エドゥアルド・メンドサ『グルブ消息不明』
世界の文学を読む3冊目は、1992年オリンピック前のバルセロナに降り立った宇宙人たちを描いた『グルブ消息不明』です。
1992年バルセロナオリンピック前夜
後書きを読んで、「ちょっと時代古くない?」となった平成生まれです。
生まれる前だもん……。
で、翻訳者さんの後書きに大体のところは書いてあるので、そちらを先に読んでもらうこととして。
無造作な都市計画の修正。
観光名所を作るために、博物館や美術館の改装。
スラム街の一掃。
なんかがあったらしいです。
で、スラム街の一掃って……。
2014年ブラジルワールドカップや、2022年北京オリンピックでスラム強制立ち退きなどの非難報道があったけど。
「1992年のバロセリナオリンピックでもあった」?
先進国も通ってきた道ジャン!!
「だからこそ、同じ悲劇を起こさせない!」とか思う方もいるかもだけど、そういう問題でもない。
これは南北問題、先進国と発展途上国の問題なんですよ。
例えば、地球環境のために「環境汚染をしないように」って先進国は言うけど、今まで地球汚染して先進国の立場を獲得してきておいて、経済発展を急務としている自国はダメと言われる。
なんやねんそれ!?
建前はわかるよ建前は……でもそっちが言うかー?
ってなりません?
それと同じ理不尽が垣間見えた、時代背景でした。
読書感想
ここから、本を読んでの感想になります。
わたしとしては、こういうことを考えたーーという内容を含みます。
ネタバレがありますので、ご注意ください。
気軽に読めすぎる!! 宇宙人の日報型小説
語り手である「わたし」の名前は明かされない。
と言うのが、この作家さんの特徴らしい。
地球、スペイン、バルセロナに、現地調査のために降り立った宇宙人。
超美人ポップスター(女)の姿を纏って、先に調査に入った部下グルブが行方不明になってしまった……。
「わたし」も彼を探すために、バルセロナへ繰り出します。
異星人が人の形を纏う苦労を面白おかしく描く導入に病みつきに。
新聞連載されたという、この小説はちょっと変わった形式になっています。
時間と、数行からなる行動報告。
それが、日ごとに並んでいます。
そう、地球調査をする宇宙人の日報形式になっているのです。
これが、読みやすい。
小説の一日分を、一日ごとに……と思っていたのですが、面白過ぎて一気に読んでしまいました。
妄想炸裂。コレはよーするに、同居人あるいは夫婦問題なんですよ!!
ここからは、結末に関するネタバレ、好き勝手な妄想を含みます。
グルブが再度行方不明になる結末に、「釈然としない」という感想も見受けられる本作。
でもね、わたしは「世知辛いー!!!」と叫びながら受け入れた。
何故かというと……。
と、その前に大前提の設定!
主人公「わたし」とグルブは、姿形を持たない精神体系知的生命体で、いろんな惑星を調査している。
宇宙船は、二人の生命体が共同しなければ動かないスタイルらしい。
そして、地球を探索する指令が降りて、先に降り立ったグルブが消えてしまった……というのが導入。
で、最初の方に「グルブが料理をしていたから、わたしはできない」みたいな箇所があるのね。
はい。
わかりますよね?
わたしの腐った(どんな二人でもカップリングしてしまうボーイズラブ好き)部分が疼いた!!
つまり……。
グルブは部下兼相棒兼恋人なんだ!
いや、別にそうじゃなくてもいいけど、そういう設定で妄想を楽しませてもらおう!
と、読み始めたんですよ。
で。
グルブの気配がないことに嘆きながら、「わたし」は本を読むわけですが、「グルブに読み聞かせ、解説してやったことを思い出す」んですよ。
いや〜。
はい、ありがとうございます。
精神体同士のラブストーリーとしてめっちゃいい妄想の材料ですよ!?
が。
しかし、ここら辺から、雲行きが怪しくなる……。
料理に続いて「わたし」は「宇宙船の修理もグルブに任せていた」ということが判明するんです。
……。
…………。
………………………。
お前、何ができんねん!?
しかもですよ!
「わたし」の欠点は他にも!
気に入ったチェロスを毎日バカ喰いする。
体重がやばくなっても食いまくる。
恋した隣人に突撃しまくって嫌われるコミュ障っぷり。
こうなったら、あれだわ。
本を読んで解説していた、ってのも、家事と宇宙船メンテで疲れたグルブに無理やり読み聞かせをし、蘊蓄を垂れていた可能性が出てくるわけですよ。
しかも、二人いないと動かせない宇宙船で、二人っきりで旅している……にもかかわらず、相棒扱いせずに、上司と部下だって言い切っちゃう「わたし」。
最初は、グルブを保護しているみたいな、そういう気配があったのに……台無しだよ!
