名作の評判が高い。ストーリーをまとめると「善良な父のもとに生まれた、対照的な兄弟間の嫉妬が起こす悲劇」といったところか。
ノーベル賞作家ジョン・スタインベックの原作がどんな感じかは知らないが、映画としては派手さのない堅実な作品といえる。
第一次世界大戦時の徴兵委員として苦悩する主人公の父アダムの姿からは、反戦の意図が読める。キャル(ジェームス・ディーン)は、とにかく父の役に立ちたいと金を稼ぐが、その手段は戦争に絡んだ大豆相場。キャルの単細胞さが仇になったのは可哀想だが、立場上アダムが立腹するのも無理はない。
そこから諸々悪条件が重なって、キャルが暴露した秘密により兄アーロンは自暴自棄に。反戦の立場なのに志願兵として出征し、頭で窓ガラスを叩き割る(これは衝撃シーン!) それを目の当たりにしたショックか、その場でアダムは脳卒中発症。終盤に押し寄せる怒涛の不幸展開は、今時のドラマのようである。
そんな不幸の種にもなってしまった、兄の恋人・アブラの存在が私には腹立たしい。さほど美しくもなく、思わせぶりな態度をとる彼女は炎上キャラそのものである。"父親から愛されなかった"共通点には同情するけれども、それをたてにキャルと心を通わせて、散々気を持たせた挙げ句に観覧車で接吻とは言語道断。
なんて書きながら、彼女はキャルに会えて幸せだったかもしれない。もしもそのままアーロンと結婚していたら、キャルの母同様に正しさに耐えられず離婚に至る可能性が特大なのだから。不幸満載のこの映画の中で、アブラだけが幸せをつかんだ唯一の存在に見える。
また、この作品は幾つかの対照的な存在で成立している。真人間(に見える)キャルと不良アーロンの兄弟が中心となり、その両親も正反対ゆえに別れ、生き方も真逆。
戦争と平和を軸にすると、アメリカ人とドイツ人、徴兵する者とされる者という正反対の存在も浮かび上がる。戦争で死ぬ者と富む者といった非情だがそれも真実な描写もある。
そういえば、かつてキョンキョンは「♬男の子って、少し悪い方が良いの〜」と歌っていた(渚のハイカラ人魚)。キャルの父や兄のように、一見正道を素直に歩いているような人にも、真面目ゆえの苦悩がある。普段真面目な分、反動も凄まじいだろう。キャルには真面目に取り組めば取り組むほど、裏目に出る不器用さが痛々しいのだが、アブラのような女にはそこがたまらなく魅力的に見えたのだろう。
最後になるが、夭逝した伝説のスター・ジミーの芝居。不器用さが際立つその演技は、後半になればなるほど深みを感じた。中年以降の彼を見られなかったのが心から悔やまれる。合掌。