「おばあちゃん、私が拾うから動かないで」と言える高い業務設計能力
#想定とリスクヘッジ
週末。
動物病院の待合室が大層混雑していたので、
外に停めた車の中で順番を待つことにした。
窓を開けて入り口の方を見やると、
片方の脇に黒い仔犬を抱えたおばあちゃんが出てきた。
もう一方の手にも薬や荷物をたくさん持っている。
おばあちゃんは、病院の前に自転車を停めており、
前カゴにワンちゃんを入れ、残りのスペースに荷物を入れる。
前だけがどんどん重くなっていく自転車は、不安定に揺れていた。
コトン…。
カゴの目から小さな薬箱が落ちた。
でもおばあちゃんは気付いていない様子。
僕は車から降りて教えてあげることにした。
「箱が落ちましたよ」、そう言うつもりでドアに手を掛けた。
ところが先に、スッと女性が近付いて、一言。
「おばあちゃん、今から私が拾うから動かないでね」
そう言いながら、手は同時に自転車を支え、
「倒れないようにハンドルを持っていてね」
「カゴから薬の箱が落ちたのよ」
・・・・・
伝える言葉の選び方と、伝えていく順番がすごい。
この人は3手先くらいまで想像してリスクヘッジしながら動いた。
相手が理解していくスピードまで全て想定しているかのようだ。
短いやりとりに心底感激した。
もし僕が単に「箱が落ちた」と声を掛けていたら…。
おばあちゃんは条件反射で拾うためにしゃがむ。
支えを失った自転車は倒れ、ワンちゃんも荷物もカゴから放り出される。
自転車が当たり、おばあちゃんが怪我をする可能性だってあった。
考えただけでゾッとする。
#業務設計
AをやるとBになり、次にCになると考えることができる人はたくさんいる。
でもAをやってもBにならなかったり、BではなくB’になる場合がある。
主観ではあるが、この想定ができない人が実に多い印象がある。
僕は過去に業務設計に携わっていた期間が長い。
「AをやってもBにならなかった場合はどうするか」を考えるし、
人が考えたフローなら、“Bにならなかった場合についての策”を質問する。
プログラミングみたいなものだ。
ところが大抵の場合、質問された人はキョトンとしてしまう。
Bにならない場合は考えていなかったからだろう。
A→B→Cの一方通行で100%完遂することなんて、ありえない。
余談だが、社会人3年目の頃、失敗の許されないプロジェクトで、
「このシステムチェックをすれば絶対拾える」と上司に報告して叱られた。
「絶対なんてありえない」と。
最後の最後に、泥臭く出力して目でチェックする工程を入れさせられた。
馬鹿らしいと思ったその工程で、想定外のミスが2件、未然に拾えた。
100%はありえないと強く肝に銘じる出来事になった。
・・・・・
おばあちゃんが薬の小箱を拾う行動をとった場合、
次に起こり得るパターンをできるだけ多く想定したことと、
それぞれに対策を設け、先回りして実行していったという意味で、
とても高い精度の業務設計例を見せていただいた。
こんな習慣を日常から備える人は、仕事も相当できることだろう。
おばあちゃんとカゴの縁に手を掛けた仔犬が、何事もなく走って行った。
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