【感想】はらだ著『ワンルームエンジェル』/『カラーレシピ』
ワンルームエンジェルが実写ドラマになるそうなので、この機会に読んでみました。
その感想です。
有料ゾーンにカラーレシピの感想をおいてあります。
はらだ先生の作品はネタバレに触れずに書こうとするのは難しいので、ここから先【ネタバレあり】
未読の人へ
知らない人は一旦ここで読むのを止めて欲しい。
例えるなら、あらすじを知って観る映画『エクソシスト』のような感じになってしまうので……これで察して欲しいというか、この例えもちょっと危ういかもしれないゾーン。
既読者にも注意
あと、作品既読、はらだ先生大好きな方に断っておくと、私のスタンスとしては面白かったけど刺さりはしてない。
もしくは、腑に落ちない(ピンと来てない)ところがある。
でも、貶すつもりで書いてはいないし、喧嘩腰で来られると困ってしまうので、比較的珍しい生き物を覗きに来たくらいのテンション感で読んで貰えたら嬉しい。
あと、メインよりもサブキャラに興味を持ちがち。
過去に読んだはらだ作品
心当たりがある中では、今回する2作品に加え、『女子BL』収録の『わたしたちはバイプレイヤー』の計3作。
※女子BLは女性キャラクターの視点でBL漫画を集めたアンソロジー(複数作家が同一テーマについて描いた読み切りを纏めた形式のこと)です。
前置きはここまで。以下感想。
ワンルームエンジェル
作品情報
作品概要
コンビニ店員の幸紀は勤務中に過去の不法行為を揶揄してきたヤンキー達とトラブルを起こした末に、腹部を刺傷させられた。
死んだ。そう思った瞬間、幸紀の前に大きな白い羽を持った美しい少年が降り立った。天使が迎えに来た。幸紀はそう思って目を閉じたが、九死に一生を得、何日被りの自宅へと戻るのだが、なぜかそこにはあの天使がいて?
天使くん
表情の変化が薄いのに、お喋り。性癖です。そういう子好きです。天使くんをつれ歩いてると、幸紀がちょいちょい変な顔で見られてたり、幸紀以外の誰とも会話をしていない所から、他人には見えていないんだな。彼。
というのは察せるところではあったのですが、自分で気付いて徐々に絶望する過程がいいですよね。
雑踏の中にいるのに、急に天使くんが1人が真っ白い空間で棒立ちになっているコマなんてのは、贅沢な画面の使い方だけど、彼の心情を表すならそうなんだろうなというのが伝わってくる好きな演出だった。
羽が数枚散ってるのが良いよね。
彼のマイナス感情に呼応してそうで。
天使との別れ
現れる時も突然で、消える時も突然なの、幸紀からすればキツイよな。
半ば成仏を予感していたとしても、楽しい日々が続くと思っていた、楽しいことをしている途中でフッと消えていくんだもの。
手前に天使がいて、構図的に見えなかった幸紀の寝転ぶ背中が描かれる物悲しさ。隣には彼も使っていたスマホだけ。
いや〜後ろ姿が寒々しい。
縁を求めてスマホを開いても、あったはずの姿がないという二段構え。
ひねくれてるな〜!! 作者! そういうの嫌いじゃないよ!!
と、思ったら、ほんのり優しさも完備していて、天使くんと過ごした時間を証明するものが羽一枚……というのは切ないけど、ちゃんと形あるものとして残っているのは、その後の幸紀の人生にとって大きいと思うので、良かったなと思うし、あの、最後のキス。
キス。威力がすごいね?
