長編小説 群馬帝国戦記 第一話
「時は満ちた。いざ日本国に復讐を!」
群馬帝国王が放った一言に、民は歓喜する。日本国土総てを統一し、群馬の名を世界に轟かせる、そんな民の夢が遂に叶うのだ。
上野の国(現群馬県)は、古来より南北西の山々、東の利根川によって県外との交流が閉ざされていた。故にどの時代においても、上野が国の支配に置かれることはなく、政府の介入なしで独自の文化を築くことができたのだ。
勿論国はその立地から、何度も上野を支配下にしようと試みた。これまで、日本各地の頭首が上野の土地をめぐって争ってきたが、そこに踏み入ることすらままならない。壁のように連なる山々は、国民に絶対的な安全をもたらしたのだった。しかしそこにはデメリットもある。敵の存在と共に、国外の情報や文化までもを遮断してしまったことだ。それ故に、上野国内は外界の常識など到底通用しない、「無法地帯」だと揶揄されていた。
1853年米国の黒船来航や、明治時代の岩倉使節団の海外渡航。それらは日本の発展に大きく貢献したが、群馬帝国にとってはただの世界史。自国とは関係ない国が発展した程度のことが、わざわざ取り沙汰されるわけもなかった。国民の誰しもがこの状況を当たり前だと思っていたし、このままがいいと望んでいた。
しかしそんな考えは、1871年の廃藩置県によって、あえなく終わりを迎えたのだった。
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