グルブからしてみれば、家事も宇宙船メンテも出来ない「わたし」に、立場が下って思われてるわけ。
全部、台無し!
もう無理です、「わたし」がグルブに惚れていても、その逆は絶対に想像できない、っていうかありえないから!
グルブ視点でまとめてみるとこんな感じになるんじゃないかな。
「わたし」の方が上司だと言って見下してくる
料理はグルブの担当(多分他の家事も!)
修理を始め、宇宙船メンテもグルブの担当
たぶん、その他の無数の雑務もグルブの担当
でも、本国との連絡は「わたし」がやる
本を読み聞かせてきて、蘊蓄垂れてくる
食欲に忠実でだらしない
一回成功したコミュニケーション方法を、うんざりするほど何回も繰り返す系のコミュ障
そりゃ、美女の姿を纏ったら、逃げるわ!!!
全力で逃げるわ!!!!!!
注目すべきは、再会してからの部屋の違いだと思う。
「わたし」の方はゴミ屋敷で快適とか言ってる。
これが、この宇宙人のスタンダードなのかな? とか思って読んでたら。
グルブは、高級アパートで快適な暮らしをしてるんだよね。
無理だよ!
解散!
住環境の好みがそこまで違ったら、共同作業必須の宇宙船に二人きりで閉じ込められているとか絶対に無理だよ!
そりゃ、グルブは逃げるよ!
むしろ、逃げるタイミングを図ってたまであるよ!
地球と、その人類が文化レベルとかも程々に良かったから、脱出のチャンスと逃げたに違いない。
「わたし」よりも、美女によってきて、チヤホヤしてくれる男のがいいに決まってんじゃん!
よりどりみどりで選べるし!
しかも、「わたし」は最後まで勘違いしているんだよね。
次の調査地に住む知的生命体が虫みたいな見た目だから、快適な地球に居られるようにする……という流れになる。
「わたし」から見たら。
グルブから見たらきっと、「表面的な問題だけで片付けて、結局、姿をくらました理由なんて少しも考えてくれなかったわけね」ってこと。
「料理や、宇宙船の修理が大変だってわからなかったの? ずっと部下だからって押し付けてきたことに謝罪はないわけ?」
そりゃ、また行方不明になる!
マイナスだった愛情ゲージが天文学的なマイナスになって、残っていた情とか憐憫とかが一瞬で蒸発しますわ!
夫婦の姿を仮託して考えたら、結構すんなり理解できると思う。
見下しぎみの夫が、家事どころか家の修繕まで押し付けてくる。
その上、今それどころじゃないくらい忙しいのに、哲学だか古典だかの本を読んで蘊蓄垂れてくる。
そもそも、食欲の権化だし、だらしないし、不潔な方が好きとかマジで勘弁してほしい。
主人公「わたし」は「離婚」の二文字がただの脅し文句で、実際に離婚されると思っていない夫みたいなもんです。
いや、それ以前。
離婚したいんだけど、のメッセージが理解できてない。
行方不明で音信不通なのに「別居します」が通じてないわけだから。
だーーーーー!
何それっ!
世知辛い!!
精神体同士のラブストーリーを妄想する余地が微塵もないんですがっ!
いや、グルブは逃げていいよ!
いくらなんでも、こんなやつとカップリングしないよ!
できない!
逃げ切って!
自由に生きて!!
そう、わたしは、なんとか禁断の愛を隠して訓練をクリアし、色々と策謀を巡らして大事なものや人も犠牲にしながらもパートナーとして認められ、二人きりで宇宙を彷徨い、時には喧嘩をしながらも共依存もあってお互いを愛し離せない、彼らの同僚でも妄想して満足するから……。
つながる、読書案内
前々回・前回の二冊は結構、社会的な意義も大きい、重めの小説でした。
今回のような、軽い、コメディチックなのもいいですよね。
さて、今回の『グルブ消息不明』ですが、背表紙を見るにどうやら「はじめて出逢う世界のおはなし」というシリーズ出版のようです。
東宣出版さんによれば「”大人も、子どもも楽しめる!”をコンセプトに、独創的な海外文学を紹介するシリーズです」とのこと。
初めて聞く出版社さんです。
Wikipediaにもページがない……。
キャッチコピーもいいし、絵本なんかも出版されているようで。
「大人も、子どもも」というのは伊達ではないのかなという感じがします。
他にも面白そうな本が出ているので、ぜひチェックしてみてください。
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