実際の天使とは年齢という気まずさもあるだろう、性欲が湧くような愛でもなかったのだろう。
と、まあ、……色々想像する事は出来ますが、結果的にはそうではなかったが、天使と見紛うた己の救世主の羽に瓶越しに口付けをする。
アガペーのような神聖な雰囲気があってかつ、皆まで語らない余白の感情を感じるような気がして好きです。
描き下ろしで再会する時に天使くんのリアクションだけ見えるのもいい。
すごく生き生きとした可愛い表情で出迎えてくれる天使くんをヤニ下がったキショ笑顔で眺めましたよ。良かった。
ちなみに電子版だと、幸紀の台詞が書き込まれたネームが読めるので、幸紀側のリアクションが気になる紙版ユーザーは購入検討してもいいかも。
でも多分、答え合わせのような読み方になるんじゃないかな。
ニュアンス違いはあるだろうけど、予想通り! のといった気持ちになりそう。
Aくんとタカコちゃん
この物語の中に於いては、舞台装置以外の何者でもないので、作中で描かれた以上の情報は必要がない人であるのは重々承知の上で、作中で垣間見えてくるAくんの家庭環境や本人の性質が厄介そうで、どうにも女の子に好意を抱かれる人物像のようには思えないので、どうしてタカコちゃんが彼のことを好きになったのかが知りたいなと思ったりした。
とはいえ、タカコちゃんの事も伺い知れる事は限りなく少ないのでなんともだけど、自分の感情に振り回されて、ぶつけどころがあるなら、見当違いの内容や相手であったとしても、当たってしまうのが思春期だろうしね。
等身大に近いような少女像で、タカコちゃんの言動を読んで、自分の十代の頃はどうだったかしらと少し古傷が傷んだりもした。
どんなに時間を掛けても、自分の意志で向き合えるならどう考えたってタカコちゃんのほうが当時の尾花少女よりも大人だしいい女だよ、間違いなく。
事の流れは関係なく、ただ感じたままに自分の情のある相手に無条件に肩入れし、他人に敵意を向ける……これは思春期とは関係のない、タカコちゃんのみならずとも作中でも描かれた人間の悪い習性だよね。
敵扱いされた側は良い気はしないから、天使くんや幸紀の視点に寄った味方をしてしまいがちな我々読者の中には、Aくんの時然り、素手エアロの時然り、タカコちゃんにヘイトを向けた人も居そうで少し不憫な気もする。
尾花はBLに登場する女の子に肩入れしがちなので、最後にそういった印象を払拭してくれる登場をしてくれたのが嬉しかった。
タカコちゃんの年相応のところと、時間を掛けながらも天使の死について向き合い、彼の家に手向けに行く心と意思の強さが魅力的な女の子だったし、彼女の話をもっと見たかったなと思いました。
尾花はタカコちゃんに入れ込む反面、Aくんに対してはなんやそのちぐはぐした挙動。何? 怖。キショ。……という、尺取虫でも見たか? みたいなリアクションを取ってしまったのだけど。これは許されたい。
ちょっとの登場なのに、執着と嗜虐心しか見えてこないの怖い。
将来の夢が福介(カラーレシピの攻め)だったりする? ……違うか。
事故とはいえ、死んでしまったら、未成年飲酒と窃盗の罪は無くなるんだろうか。
やっぱり、Aくんの親好きじゃないな。
元来本人の持つ性質だったのか、生育歴故の歪みなのか知らないけど、この親にしてこの子ありと無責任にも思ってしまう。
タカコちゃんがいる学校、ええとこだって店長言ってたよね? にしては出てくる描写の治安が悪くて尾花は怯えるしかないです。怖ぴ。
父!!!!
草臥れた男やもめが好きな尾花です。大好物です。
ご趣味が落語! 良いですねえ〜! 楽しい話を聞かせるという習慣が根付いたご家庭で育ったからこそ、天使くんの軽快で闊達、なのに繊細さも同居させた不思議な魅力のあるトークスキルが培われたのかも知れませんねえ。
幸紀達が会いに行った時のお父様の落ち着いた対応は沢山傷付いて疲れ切った後だからこその物なのかもしれませんが、落ち着いた物腰にユーモアもあって、尾花とっても好き。
父ルート開く? 開いてくれない? 幸紀と傷の舐め合い穏やか生活しない?
