「市場そのものを代替(置き替える)できるかという発想が大事」顧客経験価値のための商品企画開発の実践 第32回
■顧客経験価値重視では「既存市場そのものを代替(置き替える)できるか」という視点で市場分析する
一般的に有望市場分析とは、自社が参入すべく、規模が大きく成長している魅力のある既存市場を分析することを指します。しかし顧客経験価値重視の市場分析では、「既存市場への参入」よりも、「既存市場そのものを代替(置き替える)できるか」という視点で市場分析します。
なぜなら顧客経験価値重視の商品開発では、顧客の限られた時間とお金が使われる顧客経験価値を、異なる業界と競争し代替したり、時には共生することで市場参加しようとしたりするからです。もちろん同じカテゴリーの中での競争はありますが、顧客経験価値重視の商品開発では、市場ごと代替する考え方が強いのです。
自動車産業は、スマートフォンなどの情報通信産業やゲームなどのコンテンツ産業と競争していると見ます。競争を空間と考えると住宅やオフィス産業とも競合と考えられます。スマートフォンでSNSやゲームを楽しめばクルマへの支出はしないし、住宅をリフォームすれば、家にいる時間を楽しみ、クルマはあまり使用しないでしょう。
従って企画した商品の有望市場とは、代替可能性市場を指します。その代替市場を探すには、まず自社商品の顧客経験価値を定義して、その顧客経験価値を取り合うと予想される他の商品やビジネスモデルをリストアップします。その顧客経験価値を取り合っている市場を有望市場と見立て、そこからの代替を狙います。
■顧客経験価値重視での有望市場分析の方法
では顧客経験価値重視の商品開発における有望市場分析とは具体的にどのようなものなのでしょうか。以下のような5つのステップで進めます。
ステップ1:自社商品やビジネスモデルで代替可能性のある市場をリストアップする
自社で企画した商品やビジネスモデルの特性や強みを考え、顧客経験価値を代替できそうな市場をリストアップします。その場合、自社の商品やビジネスモデルが提供する顧客経験価値が何かということと、その顧客経験価値が、代替しようとしている有望市場に確かに存在するかを確認にしておく必要があります。そのために、顧客は何を購入しているのかといった価値の本質を見極め、さらに顧客が購買を決定する切っ掛けや、理由となる顧客経験価値はどのようなものかを突き止める必要があります。例えば、自動車のケースで考えると、自社商品の顧客経験価値が、「休日に移動して無料で宿泊もでき、景色が良くゆったりとした空間が自由に楽しめること」だすると、有望市場は住宅の賃貸市場、新築の住宅市場などとなるでしょう。
ステップ2:主な参入企業をリストアップし、調査する
有望市場がリストアップされた後は、参入している主な企業をリストアップします。リストアップの基準は、市場に大きな影響を与えているかどうかです。具体的には市場シェア、成長性、技術、製品開発でのリーダーシップの強さなどで判断します。
そしてリストアップされた企業の売り上げ、利益規模、成長性、ターゲット顧客、主な商品、技術、ビジネスモデル戦略などを分析します。
ステップ3:顧客セグメント、顧客動向を調査する
有望市場の顧客セグメントを分析します。まず既存参入企業が行っている顧客セグメントを把握します。そして顧客セグメントごとの規模、成長性、顧客動向、顧客経験価値ニーズの変化などを調査します。
ここで重要なのが、顧客セグメントが大きく、既存参入企業が対応できていない顧客経験価値ニーズの存在です。そこが明確であり、かつ自社の提供する商品やビジネスモデルの顧客経験価値が、既存参入企業に勝っていれば、市場奪取の可能性は高いと判断できます。
実際はドキュメント調査を行ったうえで、実際の顧客へのコンセプト提案とスイッチングの可能性をヒアリングやアンケートなどで検証する必要があります。そしてスイッチング割合とその条件、コストなどを把握します。詳しい調査スイッチング実験(PoC:Proof of Concept)で把握します。
ステップ4:市場特性、技術動向を分析する
有望市場の市場特性とは、市場のライフサイクル、つまり導入期、成長期、成熟期、衰退期のどのステージにあるのかを分析することや、新商品の開発サイクルタイム、参入企業の増減、顧客のニーズ特性、技術動向などです。市場の特性とはいわば市場の個性であり、大きくゆったりとした市場なのか、細かく細分化され変化のスピードが速い市場なのかといった市場観ともいえます。
市場特性には良い悪いといった基準はありません。例えば、成熟・衰退のステージにあったとしても、市場規模が大きく、自社の商品やビジネスモデルで潜在的な顧客経験価値ニーズの発掘可能性が高ければ、市場奪取、市場創造は可能と判断できます。
また市場の参入企業がどのような技術イノベーションを起こそうとしているのかを分析します。
ステップ5:市場獲得可能性を推定する
ステップ1から4までの情報から、自社商品の市場獲得可能性を推定します。まずは各有望市場の中で獲得可能性のある市場規模はどのぐらいかを推定します。この市場規模の算定にはあまり厳格性を求める必要はありません。おおよそどのぐらいの市場がありそうかというレベルです。
さらにそのターゲットとなる獲得市場全体の何パーセントを獲得でできるかを想定します。これもあくまで想定です。現在行っているビジネスとの相関性や、戦略、新規投資規模などに依存しますので、上限と下限を何かの判断基準をもとに想定しておけば良いのです。
ニューチャーネットワークス
代表取締役 高橋透
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