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【脚本】一枚の紙切れ


【夫婦】というテーマで書きました。
原稿用紙10枚分です。

婚姻届を出したから夫婦?離婚したら元夫婦?
夫婦ってどう表現したらいいのかわからない

セリフの中に、ある歌詞をリスペクトさせて頂きました。だってとても合っていたから



一枚の紙切れ(仮)
               たらお



【登場人物】

 桜(48) 看護師

 俊子(46) 妻

 成瀬(48) 夫

○病院入口(朝)

 【朝霧緩和ケアセンター】の看板

○報告書のファイルを持つ手

   成瀬(48)の報告書を持つ、桜(48)の手

○病院・病室(朝)

   簡易イスに座っている俊子(46)立ち上がる。

俊子「起きたの?頭少し上げる?」

成瀬「(頷く)」

   俊子、脇にあるボタンを操作する。

俊子「これでいい?」

成瀬「(頷く)」

   洗面道具を持つ、俊子。

俊子「ちょっと顔洗ってきますね」

   俊子の行く先を目で追う、成瀬。


○病院・洗面所・鏡(同刻)

   俊子、鏡に映る自分の姿を見て涙が溢れてくる。

   力強く歯を磨き、勢いよく顔を洗う。

   鏡に映る自分の瞳を凝視する。

俊子「大丈夫」


○病院・病室・廊下(同刻)

   廊下の窓から外を見る、俊子。


○病院・窓から見える景色(同刻)

   澄み切った青空、院内にある小さな庭、楓は赤く染まりピンク色の山茶花の花、パンジーやビオラの花が彩りを添えている。


○病院・病室・入口(同刻)

   排泄介護を終えた桜が出てくる。

   桜と俊子。会釈を交わす。

   桜のポケットから白い封筒の頭が少し出ている。


○病院・病室(同刻)

   成瀬、寝ている。顔が綺麗に拭かれサッパリしている。

俊子「顔、拭いてもらったのね」

   頭ふたつ撫でる俊子。

   椅子に座り本を読みはじめる。

   桜が点滴袋を持ちながら入ってくる。

桜「点滴の交換にきました」

俊子「ありがとうございます」

   桜、点滴袋を交換する。

   チューブから流れ落ちる液体の速度を腕時計を見ながら調節する。

   チューブは2本あり1本はベッド脇に掛けられたモルヒネ入りのシリンジに繋がっている。

   桜、しゃがむとシリンジのメモリを確認しメモを取り立ち上がる。

桜「痛みが激しいようなら、もう少し量を増やせますので先生に相談してください」

俊子「ありがとうございます」

   病室から出て行く桜。

   目で追う俊子。

   俊子の顔を見る成瀬。

   ×  ×  ×

○病院・病室(昼)

   成瀬の荒い息遣いが聞こえる。

   うたた寝していた俊子、ハッとして急いでナースコールする。


○病院・廊下(同刻)

   2人向かい合わせで立っている。

桜「下顎呼吸(かがくこきゅう)が始まったようですので、お気持ちをしっかり持ってください」

俊子「はい、わかりました」

   俊子、礼をして部屋に戻る。

   桜、右手を握る。右目の涙腺辺りを人差し指の第二関節でひと撫でする。

   大きく深呼吸ひとつするとナースステーションに戻っていく。

   ×  ×  ×

○病院・霊安室(深夜)

   成瀬の顔を覗きこんでいる、2人。

俊子「一緒に看取れてよかったわ」

桜「こちらこそ、ありがとうございました」

俊子「この人、ここの緩和ケアを強く希望したのよ。家から遠いのに何で?って聞いたら、風景が綺麗そうだからって、でも本当は、あなたが居たからなのね」

桜「私も、この人が入所してくるなんて思ってもみなかったので、驚きました」

俊子「桜さんあの頃、鯨波(くじらなみ)病院だったわよね」

桜「はい、離婚した後はそこを辞めて、病院転々とした後、ここに来たんです。あの日から15年一度も連絡なんて取った事はありません」

俊子「そうよね。そしたらこの人、こっそり興信所にでも頼んだんたわ(苦笑)」

桜「そうですね、気づかれないようにするのが上手な人でしたから」

俊子「それ私の事?」

桜「いえ、あの頃はもう気持ちが離れていて家庭内別居状態でしたから不倫にはならないです」

俊子「貴方って、相変わらず優しいのね」

桜「優しいなんて、そんな」

俊子「2番目に好きな人も愛せるけど、1番は死ぬまであなたって、そんな歌があったけど……」

   俊子、成瀬の頭を撫でる。

俊子「私と再婚して15年も経つのに、結局この人、貴方の事が一番好きだったのよ。私達は紙切れ一枚で出来た夫婦というゴッコ遊びしてたって事ね」

   俊子、成瀬の頭をポンと叩く。

俊子「死人に口無しだけど」

   俊子、成瀬の髪の毛をクシャクシャすると再度整える。

俊子「ねぇ、お葬式に来て頂けないかしら」

桜「それはちょっと…親戚の方に顔向けできないので」

俊子「あ、1人でやるのよ」

桜「(驚く)え?」

俊子「不倫で略奪で再婚だなんて、親戚連中には勘当されちゃってね。だから1人でやるの」

桜「そうだったんですか……」

   桜の首から下げたPHSが鳴る。

   俊子、その様子を見つめる。

桜「はい…分かりました。すぐ行きます」

   桜、会話が終わり、俊子の方を見る。

桜「すいません、呼び出しで」

俊子「ナースって大変ね」

桜「(苦笑)大変ですけど、私には性に合ってるみたいです。それでは失礼します」

俊子「お葬式の件、考えておいて欲しいわ」
桜「考えておきます」

   一礼すると、部屋を出て行く。


○病院・廊下(同刻)

   桜、ポケットから二つ折りにした封筒を取り出す。

   ×  ×  ×

(回想はじめ)

○病院・給湯室(朝)

   封筒の中の手紙を開く。

   ヨレヨレの文字で書いてある。

   「あの時は本当に申し訳なかった
   ずっと謝りたくて
   会えてよかった 成瀬」

(回想終わり)

   ×  ×  ×

○病院・廊下(深夜)

   桜、取り出した封筒。力強く握りしめるとそのままポケットに手を入れ、キリッとした表情をし前を向いて歩いて行く。

(おわり)

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