えつこの部屋 すぴんおふ⑥―3.p.mさんじ 横田美宝子さん
きっかけはワークショップを開催したときにオーダーしたランチボックス。とてもおしゃれで美しい色合いの料理は、驚くことにすべて自然の色そのものでした。目にもからだにもうれしい料理は、どのように作られているのでしょうか。作るよりも食べるほうが好きな編集長・えつこが、素朴な疑問の数々をインタビューしました。
おしゃれな料理は遊びから
えつこ 書籍『3pmさんのおやつまみいろいろ』の中の料理は、わたしにも作れそうなシンプルなものがたくさんありました。メニューは書籍用にアレンジしていますか?
横田 すべて普段出しているものです。幼稚園生、保育園生でもできる料理です。
えつこ 冷蔵庫の残りもので作るみたいなものに憧れます。
横田 普段もそれに近いですね。試作やメニュー決めをするときなど、鎌倉野菜の直売所や、お世話になっている生産者のところへ、たとえば葉山の江戸時代から続く自然農法の畑などに行き、ときには土から抜くこともあります。
同じにんじんでも形が違うし、それにあわせて料理内容を変えたりします。素材を並べ触れて、じゃあ、これとこれでメニューにしようかって決めたりします。そこには「遊び心」というスパイスがかけられます。
料理のうまみの素
横田 本来料理は遊びで、素材に触れる時間を5分でも10分でも取ると、素材ととても仲良くなれる気がします。
野菜は触れると気持ちがいいし、触れているとインスピレーションが沸いて、「じゃ、こういう料理にしよう」と思います。
えつこ すごくおしゃれで凝っていて、これはどうやったら出来るのだろうと思うのですが、アイデアの素は農家の野菜に触れるところから生まれるのですね。
横田 ペットでも、バッグや洋服でも、触れる時間ってけっこうありますよね。でも、お料理の素材って案外触わられてないのでは? 実は、そこが一番のうまみの素。
素材の色は100%自然のもの
えつこ お弁当を頼んだときにビーツを使ったごはんの色がすごく綺麗で、「えーっ? こんな色が出るの?」と驚きました。食べるとおいしくて、
しっかりビーツの味がして。
横田 夏のビーツは若干ピンクっぽくて、冬のビーツはパンチが効いた桃色です。産地やそのときの気候によって違うので、同じ色はなかなか出ません。旬のビーツはとてもパワフルな色味ですが、旬じゃないのに出回っているものは色が弱かったり、不自然に水が出て腐ることもあります。
素材も色も「感じる」と旨みが増すように思います。そんな旨みこそ心へ届く栄養だということを伝えたいと思っています。
普段の食事
えつこ 普段の食事はどうされているのですか?
横田 普段もいっしょです。この瞬間に出会えた食材や残り物を使って、ワンプレートにしますね。子供が小さかったときは、けんちん汁やポトフなどの煮込み料理を、よく作り置きしました。夏は冷やした味噌汁も。
何十品とか頑張らないです。例えば、サラダや浅漬けとご飯だけとか。ちょっと胃が重たいときは炭水化物を食べないこともあります。旬の野菜や残っている素材をオイルとスパイスでグリルするだけとか。
そして、葉っぱも皮も根っこも種も全部使うことが多いです。ピーマンは種や綿まで。小さい種だったらいっしょにグリルしちゃいます。姿焼きみたいにして、5分で終わっちゃう。
えつこ 心強いお言葉です。
横田 凝らない。夏はピーマンの種を冷蔵庫に入れて、すこしたまったら、水と醤油、ゴマ油やオリーブオイルで佃煮風にしたり、サワークリームと和えたりします。乳製品が苦手だったら豆腐や豆乳、ピーナッツクリームを使っても。ナッツや、味噌と合わせるとコクが出るので、乳製品を使わなくてもリッチな感じになります。
えつこ 調理料をいろいろと持っているといいですね。
横田 白味噌もおいしいですよ。私はマッシュポテトには必ず入れます。
薬膳との関係
えつこ どこかで習ったのですか?
横田 薬膳は習いました。薬膳には食べ合わせとかノウハウがあります。それ以外には、玄米食、菜食を実践し、ビタミン科学を勉強しました。
出産してからだを壊したことがきっかけですが、母の影響があるのかも。今のようにマクロビという言葉がなかった時代ですが、母が更年期のとき、からだのバランスをくずし、玄米を何時間もかけて炊いていたのを見ていました。
えつこ さんじさんの料理のメニューは、薬膳の割合が高いですか?
