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ココロ・ドリップ 〜自由が丘、カフェ六分儀で会いましょう〜

イラスト/vient様(株式会社KADOKAWA 刊)
https://www.kadokawa.co.jp/product/312102500000/

2014年05月刊。前作の発売から、1年半が経っていた。
初めてのメディアワークス文庫作品。
これまで活動してきた電撃文庫とは、レーベルカラーが大きく異なり、メインターゲット層は20〜30代の女性。

さて、どう戦おうか、と考えたとき、浮かんだのは「カフェもの」だった。
無論、いきなりそこに辿り着いたわけではない。5本以上のプロットがボツになって、ようやくその結論に達したのである。

今でも覚えている。
苦心してようやく「カフェもの」のプロットが通り、さぁ執筆に取り掛かろう、というときに、岡崎琢磨さんの『珈琲店タレーランの事件簿』が世に出て、大ヒットしたのである。

執筆開始から出版まで、自分の筆の速さだと、最低でも半年はかかる。『ココロ・ドリップ』が出版されたころには『珈琲店タレーランの事件簿』は確か3巻まで出ていて、相変わらず大人気だった。客観的に見れば、完全なる後追い、ということになってしまった。まぁ、よくあることだし、こればかりはどうしようもない。自分にできることは、編集氏がGOをくれたプロットを、できるだけ面白い作品に仕上げることだけだ。

本作は、とにかく取材を重視した。
舞台となる自由が丘の街は元々好きで何度か訪れていたが、改めて、気になる場所や人を丁寧に取材させてもらった。

自由が丘デパート、セザンジュ、何軒ものカフェめぐり、熊野神社、ケーキ屋、お寿司屋、雑貨屋、あらゆる路地、公園……。足が棒になるまで歩き、入る喫茶店で珈琲を飲みまくった。
これがなかなか楽しかった。が、同時に不安でもあった。取材で手に入れたエッセンスを、うまく作品に反映させることができるだろうか。

しかし、これは完全に杞憂だった。プロットを練り直し、構成に落とし込んでゆく作業のなかで、取材による下地作りが大いに功を奏した。
登場人物たちが自由が丘の街を動き回るとき、頭のなかでその光景が迷いなく浮かぶのだ。これは執筆を相当スムーズにしてくれた。
とにかく取材に行け、と尻を叩き、快く送り出してくれたツマには、今でも感謝している。

また、珈琲は元より好きだったが、これも基礎から勉強し直した。途中から勉強することが楽しくなって、執筆が進まなくなることもあって焦った。
某シアトル系コーヒーチェーンを退職し独立して喫茶店を開いたママ友とたまたま珈琲の話になったとき、
「なんでそんなに詳しいの!?」
と驚かれて、なんとかお茶を濁す……、なんていうこともあった。

イラストレーターのvient様には、装画でカフェ六分儀の店内とメインキャラ3人を描いて頂いた。マスターと拓、知磨はイメージ通り。脳内でワイワイやっていた彼らをこんなにも美しく可視化して頂いて、テンションが上がりまくった。

そしてカフェ六分儀の、シックな店内の様子。
「なるほど! 細部はこうなってたのか!」
と思わず膝を打つほどの完成度だった。

もちろん間取りや配置はきちんと押さえているが、執筆に際してカウンターの上や内部、飾り棚の細かい様子は敢えて漠然としたイメージに留めておいた。それがvient様の手によって描き出されたとき、畏敬の念を感じずにはいられなかった。イラストレーターさんって、本当にすごい……。

なお今作は、とくにロゴがお気に入りである。ロゴは章扉でも使われていて、カップやポット、ドリッパーやサーバなど、毎回違った珈琲用具がアイコンとして描かれている。とにかくかわいい。

章タイトルを見返してみた。
好きなものは、

第2話 向かい合ったらカフェモカを
第2.5話 そのときめきを深煎りで

エピソードとして思い入れがあるのはやはり第3話、知磨のお話だろうか。

各話の間に配置してある、閑話休題的な「X.5話」を好きだと言ってくださる読者様の声をちらほら見かけた。そちらは短いながら、各話と交互に読むことでメリハリよく楽しめるように気を配ったので、作者としては大変嬉しいことである。

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