……しないか。
幸紀は傍らにいなくともずっと天使を感じながら生きていくんだから。でもたまには父が漏らした通りに、サシ飲みして欲しい。
あり紗
顔の情報量がすげえ。作画すげえ。勢いすげえ。女だ……女……。
もう蛮族の感想しか出てこない。
分かるでしょ、普段男を描いてる作家が女を描くと普段は得られない栄養が手に入るし、そのまた逆で女を描く作家の男も最高な訳よ。
目鼻立ちがハッキリした濃い美形を描いてくれてありがとう。
あのさ、後ろ頭だけの登場だった弟はスピンオフ的な何かでBLしてたりしない? ありそ~と思っちゃったんだけど。有識者、友紀の所在を教えて。
ファンタジーとして
天使の羽が、華やかである以外に、繊細な性質を持つ人でない何か。の記号として視覚として分かりやすい設定として扱われている点は上手いなあと思った。
ただ反面、なぜ死んだ人に羽が生えるのか、死んで尚も空腹になるのは何故か。等、曖昧で腑に落ちない点があるのも事実。
とはいえ、メインは幸紀と天使の交流であり、サブは人それぞれの過去(死)との向き合い方だとかなのだろうと思うので、気にする方が悪い案件なのかもとぐっと飲み込む他なさそう。
幸紀にしか見えないは、まあそういう幽霊もいるでしょう。こういった幽霊が出てくる作品のセオリーだしね。で、納得する心積もりだけ持ってる。理由付けが欲しいのは変わりないので気持ちだけね。
パァン
そういえば、尾花、天使くん初登場直前のパァンという効果音の意味が分からなかった。
地面に人体が打ち付けられたらそんな音がなるんですか? 有識者、具体的な説明は要らない(怖い)ので有るか無しかで教えて。
でも、天使が自殺した少年である事を確認しあった後描かれた、裸の幸紀の傍らに姿のない人型が並んで座っている心象描写の中でもパァンと描き込まれているから、衝撃音だと思わざるを得ないんだよなあ。
ねえ、本当にパァンと鳴るの?
生活感
尾花の初はらだ作品がカラーレシピだったので、はらださんの作風に対して、生活感を感じる暇が無かったんだけど、雑多で狭いワンルームの中なのに、素麺が1玉毎にまとめてあったり、氷が乗っていたり、麺つゆ用の器があったり、なんだったら割り箸の袋で箸置きを作っていたり。
1カットで育ちが見えるのが面白い。
随分と細かい所を描くんだなあ。
多分、例に出した素麺は天使側から撮った物だと思う。
居候する代わりに炊事を担うと言っていたし、後のコマでお手製箸置きがあるのに直置きされた割り箸が見えるので。ガ、ガサツ〜!
親御さんの躾に忠実そうでいて、食べ終わったから良いや。的な調子の良さがぽくないですか?
台詞長いよね
一つ一つの台詞のセンテンスが長く、ぎゅうぎゅうに詰まっているのに読ませるテンポの良さと言葉選びが凄いなと思った。
インターネットスラムに身をやつす中で、台詞を簡潔にしろだとかと書いてある漫画の描き方ポストを何度も見て来た。
なのに、この作品では5行6行当たり前。ここがこの作家の持ち味なんだよ削れっか!! みたいなさ、作家のみならずの拘りに思えちゃうよね。
実績があるから好きにやってくれ的な放任だったりするのかもしれないけどさ。
でも、長台詞が特徴的なのは確かじゃない。
かと言って、台詞頼りの作品かと言えばそうでも無く、サイレントでも印象的なシーンを説得力を持って描ける人だからこそ、日々ファンを増やしている訳だろうし。
SNS
なんてものを仕込むんだ。
QRコード読み込んだ?
思わず端末投げてベッドにダイブした。
そんな手の込み方ある????
ズッッッルイわ。
こう書くということは見てます私は。
答えはちゃんと漫画の中にあるから、まだの人は試してみてね。
有料ページを読む前に
まず最初に断っておくと、賛否両論ハッキリ出るタイプの本作(『カラーレシピ』)において、作品としての完成度は認めるが、登場人物の意図が読み込めず(特に攻めの福介に対して)、『何だこれ』という違和感を強く持っています。
良いところを挙げるよりも不理解故の疑問の方が多く挙げられる自信があります。
否寄りの感想を持っていると思って読んでもらった方が安心して読めるかと思います。
なので、私と同じように違和感を持って読んだ方、大好きな作品だけど、あえて違う感想を読んでみたい。等、共感や好奇心を求めている方に向いた感想になっているかと思います。
作品批判をしたい訳では無く、あくまでもポジティブに自分が読んで感じた違和感の言語化をしながら、この感想を読んだ方と解釈の一例を共有したいという意図のもとでの公開です。
以上ご了承の上ご購入をお願いいたします。
購入後の返金ご批判には応えかねます。
また、購入後、外部に本文を持ち出す行為もおやめください。
与太を語りて銭を貰いつつよろづの事につかひけり。 (尾花の血肉になったり、活動を豊かにする為に使います)