横田 薬膳の考え方を積極的に取り入れています。でも薬膳といっても難しくはありません。ざっくりいうと旬のものを食べると整います。食べ過ぎなければ。過ぎなければというのは、いいからと言ってそればかり食べているとかえってバランスを崩すこともあるという意味です。薬膳の考え方のひとつで「過ぎると何事も邪になる」という教えがあります。
宇宙にお手本はない
えつこ 食べることは楽しみですが、健康やからだを思うと楽しめなくなります。どう考えますか?
横田 やるときはとことんやります。でも絶対どこかで窮屈になるんです。そのときは「やーめた!」と頑張らないで、潔くギブアップします。こう
であるべきという捉え方はしませんね。「合う!」と思ったら貫けばいいと思うし、「なんか違う」と思ったらやめればいい。自分の気持ちと丁寧に関わっていくことが、養生になると思います。
これはわたしの勝手な考えですが、たぶんこの宇宙にお手本はないと思うんですよね。
食べ物は気を移す
えつこ さんじさんのお料理は楽しい感じやわくわくする感じが伝わってきて、色も本当にきれいです。作っているひとの想いが、料理にも表れているのを感じますね。
横田 作る人の気が食べ物に移行するように感じます。素材に触れるとき、自分の想いとかコンディションには気をつけています。疲れているときってわかるじゃないですか。そのときはスタッフも休ませます。その瞬間の気が食べ物に行っちゃうと思うので。
人生なんて旅みたいなものだから、長い道中まっすぐな道であるわけがない。疲れたら立ち止まればいい。十分休むこともときには必要です。
コンビニは好奇心を育てる
えつこ ところで、コンビニなどは利用されますか?
横田 コンビニ、よく行きますよ。「今パクチー来ているな!」「やっぱり桃なのか!」とか。その時代のブームを知られて面白いです。パッケージが可愛くてワクワクするものなど購入します。ワクワクは好奇心を育てると思います。
子供たちへもダメって言ってこなかったし、いっしょに買い物しました。でも、日常で自然リズムのものを食べていると、「これ、おいしくない」
とか言います。そんなにダメって言葉を使わなくても、信頼していると間違った方へはいかないような気はします。
すべてを使い切る
えつこ ディップが多いのには、理由がありますか?
横田 丸ごと使い切るということを考えると、茎などの硬いところはそのままでは食べにくいけど、ディップやソースにするとおいしくてチャームポイントだけが引き立ちます。保存できるし、アレンジも自由自在。
皆さんご存知ないのですが、生野菜から食中毒になったりすることもあるんですよ。市販のカット野菜には、そのようなことを防ぐために、いろいろと添加されていることが多いということを、知っておくことは大切なことかもしれません。
ソースにすると火を通すので、お弁当にしてもリスクはすごく減ります。無駄なく使い切れて、色も楽しめて、組み合わせで和風にも洋風にも
エスニックにもなり「安全・簡単・アレンジ自由自在」と良いとこ尽くしです。
えつこ ディップはワンランク上のお料理って感じがして手が出なかったのですが、そういう訳ではないんですね。
横田 簡単ですよ。こだわり過ぎをひとつ省いて、遊び心をひとつ加えることのできる一品になります。何もかも完璧にする必要はないと思います。人間関係も全部がんばらないで、「できない」、じゃ「誰だれさん、お願いね」って無理しないで甘えたらいい。そこでできた余力で私にしかできないことをやればいい。私は人使い荒いですよ! 「手伝って」っていいます。出来ないもの、わたし一人では。
えつこ 人生はすべていっしょで、つながっていますね。
横田 つながっています。大地も素材も人も! ポトフ料理のように大きなお鍋の中で交ざり合って、活かしあって、生まれる味は忘れることができません。
きっと料理も頑張らなければ、楽しいですよ。
横田美宝子(3.p.m. さんじ)
葉山にある隠れ家フードスタジオ、おやつ&デリ「3pmさんじ」のオーナー。フードデザイナー。株式会社3・SUN・TREASURE 代表取締役。一般社団法人pot・au・feu プロジェクト協会 代表理事。
鎌倉薬膳アカデミーの山内正惠先生に師事。自然の色を目から楽しむことを大切にし、生産者から直接仕入れて、薬膳のメソッドと四季のリズムを生かした、独自の養生ご飯とおやつを作っている。企業や大学とのコラボレーションによる商品開発、就労支援施設での菓子製造指導など多方面で活動中。
『3pm さんのおやつまみいろいろ 野菜そのままの自然の色がおいしい!』
横田美宝子 著
文化出版局
定価1,320円(税込)
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