【名作迷作ザックザク⑭】~"祝!4Kリマスター放送"その3~ 孤島に男5人に女2人の"アナタハン"状況で遭遇するキノコ怪人はドナタハン?? やめられないとまらない『マタンゴ(1963)』の恐怖
結論から言おう!!・・・・・・こんにちは。ο(*´˘`*)ο
『遊戯王』は一応世代ではあるもののカードゲーム自体に手を出したことが無く、現在封印状態のアニメ第一期を観たぐらい、O次郎です。
あらためまして、原作者の高橋和希先生のご冥福をお祈りいたします…。
この5月から『シン・ウルトラマン』の公開を記念してということで、CSの日本映画専門チャンネルで円谷特撮映画が4か月連続リマスター放送されてます。
5月は『モスラ(1961)』、6月は『フランケンシュタイン対地底怪獣(1965)』と来て、今月は『マタンゴ(1963)』でございます。
特撮作品好きなのでレンタルなりなんなりで観ればよかったのですが今の今まで観ずじまい。されど傑作として名高くファンも多い(筋少の曲にズバリ「マタンゴ」って有るしね!)ので素通りは許されずというところを今回のリマスター放送でめでたく初視聴出来ました。
『ゴジラ』シリーズをはじめとする同時期の東宝特撮作品では今からすると子ども騙しな部分も散見されましたが、本作に関しては肝心のマタンゴの出番を削ったうえで濃密に展開される醜悪な人間ドラマが強烈であり、そのラストの陰惨さもあって確かにこれは老若男女の心に爪痕を残す作品だと感得した次第です。
本作を既にご覧の方はもとより、未見の方も作品がどんなもんか読んでいっていただければ之幸いでございます。
それでは・・・・・・・・・ ”さぁ・・・・・・ゲームの時間だ。”
Ⅰ. 作品概要
冒頭、事件の唯一の生存者である大学助教授村井が回想する形で物語が始まるのが怪談チックで、東宝特撮映画としてはかなりユニークな滑り出し。他の乗組員が帰還できなかったことが分かってから各キャラクターが登場するのがなんとももの悲しい。8月公開作品ということで、怪談映画感を醸し出して集客に結び付けたかったのかも。
また、”水爆実験の放射線によって変異したキノコを食した人間の成れの果て”という設定がイマイチ生かされておらず、マタンゴの脅威に放射線のそれが含まれていないので、異形・巨大化の理由付けのために放射線が持ち出された感が強いのは否めない。
実際、原作の海外SF小説は1900年代初頭に発表されていて核や放射能の設定は無いため無理があり、せっかく『ゴジラ』シリーズとは完全に別タイトルとして製作しているのだから、そこは切り離しても良かったのではなかろうか。
で、ヨットクルージング中の猛嵐で孤島に到着した男女が難破船の中で生活を始めるわけですが、性格設定の瞬時に表す演出は中々スゴイ。
〇大学助教授で心理学の権威ゆえにことさら冷静であろうとする村井
〇その教え子で婚約者、臆病で周囲に流されがちな明子
〇青年実業家で豪華ヨットのオーナーで常に尊大な笠井
〇笠井産業の社員で劣等感の有る作田
〇粗暴で反インテリの小山
〇推理作家でプライドが高く独断専行な吉田
〇笠井の愛人で合理主義の麻実
という具合で、序盤から既に人間関係で殺伐としそうな匂いが濃厚です。
船室から見つかったライフル銃の弾丸がほぼ無尽蔵でリロード描写無しなのがちと白けましたが、表面的には協力し合って理性的に行動していたメンバーが徐々に暴力装置に頼って力づくで他者を従えさせようとする変遷はその後の学生運動のようでもあり、展開として盛り上がるにせよなんとも暗澹たる思いも感じました。
また、展開として意外だったのが、島に漂着した早い段階からキノコとマタンゴの特性に気付き、キノコの危険性を認識しないまま口にしてしまった者が一人も居ないことです。そのため、その危険性と末路を十分認識しながらも飢えへの恐怖や救助の諦めからキノコに一人また一人と手を出す様は、まるでキノコが覚せい剤の暗喩のようにも映りました。
そして島内のキノコは「麻薬のように神経をイカレさせてしまう物質を含む」という設定ですが、キノコを食してしまった人間の初期症状や経過が上手く映像に昇華出来ていないようにも思います。
キノコを食してしまって間もない吉田が残りのメンバーに銃を突きつけるシーンが有りましたが、菌類の生理としては同化や繁殖に向かうはずで、無理やりキノコを食わせようとするなりするぐらいが妥当だったように思えます。
船内の缶詰の食料を巡って男性陣が小競り合いを繰り返していましたが、それであれば例えば”口減らし”のために誰かが他のメンバーの食事にこっそりキノコを混ぜて故意にマタンゴにさせるとか、もう少し心理戦を演出出来たのではと。
