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It's always darkest before the down

「ほんと、旦那さんがよく許したよね」

 許したっていうか、なんていうかさー、認めた? と、しきりに不思議がる、今いちばんの女友達(十以上年上の女性に向かって「友達」って呼び方が相応しいのかはわからないけど)が、入院した。入院なんて似合わない、豪快で繊細でキュートでユニークな、ビール好きの友達。彼女の旦那さんから告げられた後、襲ってきたのは恐怖と不安と緊張だった。この心の不安定な様を、私は以前にも経験したことがある。それも、強烈に。


「男女の友情は成立しない」派の彼女が、めちゃくちゃ不思議がるのが、こーちゃんと私の関係だ。

 こーちゃんとは、大学三年生の時に出会った。嘘、出会いはきっと大学入学だけど、お互い意識したこともなかったし、同じ授業で顔くらいは目にしても認識はしない、そんな感じだった。ゼミのグループ研究で一緒になって、初めて話すようになった。それが今ではもう、十年近いつき合いになろうとしている。人生何があるかわからないな。

 こーちゃんは男で、ゼミが一緒で、最初は何番目かのカレシの友達で、今はもうこーちゃんはこーちゃんだ。私の中で、「こーちゃん」という椅子がしっかりあって、それはまるで昔幼いころに一緒にお風呂に入っていた従兄弟のような存在なのだ。それは何にも侵されることがない。

 こいつがまた、ちょい皮肉で、だけど憎めなくて、冒頭の女友達曰く(そう、一度だけ会わせたことがある)私と雰囲気がそっくり似ている。ちっちゃいビールの缶を片手にやたら遠いコンビニまで往復した温泉街、夜中に高速をかっ飛ばして行った兵庫は竹田城(雪道で危うく二人で死ぬところだった)、事故った雨の日のビリヤード(運転手は私)、現地集合・現地解散を店員さんに笑われた東京旅行、四月の海辺の散歩で拾った貝殻。愛を語るのはここまでにしよう。


 不安は、喉に巣くう。

 黒いかたまりになって喉を押しつぶし、胸を恐怖と緊張で埋め尽くす。

 夫の休職中、私の心もしょっちゅう不安定だった。LINEでの連絡ひとつ、億劫になってしまった夫に心抉られたし、「年度が明けたら結婚しよう」と言っていたその時期が近づいても、なかなか回復しない現実に焦れ、どうにかなりそうだった。

 救援信号を出した先は、こーちゃんだ。昼間でも夜中でもSOSのメッセージを発し、ずっとずっと救ってもらっている。泣きながらした電話、文字だけのやり取りでさえ、見返すと、恥ずかしいくらい胸の内をぶつけていて(打ち明ける、なんてもんじゃない)それをやさしく(時にテキトーに)受け止めるこーちゃんに、「持つべきものはこーちゃんだ」と思う。私もこーちゃんの発する救援信号を、拾えているのだろうか。


「男女の友情は成立しない」派の女友達の彼女に、「こーちゃんは小さいころからよく遊んだ、従兄弟」と例えたら、納得された。そんなカテゴライズする必要なんて、ないのに、さ。



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