自由主義がグラついている
2020年代はじめの今、社会の変化を予測しづらいからこそ創造性が大事になってくると言われています。
社会変化の理由は、AIなどテクノロジーの急激な変化や、新たな感染症の脅威の登場などがありますが、信じられてきた大きな物語が終わりを見せはじめた、というのもあります。
大きな物語というのは、自由主義と資本主義というイデオロギーです。これらは現代でもっとも信仰されている物語と言えます。特に、自由主義はかなりのピンチに立たされているのです。
キリスト教とかイスラム教など宗教を信じている人が、もうその宗教が生活においてあまりに自然なのです。だから、信じている宗教を「物語だ」なんて言われれても「何を言っているんだこと人は?」と思うことは想像ができるのではないかと思います。
現代の日本人は、多くは自分は信仰しているものはないと思っていますが、自由主義を信仰しています。だから、自由主義のお題目である「人権!平等!自由!」ということはあたりまえなことであるかのように思う人が多いと思います。
人権や平等や自由などは、200年前くらいに流行りはじめた自由主義の「設定」です。決して自然な法則などではありません。キリスト教の戒律が2000年前くらいにできた聖書という神話の「設定」であるのと同じ構図です。
日本人の多くが信じる人権・平等・自由などをうたう自由主義が、2020年代はじめの今、かなりグラついているのです。
というわけで、自由主義のグラつきについて説明していきます。
ユヴァル・ノア・ハラリ著の「21 Lessons」でうまくまとまっていたので、その引用となります。
自由主義のセットメニュー
ハラリ氏によると自由主義は上の図のようなセットメニューで構成されると説明します。
自由主義は、国家的レベル・国際的レベル、経済・政治・個人の 3x2のマトリックスという構成で説明できます。この6つのメニューがそれぞれがお互いに紐付いています。例えば、「個人の自由」を主張する政治家が「自由選挙」である民主主義の選挙で選ばれる、「自由貿易」には国家間の「多国間協力」が欠かせない、などです。
それぞれのメニューが強化されると、紐付いたメニューも強化され、自由主義というものが強固になっていく。そういう連鎖により自由主義の理想へと近づくと考えられていました。
自由主義のほころび
自由主義が世界の全てを覆うという理想めがけて拡大していたにもかかわらず、どうしてボロボロとほころびが見え始めたか?
それは、下図の表のように自由主義のメニューそれぞれが壊れ始めているからです。
例えば、Brexit。人権や平等などが発祥した西欧において、イギリスは「移民によって雇用や治安が悪化する。移民は国を悪い方向に傾けるから入って来てほしくない。だから移民を受け入れるルールをもつEUを離脱する」という選択を、民主主義な自由選挙で選びました。人間は平等ではないのか? ならばなぜ移民を差別して受け入れないの? 移民は人間ではないのか? このように、自由のセットメニューの内をビュッフェ感覚で1つだけ選ぶと矛盾が発生することになります。
格差拡大など自由経済である資本主義の暴走。
国際平和への貢献から降りる傲慢な国家主義の国。
このように、自由主義のメニューそれぞれがゆらぐことにより、自由主義全体が思いっきりグラついている、というわけです。
自由主義がグラついている以上、イデオロギーが不在です。
イデオロギーという信仰がない今、何が「いい」か「わるい」か判断がつかなくなっています。
これが「信じられてきた大きな物語が終わり」であり、先が見えない時代の理由の1つというわけです。
創造性も怪しい
じゃあ、先の見えない時代こそ、新しい道を作り出す創造性が大事になる、と思うでしょう?
ところがどっこい、そうでもない。
これまで創造性も自由主義の教義の1つだったのです。
そもそも自由主義は「人間一人一人の心に自由意志がある。自由意志が至高。至高がゆえ自由意志は人同士で比べられない。だから人は平等であり、自由を妨げる物理的・精神的なものは許されない」という設定です。
創造性は、その自由主義の教義にのっとり「自己の心の自由のままに表現し、新しい価値を作り出そう」とされてきました。あたかも、だれしも生まれつきに素晴らしい自由な創造性があり、なんかしらのきっかけさえあればその創造性が解き放たれるかのように。
自由主義がグラついているなら、これまでの創造性もグラついている、
というわけです。
今回はここまで。
自由主義はかなり怪しいことがご理解いただけたら幸いです。
次回は、自分・自己を成している自由意志も怪しくなっていることについて説明します。あっ、怪しい話じゃないです。ちゃんと科学的な話になります。
「これからの創造性」の説明のためにえらく遠回りしている感があるのですがお付き合いくださいませ。
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