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#4 “繋がりにくかった”時代の、「ロマン」ある仕事

90年代後期、我々NUTSはオリジナルで作った時計や仕入れたデザイン雑貨を、当時創業して間もない“楽天市場”で売ることを始めました。

創業者・ヌマオの前職であるSEIKOや周りの人々からの恩恵を受けながらEC(オンラインショップ)を営み、2000年からは代表が自ら買い付けでヨーロッパを巡ります。その仕事は便利な現在からすれば、考えられないほどの“時間とお金”がかかったそう。

老舗EC事業者としてのNUTSの軌跡を辿り、社会人として数々の難所を乗り越えてきたヌマオの話から“働くこと”について考えてみるこの企画。20代半ば、社会に出てまだ浅い編集担当・カタヒラが、仕事とは何か、社会ではどう振舞うべきなのか、思考を巡らせていきます。

今回は、NUTSが大切にしてきた“雑貨セレクト”の基軸が芽吹いた瞬間ともいえる、21年前の物語。その当時だから味わえたロマンあるお話です。

「買い付け」というNUTSがはじめた生存戦略

「2000年から、僕は海外で商品を買い付けしてオンラインで販売するようになりました。でも小さな会社だったので資金の関係から、“輸入代理店”と取引することは難しかった。

だから、現地で小売店を見て周り、良いと思った雑貨を買い集めてきて売ることにしたんです。

その当時はまだ、為替の関係で輸入品を日本で買うより現地で同じものを買った方が安かったんですよ。特によく行っていたイタリアなんかは通貨が『リラ』で、イタリアリラってものすごく弱かったから。

さらにヨーロッパでは消費税が約20%と高く、日本からの旅行客は出国するときに申請すれば消費税分が戻って来たんです。その頃日本はまだ消費税5%でしたからその差も利益になったんです。

だから例えば日本円で1万円のものが、リラだと6,000円〜7,000円くらいで買えたの。日本人旅行者がモノをばんばん買うほど、海外での買い物がお得だったんだよね。

そんなことも追い風になって、買い付け販売は上手くいけばしっかり利益が得られました。今は円安になったのと、世界中どこで何を買ってもほぼ同じ値段になる仕組みになってるから、安く買えることはなくなりましたが。

あとは、小売店で買うときに値引き交渉もしていました。『10個や20個まとめて買うから10%くらい負けてよ』みたいな。

で、買ったときの値段に利益を乗せて日本で販売していたんです。

ヌマオさんは買い付けにおいて、日本ですでに人気なものは避け認知度の低い海外のデザイン雑貨に目をつけたといいます。つまり、他と違うものを選ぶということ。

“差別化”というのはある種の生き残り戦略で、個人からビジネスの世界まであらゆる場面でいわれてきました。これに関しては特筆すべきことはないでしょう。

しかし、それを“ぶれずに続ける”となると話は変わってくるように思います。ヌマオさんのお話からは紆余曲折ありながらも、創業時から変わらぬ軸のようなものを感じます。

“まだあまり知られていない『いい物』を見つけて届ける” ── NUTSが大切にするモノ選びの哲学はこの頃からずっと守られてきたのですね。

売上が伸びてきた2001年、新たな転機が訪れる

ヌマオさんが主に買い付けで訪れる国はイタリアやフランスなど。前職であるSEIKOや、周囲の人脈を頼りに街を巡っていたそうです。時には海外で開催される展示会で買い付けすることも。

そんな矢先に、それまでも取引先だったキッチン雑貨ブランドのアレッシィ(*前回の記事でお話しています)からある話が舞い込んできました。

NUTSでアレッシィの商品をすこし扱っていたじゃない。その売れ行きがけっこう良くなってきたんです。

その時期に、アレッシィの広報やPRをしていたクリキさんという人と知り合いました。ずっとNUTSの動きを見ていてくれたクリキさんから『アレッシイ専門のECをしてみないか』と声がかかったんです。

こちらもそれを二つ返事で引き受け、2001年の11月、楽天にアレッシイの公式オンラインショップをオープンしました。つまり委託で公式ショップを運営するということですね。

アレッシィは年に2回ほど「新商品発表会」をミラノでやっていました。僕はそれに招待されるように。だから、せっかくならということで、その発表会のついでにミラノでも買い付けもすることにしました。」

時間とお金がかかる、面白い仕事

ここからが面白い話なんですが。

当初は現地の小売店で商品を仕入れる時に、日本でどれくらい売れるかわからないから少量を買っていました。でも、それがすぐに完売しちゃうことも。そうなると次に仕入れできるのは数ヶ月後で、現地に行くまでどうしようもなくなってしまいます。

だから、こんな方法を思いついたんです。

滞在したときに、あらかじめ街の小売店を見て周って目星をつけておきます。それで夜、ホテルに帰ってきてから写真付きのメールマガジンを作るんです。

『こんな面白い商品を見つけました。何日の何時までに欲しい人はオーダーを入れてください』という内容を会員の皆さんに送ってから寝ます。

で、時差があるから次の朝起きると、オーダーが入ってる。これだけか、という日もあれば、こんなに入っちゃったの?という日もあったりして。それからその日のうちに数量分の品物をお店に買いに行きました。

この方法はお客さん側も、自分が旅をしながら買った気分になれると好評でしたね。

面白かったけど、まあすごく大変。だって昼間は商品を探し回って、ホテルに帰ってからもメルマガを作らなきゃならないから。

その頃ネットはまだ電話回線を使ったダイアルアップ接続で、Wi-Fiはおろか光回線すらないからね。だから、画像付きのメルマガなんてものは、表示されるのが信じられないほど遅いの。チッ、チッ、チッ、チッという感じで画像が出てくる(笑)

いつも夜中の2時〜3時くらいまでメルマガを作ってましたよ。そんな感じで、もう嫌ってほど時間がかかった。

それに加えて大変なのは通信費。国際電話を使ってたから、帰国時には目を疑うほど高額で(笑)一回の滞在で5万円は裕に超えていましたね。

もちろん最後は買ったものを持ち帰らないといけないから、それも一苦労。受注数が多かった時は、向こうでスーツケースを買ったりもして。当然、宅配便なんてコストがかかりすぎて無理だったね。今みたいに手軽に送れないもん。

これは実は前にも伺ったことのあるお話なんですが、何度聞いても面白い。そう珍しくはない買い付け販売という手法に、“お客さんとの対話”をつくり出したのがなんとも興味深いです。

ヌマオさんが良いと思ったものをメルマガでお客さんへ発信し、注文という形でお客さんからお返事を頂く。しかもそれを現地で、リアルタイムで行っていたという。まるで友人に海外旅行のお土産を買う時のようです。

でも、ヌマオさんのその姿勢がお客さんに喜んでもらえた一番の理由ではないでしょうか。『旅した気分になれる』こんな声があがったといいますが、これはきっとヌマオさんの真剣な語りかけが伝わった結果なんだと思います。

どうしてこれを貴方に届けたいのか──。誠意を持って伝えることが、どんな仕事でも1番大切で、実は何よりも難しいのかもしれません。今まさに私が取り組んでいる“書く”という仕事も同じことが言えて頭を抱える日々です…(笑)

(取材 編集・カタヒラ)


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