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残念な昭和の先生図鑑~スズタ~

※この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません

昭和な時代は良くも悪くも分かりやすかった
尾崎豊の”卒業”にある

夜の校舎 窓ガラス壊してまわった

尾崎豊「卒業」から引用

はノンフィクションで、近くの都畑中の窓ガラスが無いことを知らぬものはいなかった


昭和な時代は反抗の方向性も正しかった

ヤンキー女子はスカートの長さを競っていて、足が見えることはなく、靴のつま先だけがようやく確認可能なありさまだった

令和のようにスカートの短さを競うなんて、ありえなかった

これは昭和が正しい
スカートを短くして喜ぶのは男性教師どもだ
反抗したい相手を喜ばせてどうする?

…と、言いたいところだが、令和女子はそもそも教師に反抗する気は無いような気もする


天安門より広いとはいえ、にゅうしを潜り抜けて市高へやってきた精鋭あほうどもは、さすがに窓ガラスを割って歩くようなマネはしなかった

せいぜい卒業式の後、校舎の影 芝生の上 すいこまれる空 のもとにあった女性のブロンズ像を、なまめかしい肌色のペンキでぬりたくって出て行ったくらいの、可愛いものだった

乳首をちょびっとピンクにしていたところに、彼らのセンスと憧れが垣間見えて微笑ましい限りだった

それを物足りなく思ったわけでもなかろうが、生徒をチョクチョク刺激していた教師が ”スズタ” だった


スズタは身なりはしっかりしており、いつも地味目のスーツに黒縁メガネ、髪はヘアトニックできちっと七三に分けられていた

いつも何もかもが面白くなさそうな仏頂面で廊下をさまよっていた

そんなスズタだが、2つの武器を備えていた

1つ目はありきたりではあるが、目から催眠ビームを発せた

フツーの教師だと、授業中に目が合うとそれなりに緊張するものだが、スズタの場合、目が合った生徒が吸い込まれるように眠りにつくことは日常茶飯事だった

あの地味な黒縁メガネに何かが仕掛けられているに違いないと、精鋭どもは戦々恐々としてた


もう1つの武器が、生徒のやる気を根底から破壊する呪文

「オマエラバカナンダカラヨォ~」

だった

板書をして振り向くと、必ずこの呪文を発してた
50分の授業で軽くふたけたは発してた

令和だったら苦情の1つも高校に入るに違いない
昭和は良い時代だった

この呪文を発するとき、ほんの一瞬だけスズタの口元に笑みがこぼれた
スズタの仏頂面が崩れる唯一の瞬間
この呪文を発する快感だけのために教師を続けていたのだろう


しかしスズタの「オマエラバカナンダカラヨォ~」は市高の精鋭どもには通じなかった

「バカ」と言われてムッとするのは、「バカ」と呼ばれ慣れていない奴らで、「バカ」に鍛え上げられてきた市高の精鋭どもの心には何ら響くことはなかった

むしろスズタに「バカ」と言われた次の瞬間、目が合ってしまおうものなら瞬時に爆睡してた。日頃の鍛錬バカになれてしまうことは大切である

しかしこの呪文に見事にハマってしまった精鋭がいた。”鍬形クワガタミツル” である


クワガタはミヤマのように高く売れるわけでもなく、ノコギリのようにカブトと戦う訳でもなく、コクワのように可愛くセカセカと市高に生息していた

なんせ市高の門をくぐった時の身長は142cmくらいの極小サイズだったので、腕力でかなわない分、知力を磨こうと志を立てていた

そんなクワガタだったから、スズタの「オマエラバカナンダカラヨォ~」という呪文に 幻とリアルな気持ち を感じて、あっさりとハマってしまった

ハマって、何に従い 従うべきか考え、心ざわめき 今、俺にあるもの意味なく思えて、とまどったあまり取った行動が

この支配からの、卒業~♬

だった


ここで奮起して勉強でも始めようものなら美談となるのだが、そこは市高の精鋭である

クワガタは知力でのし上がろうと志を立てていただけあって、数学では常にクラスのトップを独走してた。スズタからしたら数少ないマトモな生徒だったハズ

そしてやってきた中間テストの返却日
スズタの目はいつもにもまして虚ろだった

ひとりひとり答案が返される中、クワガタは答案を受け取りに行こうとすらしない。順番がクワガタの1つ後だったおいらは、しかたがないので代わりに受け取った

スズタの手が小刻みに震えていたのをはっきりと覚えている
クワガタの答案は

0点

だった。しかもほとんど解答した気配すら感じられなかった
思わず「おまえ、見ないほうがいいよ~」と言ってクワガタに手渡した

クワガタはちらっと答案を見ると、さもありなんという顔で受け取った

確信犯である。窓ガラスを割るだけが反抗じゃない。支配から卒業する方法はいくらでもあると感心した瞬間であった


その後もクワガタはスズタの授業はろくに聞かず、スズタの呪文は日に日に迫力が無くなっていった。MPが底をつくのも時間の問題だった

精鋭どもがクリスマスに浮かれ、一夜漬けすらせずに終わった期末テストが返却された

例によってクワガタは答案をとりに行かない。しかたがないのでおいらが代わりに受け取りに。しかし、今回はさらにスズタの様子がおかしい

黒縁メガネの奥で何かが光った
なんと催眠ビームではなく、涙だった

泣いてる⁉

何と泣きながらウンウンとうなずいている
おいらにうなずかれても不気味なだけである

クワガタの点数はなんとクラストップだった
授業はまったく聞いているそぶりを見せなかったのに…


後日クワガタに聞くと、成績はいつもと変わらなかったらしい。しかもコメントに「中間テストが悪くなければ、もっと良い成績にできた」と記載があったと

いかに精鋭どもの平均点が低いとは言え、0点をとっていつもと同じというのは何だかな~と思ったけど、これが世の中だと良い意味で社会勉強になった

支配から卒業して、自由を得るためには
どんな分野でも良いから強力な武器を持つことが大事なんだ…と


市高から卒業したスズタは、次に赴任した翠風高校で

「オマエラカシコインダカラヨォ~」

という新しい呪文を生み出し、メガシャキビームという武器を手に入れ、精鋭どもから好評を得たと風の噂が流れてきた

めでたしめでたし

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おおかみジジ(元おおかみパパ)
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