最初に銃で犠牲になった小山を”食料”にするのはさすがに展開として振り切り過ぎなので難しかったでしょうが・・・。
中盤を7人の軋轢描写に割いた分、ラストでマタンゴが大量に表れて囲まれる地獄絵図も大盤振る舞いは傾斜生産方式という感じで大いにグッド。
そしてマタンゴになり果てた一行を尻目に一人ヨットに戻って奇跡的に生還した村井も島で浴びた胞子でマタンゴになりかけている、というまさに怪談オチ。
「戻ってきてきちがいにされるなら、自分もキノコを食べて恋人と島で暮らしたほうが幸せだった」と語るラストですが、メッセージとして些か弱い。
というのも、一応毒々しいネオンで世俗世界が汚らしいものに描かれてはいるのですが、もっと過去の村井と明子への周囲の好奇の視線や、彼を狂人とも研究対象とも扱う病院関係者の利己的な態度も、端的にでもコントラストとして露悪的に描けた筈ではないかと勿体無い気はします。
と、書いてたらどうやら勿体無いと思えたシーンの方が多かったようですが、それもとにかく素材としてのこの作品の質の高さということで。
Ⅱ. キャストいろいろ
・村井役 - 久保明さん
『ゴジラ』シリーズにも何作か善玉の隊員役で出演されていましたが、後年は悪役も多かったようで。
一応、本作終盤に明子とのラブシーンは有りましたが、上述の通り俗世間でのシーンで道ならぬ恋の感じが演出されていればコントラストとして生きたように思えます。
・麻実役 - 水野久美さん
大胆な水着姿が何度も出ていたものの「ちょっとお腹が・・・」と思ってしまったのは現代の感覚ゆえか。(*´∨`*)
場面によって自分を厚遇してくれる男性に粉を掛ける絵に描いたような魔性の女ながら、それが極端に露悪的になっていないところが水野さんご本人の器量というものだろうか。
キャラクターの醜悪さという点ではある意味随一なので、なんなら彼女も醜悪な俗世の象徴として人間のまま生還していれば、ラストの村井のセリフも生きたのではないかと思う。
・作田役 - 小泉博さん
アクの強いメンバーの中では彼が一番どっちつかずだったかも。コネ入社で社長の笠井に劣等感を抱いていた反動で船長としてのリーダー風を吹かせてはいたが、もっと笠井に対してこの事件に乗じてこれまでの不満を爆発させる描写があればメンバーの不穏の転機として効果的だったかも。
・小山役 - 佐原健二さん
臨時雇いの猟師ということで本作唯一のブルーカラー。
その粗暴さはさて置き、中盤での食料探しに関する持論はもっともな説得力だったので、もし彼が徐々にリーダーになっていく展開があれば極限状態で権威がひっくり返る混沌が端的に表現できただろうにと思います。
もし本作が梶原一騎先生作品なら彼が女性陣に対して狼藉の限りを尽くしたことでしょう・・・。
・吉田役 - 太刀川寛さん
麻実とのラブシーンが幾度も有ったせいか、肉食系なイメージながら小説家という設定とぶつかってるような気がしちゃってちょっと消化不良のキャラクター。自身の小説を文壇の重鎮たちにこき下ろされて怒りに打ち震えてる描写が冒頭にでもあれば反骨の人物像がスッと腑に落ちたのだが。
・笠井役 - 土屋嘉男さん
彼も昭和の『ゴジラ』シリーズ重鎮ながら善玉も悪役もこなしてらっしゃる御仁。本作では麻実を愛人として囲っている社長であったが、それらしい"匂わせ"が無かったので、序盤に同じ煙草を吸いまわすなりしてもうちっと分かりやすくしてほしかったところか。
・明子役 - 八代美紀さん
大変失礼ながら、派手な水野久美さんの美貌に対してバタ臭い田舎娘の感じが高コントラストで大変良かった。
それゆえに男性陣側の「俺は麻実より明子の方が好みだ・・・」のセリフの下衆さも生きててなんとも。純朴な彼女ですらキノコに手を出してしまった終盤はショッキングでよかったが、どうしてもキノコを拒否したい潔癖さから自死する展開もアリだったかも。
Ⅲ. おしまいに
というわけで今回は昭和の東宝特撮の裏看板『マタンゴ』について語りました。
最後まで書いてても惜しいな~点が多くなってしまいましたが、当時の製作予算や撮影スケジュールや尺(おそらくこれが一番大きい?)の都合でああいう完成形になったのだと思います。
マタンゴの造形はもちろん見事ながら、極限状況の中での人間心理の相克を突き詰めた秀作で、しかも特撮映画でありながらそちらを優先させたという点で英断の際立つ作品でもあると思います。
特撮作品好きだけでなく、怪奇映画やスリラーが好きな人にもおススメですね。
来月は『ハワイ・マレー沖海戦』が4K特集放送の予定ですので、観たらまた記事を書く所存です。
今回はこのへんにて。
それでは・・・・・・どうぞよしなに。