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【おいしく食べて、宇宙とつながる】 フレンチ薬膳 食べ物といのち

心や身体、髪、骨、臓器、血、人間を構成するもの全て、私たちが今まで何を食べてきたかの結果です。そして、今までどのように感じ、受け取り、生きてきたかを映し出す鏡だと思います。
―坂井美穂

中医学に見る心と身体

 私が専門とする中医学は、心と身体を切り離して考えません。
 心が病めば身体も病むし、身体が弱れば心も弱る。それは中医学理論の大きな特徴である『ものを一つのまとまりとしてみる視点』がベースになっています。

 例えば、人間を一つのまとまりとしてみると、人間は人間をつくる要素(臓腑、器官、身体をめぐるエネルギーなど)それらすべてが繋がり、融合し、人間という一つのシステムを作っています。この要素一つひとつがきちんと働き、機能してバランスをとっているのです。
 何か身体に問題が起こった時、その問題や部位だけをみるのではなく、全体をみて何が原因なのか根本を探っていきます。
 「木を見て森を見ず」ということわざがあるように、その部分だけみてもなんの解決にもなりません。中医学は身体全体を一つのまとまりとして、すべてを通してみていきます。

 そして、宇宙や世界を一つのまとまりとして見た場合、「人間は自然界の一部」ととらえることが出来ます。
 私たちは、人間界だけで生活しているのではなく、太陽や水、木々、風など、たくさんの自然に囲まれて生きています。だから必ず自然の環境が身体に影響を及ぼします。
 梅雨には湿気が身体の中に溜まりやすくなったり、夏の猛暑で体内に熱がこもり不眠になってしまったり、身体も心も自然の影響を受けるのです。

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 このように人間だけをみず、とりまく環境や自然の変化も含めてみていきます。
 自然の変化や制約を受け、それに順応することが健康を保つ秘訣です。人工的なものではなく、自然界のエネルギーをいただき、身体にそのパワーを宿すことがメンタルもフィジカルも強くします。

薬食同源―自然にかなうものはありません

 この中医学の考え方を基本にして、食物の持つ力を最大限に引き出し、その力を頂くのが薬膳です。
 自然にかなう物はありません。自然ははかり知れない時間をかけて存在する、地球の命の続きです。身体に地球のパワーを取り入れ、自然に寄り添うことで、心と身体の美しさは磨かれます。

 薬膳は薬食同源(薬も食物も同じ自然界のものであり、同じように効果効能を持っている)という考え方があります。
 どの臓器に力を与えてくれるか、身体を冷やすのか温めるのかなど、自然界の食物の持つ力から選び、季節や体調に合わせて作ります。

 のどの調子が悪いとき蜂蜜大根を食べる、風邪のひき始めにくず湯を飲む、冷え性なので生姜を食べるなど、昔から体調が傾いた時には自然の力で整えてきました。食養生という言葉があるように、食は楽しみとなり、時に薬となります。
 今は食に関しての情報が、とても多くなってきました。しかし、その食材や食べ方が体調や体質に合っていないと、効果がないどころか逆に悪化してしまうこともあります。
 例えば、生姜が良いといわれていますが、はたして自分に生姜が合うのか?を考えなくてはなりません。食材のもつ効能を知り、体調や季節に合わせて、適量を食すのが大切です。

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 薬膳を知ると、旬の意味を理解することも出来ます。
 例えば、春。
 春は冬の間ずっと溜めていたエネルギーが目覚め、芽吹き、花が咲き、エネルギーが上に向かう季節です。感情も春になるとウキウキしたり、新しいスタートを切ったり、前向きになります。そして動物が冬眠から目覚めるように、人間の身体の中でも静かに活動を控えていた老廃物が目覚めてきます。ゆらぎの季節と言われるように、急なアレルギーや肌荒れなどの症状が出るのはこのためです。
 その原因である老廃物を除去するために、ふきのとうやタラの芽、タケノコなど少し苦味のある食材が生えてきます。春の旬のものが持つ独特の苦味は、解毒や解熱、消炎など、鎮静したり、老廃物など要らないものを排除する働きがあるのです。

 このように、自然は必ず必要なものを与えてくれます。
 旬とは自然の摂理を理解することです。自然と共存し、感謝し、生きることを、旬から学ぶことが出来ると思います。

輝きのある毎日に、ほんとうの美が宿る

 私はこの薬膳を、フレンチ風にアレンジして提案しています。
 薬膳料理と聞くと、特別な食材を使う難しい料理、苦くて薬っぽい料理などと思われがちですが、そんなことはありません。

 トマト、ニンジン、かぼちゃなど、身近に揃う食材で簡単に作ることができ、体調や季節、あるいは美容やアンチエイジングなどを実現することも出来ます。難しい調理法をしなくても、高い食器を揃えなくても、ソースのかけ方や盛り付け方ひとつで華やかに変身することができます。
 安くて簡単で、身体によくておいしい。フレンチ薬膳は、薬膳の理論からひも解いた、華やかでおいしい家庭料理です。

 そして、愛情がこめられていないといけません。
 「お母さんの料理が一番おいしい。」
 それは愛情がこもっているからです。人は愛情を受け取り、感じ、それも栄養にしています。なにより大きく、大切なものです。

 そして、摂取することと同じくらい、出す力も大切です。
 身体の中に余剰なものが溜まり停滞すると、出す力そのものが弱くなります。食事内容だけでなく、精神的なストレスが身体に負担となり、熱や滞りを生む原因となります。
 気・血・水の全てが満ち、めぐりがよく滞りのない身体が、代謝の良い身体と言えます。
 必要なものや足りないものは補い、要らないものを捨てる。とてもシンプルです。
 心を満たすということも、忘れてはいけません。
 もちろん、無理に満たす必要はありません。自分を大切にするということです。前向きになれなければうつむいていいし、つらい時は困難に立ち向かわなくてもいいのです。
 心と身体の両方が揃って人間です。健やかに、そして輝きのある毎日に、本当の美が宿るはずです。

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自分に必要な食べ物を知り、選び取る

 心や身体、髪、骨、臓器、血、人間を構成するもの全て、私たちが今まで何を食べてきたかの結果です。そして、今までどのように感じ、受け取り、生きてきたかを映し出す鏡だと思います。
 つまり、美しく強いメンタルもフィジカルも食べ物から作る事ができます。
 これからは自分の事を自分で守らなければならない時代になりました。依存ではなく、自分の身体を知り、食物を選び取る力を身につけることが求められてきます。
 薬膳はそのためにとても強い味方になりますので、まずは旬を感じ、意味を理解することだけでも、一年後には明らかに変わっていることに気づくでしょう。

坂井美穂

2006 年拠点を日本からパリに移し、モデルとしてパリコレクションなどのショーを中心に活動。現在は麻布十番でフレンチ薬膳を提案しながら、身体の内から溢れる美しさや健康を追求した様々なサービスを展開。料理教室やレストランとのコラボレーションイベント・数多くのレシピ提供・商品開発に携わる。薬膳の資格、フレンチ薬膳通信講座や、テレビ出演等のメディア活動も精力的に展開中。

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『かんたんフレンチ薬膳 体の内面から美しくなれるレシピ58』
坂井美穂 著
1,430円(税込)
主婦と生活社

『血めぐり薬膳 からだぽかぽか温まり 冷え・肥満・老化・婦人科トラブルを改善』
坂井美穂 著
1,540円(税込)
A & F 出版

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