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【陽だまり日記】街灯の下、長い影
しんしんと寒さが深みを増してゆく。
そう思う程度には、夜の帰り道が底冷えするようになった。
マフラーを手繰り寄せて、ほうっと息を吐く。
冴え冴えとした月は、日増しに美しさに磨きをかけて、いつもあちらで一際輝く星の名前は知らないままだ。
冬の夜道は美しいけれど、足早になる。
寒さと厳しさはとても似ているから、少し苦手だ。
夜も更けてきているのに、2人で話し込む女の子たちを見かける。
なんだか、一人は泣いている気配がした。
中学生くらいだろうか。
お互いの肩を擦りながら、街灯の下で長い影を作っていた。
それはそれは遠い昔のことだけれど、私にも思春期という時代があった。
時には、冬の夜に飛び出したことだってあるわけで。
当時は、お金なんて持っていなかったし、補導されてしまうからお店になんて入れない。
そもそも、誰にも逢いたくない。
だけれど、人の気配が全くない暗闇に足を踏み入れるのも気が引けた。
私が選んだ先は、誰もいない住宅展示場だった。
人ひとり見当たらないのに、モデルルームの明かりはまばらでも灯っていて、仄かに明るい。
丁度、12月頃だったと思う。
クリスマス調の電飾が彼方此方でチカチカと点滅して、鮮やかで、空虚な光景だったのを覚えてる。
そしてそれは、その時の私を安心させていた。
軽妙なLEDが赤、白、青、緑、ピンクに変わるのをずっと眺めて。
日付が変わって、体の芯が冷え切るころ、漸く立ち上がり家路についた。
家までの道のり、今日の続きを明日もこなさなければならない、そんなことを考えていた気がする。
とぼとぼ、とも、ふらふら、とも付かない、あの思い詰めた足取りはどんな風に表現すれば良いのだろう。
今から思えば、真剣で投げやりでもある、あの頃の無敵な無防備さが危なっかしくて仕方ない。
先刻の少女たちを通り過ぎてしまったけれど、やっぱり心配になって振り返る。
街灯の下、彼女たちご自転車に乗って、二手に別れ手を振っているのが見えた。
笑い声が夜の街に響いていた。
安堵を覚えると同時に、声をかけられなかったな、と、苦く思った。
…今度からは、カイロでも鞄に忍ばせておこうか。
早くお帰り、寒いからね。
そんな言葉とともに渡せる私になれたなら。