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自民党総裁選2024:上川陽子『かみかわ陽子 難問から、逃げない』を読む

総裁選2024。各候補者の政策や人物などを視て、1票を決める時がきました。そして、それぞれコメントやツッコミ、そして文句も言いたいところですが、私は、報道で誰が勝ちそうとかの前に、自分の1票はそれぞれ候補者たち本人の著作を読んでみて決めようと思います。

国会議員が本を出すことは、有権者に考えることをまとめて伝える意味で重要です。ネットと違い出版後に修正効かず、消せないことや、政策を論じるからには反対する人も必ずいるので、特に本を出すことは総裁選での立候補の必須条件だと思います。

今回は、上川陽子さん。2020年12月に出版された『かみかわ陽子 難問から、逃げない』を読んでみました。

総裁選を意識した本ではなく、地元有権者向けの国政報告

一読して思いましたが、本書は総裁選を意識して政策全般を論じた本ではないと感じました。「やったこと」は書かれてはいますが「やりたいこと」は書かれていません。地元の静岡新聞社からの出版と言うこともあって、いわば「地元有権者向けの国政報告」の本です。

それ自体は否定はしませんが、総裁選に出て政策を世に問う、内容ではない点ですと、総裁選の有権者として読むと物足りなさはあります。一方でいくつか注目した点もあるので、書きたいと思います。

オウム死刑執行の決断については記者会見以上の内容は無かった。

上川さんというと、まず、麻原はじめオウム事件の死刑執行を法相として決断したことが注目されるので、本書でどう書かれているか注目しました。

私も、死刑関連発言で法相が更迭された時に、いろいろ考えてみたので正直、死刑執行の決断にあたって、何か印象に残る言葉があるのか関心ありましたが、会見以上のことは何も書かれていませんでした。

そもそも、最高裁の死刑判断を、法相が執行を保留する理由として、私が推測したのは、仮に麻原を死刑にした場合に、オウムの残党が再び無差別テロを起こし内乱のようになるリスクを懸念する場合だと思っていました。この「リスクはない」という断言が会見で述べられるのかと当時私も気にしていました。しかし記者会見でもこの点についての言及も記者からの質問もほとんど無かったことが印象に残っています。

それより、注目したのは、アーカイブとしての保管です。公文書としての保管。2023年にも裁判所での記録の廃棄が問題になったこともあるからです。オウム事件のような重大事件ということで上川法相の指示を踏まえて他もやっていれば、と言う点もあります。

この件に関連して、私はオウム真理教が起こした一連の事件の刑事裁判記録について、通常の保管期間満了後も「刑事参考記録」に指定し、期限を定めず永久保存するとともに、死刑に関する行政文書も同様に期限を定めず保存するよう指示しました。その中には死刑執行に関する決裁文書のほか、決裁に至るまでに私自身が検討の過程で用いた資料も含みます。
そのように指示したのは、この事件が前例のない重大事件であり、再発防止のための調査研究にとって重要な参考資料となり得ると判断したためです。同時に、確実に保存して将来の世代に受け継ぐことも法務大臣である私の重要な責務と考えたためでもあります。いずれは国立公文書館に移管され、歴史公文書として永久に保存されることになるでしょう。

ゴーン事件について海外からの批判に言及は無かった。「国際派」を自任する法相・外相としてこれでいいのか。

加えて重要なのは、日本の司法や法令に関する正確かつ迅速な対外発信です。そのためには、やはり英語がネックだと言えます。少しずつ改善されていますが。――ゴーン事件でも間われた点ですね。
ゴーン氏の主張は不当なものですが、刻一刻と情勢が変わる情報戦の中で、日本の主張が国際社会に十分に到達したか。組織の国際化をいっそう進める契機としなければなりません。対外発信に当たっては、状況に応じて、しっかりと腰を据えて対応しなければならない場面があるということも忘れてはいけないと思います。

『外交』Vol.60 2020年3.4月号より抜粋

上川さんは国際派として知られますが、国際基準に照らして、日本の司法が人権無視と言う批判が多いことを知らないはずありません。日本の主張は全く国際社会に通じていません。私としては上記の内容の言及のとどまっている点に強く不満を持ちました。

ナゼかと言うと、日米同盟の「現場」である沖縄関連で地位協定の改定と関係あるからです。「難問から逃げない」ですよね?

日米地位協定の中でも刑事裁判権に関する第17条は特権中の特権で、公務中の米兵の犯罪の第1次裁判権が米側にあるのはもちろんのこと、公務外(日本側に第一次裁判権)であっても米兵の身柄を米側が確保した場合、日本側が起訴するまで米側が拘禁を続けられる規定となっています。

この特権について、米兵犯罪が集中する沖縄県では強く見直しが求められていがますが、全く具体化には至っていません。米国側も応じる気配もありません。

ゴーン事件のように人権状況が悪いと評価せざるを得ない国に駐留米軍に対し広範な権限を行使されるのは困る、特に刑事裁判管轄権は、蛮行を厭わないおそれのある司法官憲に大切な自国民の身柄を委ねることは、士気の維持に重大な影響を及ぼしかねないとの米国側が懸念をするのは不自然とも思えません。

日米地位協定の改定に米国側が応じない理由の一つがこのゴーン事件のような「人権侵害」(とG7各国が見る)があるからです。

実際にゴーン事件が人権侵害かどうかではなく、G7各国からそうみられている制度であることが問題ですが、それだけに国際派を自任する(であろう)上川さんが法相として何か取り組みされたのかと言うと、何もありませんでした。

さらに著書でも、この程度のことしか書いていない点は残念で不満を持ちましたので、強く文句を言いたいところです。「難問から逃げない」なら一言ぐらいあっても良いはずです。

総裁選で、石破氏が日米地位協定に言及しましたが、法相を経験された上川さんからは言及があったでしょうか。法相外相の両方を経験された上川さんだからこそ言うべきではないでしょうか。

静岡とベトナムの関係は知らなかったので興味がわいた

本書が地元の有権者向けの著作であることもあって、静岡と海外や静岡の歴史に関しての記述が出てきて、興味深く読みました。

袋井市にはベトナム独立の指導者「ファンボイチャウ(潘 佩珠)」を助けた日本人、浅羽佐喜太郎の出身地で記念碑もあります。上皇陛下は平成29年でのベトナム訪問で関心をお持ちになり、袋井市も行幸されるに至ったとのこと。私も行って見て見たいと思いました。

まとめ。「難問」は何ですか?この本の中で難問とされる課題が何で、どう解決したいのか全く分かりませんでした。

総裁選向けの本でないのは重々承知ですが、「やったこと」だけしか書かれていないので総裁選での参考用としては余りなりませんでした。題名の「難問から逃げない」なら、「難問」が何なのかを具体的に示さなければ納得できません。

上川さんも普通に議員や閣僚として有能なのだとは思いますが、総裁選ではそうはいきません。総裁選で一票投じる価値のある読書にはならなかった、と判断せざるを得ません。


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