居抜きの是非について
飲食店を安く始める方法として、居抜きというのがあります。以前の飲食店の厨房設備を含む造作をそのまま譲り受けるというものです。売る側としては、賃貸物件を大家に返す時の、現状復帰が必要でなくなり、食器やその他の処分もいらなくなり、その分ある程度の金額を得ることができるというメリットがあります。
買う側としては、飲食店を始める時の初期投資として、一番お金のかかる厨房設備が中古で安く手に入るということです。もう営業していた店のものですから、一式揃っているので、すぐ商売に使えます。食器もある、鍋もある、というならまだ収入のない時期、とてもありがたいものです。
大家さんの視点で考えるなら、現状復帰と新店準備の期間が短くて済む、という事は、どうしても防犯上手薄になる時期が短くなる、という事があります。ビルの中で、いくつかのテナントがあるなら、工事に伴う騒音などで迷惑をかけずに済む、ということもあります。
3者にとって、メリットがありますから、ネットの居抜き物件紹介サイトなどがあるわけですね。それだけ大勢の方が関心を寄せている、ということになります。
しかし、当然ながらデメリットもあります。そのほとんどが、買う側のデメリットです。まず、中古厨房設備のコンデションがいいかどうか、下手をしたら修理代がかなり必要になるかもしれません。和食店を居抜きで手に入れた洋食のお店は、厨房設備をかなり入れ替えなくてはならなくて、費用がかさんだという話を聞いたこともあります。この辺りは、中古物件を買う方なら、心に留めていることだと思います。
案外見落とされがちなのが、調理台の高さです。作業しやすい調理台の高さというのは、調理の方の身長から決まります。「いいよ、ちょっとくらい。出費を安く抑えたい。」と考える方が多いと思います。1~2時間ならともかく、半日その姿勢で、週に5日や6日過ごさなくてはならないのですよ?想像する以上に、累積疲労がどんどん増えて行きます。お店での笑顔が無くなります。調理台の高さが高すぎなら、ご自分の足場を高く調整した方がいいでしょう。背の高い方なら、調理台だけでも、足の下に台をいれて、自分の身長に合わせた方がいいでしょう。
長身のご主人が一人で切り盛りしている飲食店は、調理台ばかりでなく、厨房機器の配置が見事です。このご主人が動きやすい店、ということを考えて作っているのがよくわかります。「これをする時、ちょっと無理な姿勢になる」というのが、ないのです。営業時間5時間だとしても、仕込みの時間もありますよね。その間、何度無理な姿勢を取るか、取らなくて済むか、というのは、一週間後の疲労にでます。大口の予約が入ったり、どうしても無理をしなくてはならない時に、頑張りが利くかどうかにもつながるのです。
一見些細なことに見えても、あとから大きな影響がでることは、他にもあります。在庫を収納するため、店の人の動線を切ってしまうような位置に、収納場所を作ってしまう、などという場合もあります。「通る時だけ、よければいい」という発想ですね。その通る時が、一日何回ありますか。数回ならともかく、毎回だったらその分効率がわるくなります。「ここを通る時間がないから」と不安定な場所に下膳したりすると、さらに通りにくさが増します。
作業のしやすさ、動線が短く効率的、ということもじっくり考えてから、居抜き店舗を検討してみてください。この点がいいのなら、アルバイトさん一人分位の価値があります。このメリットがある居抜き物件でしたら、かなりのお得物件です。勿論設備のコンデション状況のチェックもお忘れなく。