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記憶に残る作品とは

2024年が終わってしまう前に『ライオンの隠れ家』の感想を書かなければならない。


最近、記憶に残るドラマというのは、ホームランバーアイスでホームランの当たりが出るくらいの少ない確率でしか出会えないものだと思っていた。なのに、2024年はどうしたものか。『アンメット』『虎に翼』『海に眠るダイヤモンド』と、予想もしていなかったスピードで出会ってしまった。

そのひとつに『ライオンの隠れ家』が入っている。


主演は柳楽優弥さん。


柳楽優弥さんといえば、『闇金ウシジマくんpart2』『ディストラクション・ベイビーズ』『ガンニバル』などの狂逸な役柄のイメージが強かった。

だけど、ライオンの隠れ家で柳楽さんが演じている小森洸人は今まで見てきた柳楽優弥さんのイメージとかけ離れていた。

自閉スペクトラム症の弟•道路人のルーティンに合わせ、同じ時間に起きて、同じ時間に家を出る。仕事が終わると道路人の職場まで迎えに行くという毎日決まった生活送っていた。洸人が何かを選択するときはいつも道路人の存在があり、洸人は「自分はいいから」といつも自分より誰かを優先していた。
1話を見たとき、今まで見たことのない柳楽優弥さんのお芝居に正直すごく驚いた。これまでの個性的で狂気的なイメージが強かったはずなのに、違和感が全く無い。むしろ、ぴったりだ。と思った。

それだけではない。柳楽さんは洸人の心情の変化を細やかなお芝居で伝えてくれる。4話の、お母さんが死んじゃったと思っているライオンに「お母さんが生きているよ」と伝えるためにはどのようの言えばライオンに伝わるのかという葛藤。そして、欠伸をして涙が出たあとに本当の涙を流すまで。ここに洸人の感情を示すセリフはない。だけど、このシーンはネットニュースでも話題になり、Xでも反響が大きかった。5話の「疲れるなあ」は柳楽優弥さんにしか表現できないだろう。

記憶の中の少年


それと、もう一つ驚いたのは坂東龍汰さん。
坂東さんが演じている道路人は、わたしの記憶の中に存在する自閉症の少年そのものだった。
昔、教育実習の中で特別支援学級の子たちと関わる機会があった。その時に出会った少年がみっくんと同じ視線の送り方をしていたことを思い出した。みっくんを見ているとその頃の記憶が自然と蘇ってくる。指先の仕草や、バンバンと窓や壁を叩く手の動きが記憶の中で重なった。聞くと、坂東さんは1ヶ月間他の仕事を入れずこの役作りに挑んだらしい。熱心な役作りに驚きつつも、だからあの頃の記憶が蘇ってきたんだなあ。と自然と腑に落ちた。

「ここに居れば安全だから」


ライオンの隠れ家の1話でこんなセリフがある。「ここに居れば安全だから」夜中に目を覚ましたライオンが寝ぼけながら言うセリフだが、わたしはこのセリフが頭から離れなかった。子供にとって『居場所』は生きるうえでとても重要だ。ライオンのように家庭が安全なプライドとも限らない。自分で自分の居る場所を選べない年齢だからこそ、子供の頃の『居場所』はなによりも大切なのだ。だからこそ、このセリフを聞いたとき、子供の不安感情を理解している人が作った作品なのかもしれない。と一気に惹かれたのを今でも強く覚えている。

みっくんの言葉

みっくんの「死ぬのは悲しいです、寂しいです。」というセリフや「旅行行きません、仕事に行きます」というシンプルな言葉が今の時代には少し新鮮だった。直接的な言葉って時代とともに避けられがちというか、日常でも言葉を濁したり誤魔化したりして伝えることも多かったからか、みっくんの言葉はどストレートにブッ刺さって泣いてしまった。

ヒーローになれなかった洸人

9話のヒーローになれなかった洸人の涙が頭から離れない。普段、ドラマで描かれる主人公って、いざという時にヒーローになれる強さを持ってるんですけど、現実はそういう人ばかりじゃない。声をあげたくても、怖くて一歩踏み出せない人だっている。頭では分かっていてもできないことって山ほどある。弱さをそのまま描いてくれたのがどうしようもなく嬉しかったし、「みっくんごめん、ダメなお兄ちゃんでごめん。」と崩れ泣く洸人に対して、「お兄ちゃん何も悪いことしていません。深呼吸します。吸ってー、吐いてー」と言葉を掛けるみっくんにドラマが終わったあともしばらく泣いてしまった。「悪いことをしていないから謝らなくていい」というみっくんの正しさと、自分がパニックを起こした時にお兄ちゃんが一緒にしてくれた深呼吸を覚えていた優しさに完全にやられてしまった。

『ライオンの隠れ家』

放送が待ち遠しくなるドラマは本当に久しぶりだった。最近は帰る時間が遅かったので、どうしてもリアタイしようと、夜の街を脇目も振らず全速力でダッシュした。
結果が出せずに悔しくて涙を流す日々が続いたときは、ライオンの隠れ家の予告を見たり、『風神』を聴いて、あと少しで金曜日だからと気持ちを奮い立たせていた。

記憶に残る作品というのは、人それぞれ違うし、出会う頻度もさまざまで、判定基準はない。来年の今ごろは同じようなことを書いているかもしれないし、去年は良かったなあと羨ましく思っているのかもしれない。


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