映画『原発をとめた裁判長 そして原発をとめる農家たち』監督日記:130 動員2万人
2月から始まった自主上映会は、12月26日の上映が今年最後となった。
10ヶ月の間に134団体による176回の上映があり、12,866名の方々にご覧いただいた。
反原発団体のほか、生協、自然エネルギー事業者、宗教者、大学、高校、映画祭、各地の市区町村議員、カフェやギャラリーなどが主催してくださり、これまでの原発関連映画とは異なる広がりが生まれたと思う。
上映会を開催するのは本当に大変なことだ。費用を捻出して会場を予約し、ビラ配りやSNSで宣伝して、当日までお客様がどれくらい来るかをドキドキしながら待つ。その努力が実って満員となったところが大半だったが、そうでないところもあった。しかし、全ての主催者さんからやってよかったというご報告をいただけた。
こちらこそ大変ありがたく、感謝を言葉にするだけでは足りない。みなさんの努力に応える方法はさらに上映を増やしてゆくことだ。
公開から1年3ヶ月。劇場動員を含めると2万人超にご覧いただいたことになるが、この数字をどう見るか?インディーズ作品にしてはまずまずの動員かもしれないが、作品の目的である原発を無くすことと自然エネルギー普及という観点から見ると、この動員ではまだまだ。
マーケティングの世界では民意が100万集まれば政治が動くと言われている。少しでも近づく努力が必要だ。
映画へのたくさんのご感想の中で圧倒的に多かったのは「希望を感じました」というお声。本作を作る上で一番大切にしていたことが伝わったのは間違いなく、創作においてテーマ設定から絶対にブレないことの重要さを身をもって理解できた。
福島事故以来、原発を無くすためにたくさんの訴訟、デモ、集会が行われているし、映画、演劇、音楽集会や書籍や芸術作品が発表されてきた。それは被災された方々に寄り添うことであり、二度と事故を起こさせないための布石だ。
多くは原発推進への怒りがその原動力になっていると思うが、自分は本作では希望をテーマにした。なぜそうしたのか。
簡単に言ってしまえば、怒りはしんどいからだ。
これまで多くの原発関連映画を観てきたが、観終わると必ず怒りが湧き上がってくる。許せない、気の毒だ、自分が同じ目に遭ったら、政府はなぜ被害の現実を無視できるのか、などなど、湧き上がる怒りの理由が渦を巻く。
ところが自分は怒り続けていると、どうしてもしんどくなってくるので映画であれば次はコメディを観てみようとか、書籍であれば次はスカッとしそうなエンターテインメントを読もう、とガス抜きをする。そういうことを繰り返してるうちにふと、思いついた。
もしかすると原発推進側は、希望というものを一番恐れるんじゃないのか?
希望ある現実を表現に落とし込めば、自分の場合は映画表現として示せば、有無を言わせぬパワーになるんじゃないだろうかと思いついたのだ。
もちろん怒りをもって原発を糾弾することは尊いことだと思うし、あらゆる分野でそれを実行する方々がいるからこそ推進に歯止めがかかっている。
しかし、自分は希望を表現することを選んだ。これは新しいカードだと思った。
劇場や上映会場で観終わったみなさんの笑顔に触れるとこの選択は正しかったと実感する。
大阪の第七藝術劇場の支配人・小坂さんは言った。「動員自体はヒットというほどじゃないんですけど、観終わって出てくるお客さん達がニコニコ感想を喋りながら出てくるんです。ドキュメンタリーでこういうのは初めてで、普通じゃないんです。だから、もう一週間延長しようと思うんです」。
人間は明るい方向に進む習性があるのかもしれない。
新しい年も映画を広めてゆく。
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