読書感想 白川雅「エジプトの輪舞 Rond on Egypt」
90年代にエジプトで勉強や仕事をしていらしたNoterのローローさん、そのころの話
を中心にいつも興味深い記事をupしてくれていた。
所があるときからふっつりと更新が途絶えてしまった。
SNSは仕事じゃないし、いろいろな事情でやめてしまう人も少なくはない。残念だけ
ど仕方ないと思っていたところ、1年以上ぶりに更新があった。
戻ってきてくれたんだと感激したのもつかの間、Noteを休んでいた理由が「辛い」と
いう一言では言い尽くせない内容で言葉もなかった。
しかしそんな中にあっても、その1年半の間になんと、近代のエジプトを舞台にした
大ロマン小説を執筆してくれていた。
私も80年代終わりにエジプト旅行に行ったことがある。
カトリック教会で企画された「イスラエル・エジプト巡礼旅行」というのに母のおま
けとして参加したのである。
エジプトはカイロとルクソールに何日か滞在しただけ。それでも東アジアやヨーロッ
パとは全然違った趣でドイツ、オーストリアと香港くらいしか行ったことがなかった
私にはこの上もなく刺激的だった。
とは言え所詮は団体旅行、ガイドさんとバスで観光地を回るだけの旅なので表層をな
ぞっっただけだ。
カトリックのツアーだったので、「シナイ山のご来光を仰ぐ」というのがエジプトで
のメインイベント。
日本人なのに富士山より先にシナイ山に登ってしまったのである(笑)
ちなみにシナイ山は映画「十戒」でおなじみ。モーセが神から10の教えを書いた石板
をもらったところなのでキリスト教的には外せないパワースポットだ。
+山としてはお年寄りも登れるピクニックコースレベル。
日の出に間に合うように未明から山に登り始めるのだが、とにかくいろいろな人たち
がいた。ヨーロッパ人らしき白人とか、他にもどこの人だかわからない人たち。私た
ち平たい顔族はかなりレアな部類だったのではなかったか。その中に「エジプトコプ
ト」のグループがいたのは印象的だった。
エジプトにもキリスト教の人がいるのか。しかも独自路線!
世界の近代史を習っているといつも不思議に思ったことがあった。出てくる国は欧米
とアジア諸国だけ。アフリカは当時は植民地が多かったからそれぞれ支配国に準じざ
るを得なかったのかな。そして第二次大戦頃、エジプトを含めたイスラム圏の人たち
は一体どうしていたのだろう。
教科書の世界史もまともに勉強してこなかった私がどうこう言う前に復習でもしろと
いう感じだが、この本はそこら辺の穴を全部埋めてくれた。
つい最近までエジプトには王様がいたこと。ニュースで名前だけは知っていたサダト
やムバラクといった大統領たちがどのようにして出てきたか。
トルコ支配から実質フランス、イギリス支配みたいになって戦後のイスラエル建国、
、エジプト革命へ。そんなプロセスを池田利代子の漫画のようなドラマチックな物語
の中で丁寧に説明してくれている。
更にエジプトコプトの青年とイギリス人外交官とのロマンスが加わり、そこに生きて
きた人たちの日常や当時の社会、風俗を臨場感たっぷりに伝えてくれている。
BLテイストなのは女性はとうじあまり社会で活躍する場がなかったからなのだろうか
。
優秀であってもエジプトではキリスト教徒はマイノリティー。なかなか就職が決まら
なかったり軍隊でも冷遇される。
それはともあれ上層教育14年間が女子高だった私はどうしたってジェンダーバイヤス
がかかってくる男女の恋愛ものが苦手なのでBL上等。そういう意味でも楽しく読み進
めることができた。
登場人物は実在の人はもちろん、架空の人もモデルがいるとの事。それも物語に説得
力を与えている由縁だろう。
王様をはじめ当時のエジプト人がいろいろな出自を持っていて、第一言語もアラビア
語ではなくフランス語やイタリア語だったりしていたというのも初めて知った事実。
著者のローローさん、登場人物がカタカナばかりで音声では読みにくいのではないか
と心配してくださいました。確かに王様の兄弟や娘たちの名前がかなりうじゃじゃけ
ましたが、中国の小説を読んだ時に比べれば全然問題なしでした。
実はkindle本を音声出力して読むときには漢字の方が厄介なのです。中国語の感じを
日本語読みするのはもちろん、日本語の、特に固有名詞は読み方がめちゃくちゃだっ
たりして結局最後まで主人公の名前がわからずに読み終わるなんてこともありました
。
この物語は輪廻転生もキーワードになっている。主人公の一人、エジプト青年ラミが
水を必要以上に怖がる理由もこの上下巻では回収されていないけれど、シリーズの続
きで回収されるに違いないと今から期待している。
この先、トルコ支配時代と現代の話があるそうだが、今から楽しみだ。