読書⑭
羊子と玲 鴨居姉弟の光と影 作者 植松三十里さん
この本を読むまで、鴨居羊子(姉)と玲さん(弟)を知りませんでした。
これは、羊子さんと玲さんの光(成功と栄光)と影(苦悩や挫折)の物語。
大正14年生まれの羊子は「女はかくあるべき」という時代、新聞記者を辞め、下着の制作・販売を始めます。そして、有名な下着デザイナーとなっていくのです。(現在も彼女の会社「TUNIC」の店舗はあります)
彼女が新聞記者の時代、京都の下着メーカー「和江商事」の若き社長にインタビューをしています。インタビューの最後に、「差し出がましいようですけど、和江商事やなくて、ワコーレとかワコージュとかの名前にしてみたら、どうですか。おしゃれやと思いますけど」と言う羊子。当面は今のままの固い社名を続けると答える社長ですが、その和江商事こそ、現在の下着メーカーとして有名なワコールなのです。スキャンティーの命名者として有名な羊子ならではのエピソードです。
また、記者時代からの友人で「竜馬がゆく」や「坂の上の雲」で有名な作家司馬遼太郎さんとの友情もこの本には描かれていています。司馬さんのペンネームの由来や羊子に新人賞に応募する作品を読んでもらうくだりがとても興味深かったです。
閑古鳥が鳴いていた新阪急八番街の羊子の店で4,5歳の男の子を連れた女性客が、離婚の勢いづけにパンティスを買います。ラストの方で羊子は、その親子に再開します。まるで、ドラマのようなエピソードです。
おしゃれな下着は、女性を魅力的にするだけではなく、かつ、前に進む勇気をも与えるのだと、この本を読み、思いました。実際、羊子もピンク色のガーターベルトを買い、身に着け、それが、下着を作るきっかけとなっていったのです。
今でこそ下着はカラフルなものから斬新なものまで、さまざまあります。ですが、羊子が下着をデザインした時代は、真っ白な下着が主流でした。女性が活躍するすることが当たり前ではなかった時代があったこと。また、そんな時代を切り開いてきた女性がいたことを再認識しました。出会えてよかった!と思える一冊でした。
弟の玲が創作に行き詰りながらも賞を受賞し、有名な洋画家となっていく過程も丁寧に描かれています。残念ながら、彼は自殺をしてしまいます。