コロナ禍のピボットで辿り着いたPMF【バーティカルSaaSの苦悩や不安を赤裸々に告白】
NutmegLabsでCEOをしている中口です。前回はコロナ禍で直面したHARD THINGSを乗り越えたストーリーをご紹介しました。詳しくは以下をご覧ください。
今回はその後として、HARD THINGSを乗り越えたあとは何をしたのか、サービスローンチ後にPMFを感じるまで何があったのかのストーリーをご紹介したいと思います。
実はサービスローンチからは目立ったTractionもなく、半年間は不安な毎日を過ごしていました。半年経ってからようやくPMFっぽいものが見えてきたのですが、サンプルが少なすぎて自信を持ってPMFしていると言えない状態など、幾度となく困難を乗り越えてきました。結果オーライ見えますが、当事者のスタートアップとしてはなかなか辛い体験だったと思います。
こういったPMFするまでの苦悩をご紹介するために、この記事では以下についてまとめています。
同じスタートアップでPMFに苦しまれている方、短期的に結果が出ずにどうしようか迷っている方など、諦めずに自分たちを信じで進むヒントとして少しでも参考になれば嬉しいです!
コロナ禍でピボットを決断した転換点
コロナ禍でサービスとして全く先が見えない状況で真っ先に行なったのは、思い切ってProductを大きく変えるというピボットの決断でした。
なぜそう思ったのか、どういう見通しがあったのか、混沌とした中で考えて辿り着いた背景から説明させてください。
理由:従来やっていた海外旅行は当分期待できない
コロナ禍で一番厳しかったのが、当時Nutmegが得意としていた海外旅行(International)の回復が全く見えないという部分でした。
渡航再開が分からないのはもちろん、航空会社・ホテル・空港などのインフラ側もどうなるか分からない未知の世界。仮にこういったインフラが壊れてしまった場合は、海外旅行自体が10年以上は戻ってこないというような恐怖感にも駆られました。
つまり得意としていた海外展開は早期に捨てる必要があったのです。今まで築いてきたものを全て捨てるのはなかなか辛かったのを覚えています。
分析:復帰が早いであろう国内旅行で通用するサービスが必要
2020年の4〜6月時点で観光マーケットの復興を色々とシミュレーションしましたが、国内旅行(Domestic)であれば一定の期待が持てるという結論に至りました。ある程度インフラがなくても、国内であればある程度は何とかなるはずです。
ここで国内旅行の状況を見ると、実は旅行会社や大手のOTA・予約サイトが持っているシェアはとても少ないことを発見。
宿泊旅行で見ると60%以上が直販、日帰りだと90%以上が直販という未開のマーケットだという点に気づき、ここを攻めるしかないと直感的に感じました。
決断:思い切ってProductを大きく変える
コロナ禍からのマーケットリカバリーを考えると、一番注力すべき市場は観光事業者の直販(D2C)であって、従来やっていた流通(B2B)では難しいと明らかに分かります。
そこで思いきって「Product自体を観光事業者のD2C支援」に振り切って作ろうと判断したのです。予測通りであれば、より大きなTAMが狙えるため願ったり叶ったりでワクワクしたのを覚えています。
このD2C市場を制覇できれば、グローバルNo1もしっかりと狙えるという元から持っていた目標にも合致します。ただ決断したのは良かったのですが、ここからがスタートアップとしての生死をかけた新しいProduct開発が始まりでした。一体どんなProductを作れば良いのか!?先の見えない状況には変わりはありません。
アフターコロナの世界を見据えた新Product
Productを変える時に一番考えたのが、アフターコロナの世界で起こるだろう観光客としての心理や行動の変化です。SaaSの提供先として観光事業者なのに、不思議に思われる方もいるはずです。
理由としてはマーケットの一歩先を考えることで「逆算的に」ニーズを掴み、それに対応するためのソリューションが必要だと思ったから。
具体的には「観光客としてのカスタマージャーニー」をベースに、どんなサービスが観光業界で求められるのかを考えた内容を解説していきます。
予測1:顧客の安心・信頼がより求められる世界
旅行好きの私としては、1人の消費者としてコロナ禍によって観光客の視点が大きく変わると予測しました。従来通りの旅行なんてすぐに出来るわけがありません。
例えば、飲食店では設備投資としてのコロナ対策だったり、ソーシャルディスタンスの配慮などの「事業者としての取組」をより気にするようになりました。こういった情報は商材の販売代理店(Distributor)ではなかなか得ることは難しく、必ずと言って良いほど事業者側の一次情報が重要になってきます。
つまり顧客から見て「事業者の安心・信頼」が何よりも重視され、過去に行われてきたような大量販売・マスマーケティングとは違った観点が求められると考えています。(2023年の現在進行形でも当てはまるはずです)
サービスとして考えた時には、観光客として気になる現地体験があったら「確実にその事業者のサイトを見て確認」するなと。本当に安心して参加できるのかの確認のため、観光客のカスタマージャーニーが大きく変化すると推測しました。
予測2:確実にオンライン化が加速
続いて考えたのは、カスタマージャーニーのベースとなる顧客行動として、スマホをベースとしたオンライン化の流れが一気に加速することでした。
今までは観光地でブラブラしながら気になった施設に行ったり、当日窓口で並んで買えば良いというような感覚が多かったと思います。しかし安心・信頼を求めるのであれば、事前にスマホで検索してレビューなどを確認する作業が必ず入ってくるはずです。
もちろん他の業界(ECなど)でもオンライン化は加速していますが、消費者の行動が大きく変わるという意味では観光業界にはインパクトが絶大だと思いました。
予測3:オールインワン型のサービスが必要
上記2つの顧客行動の結果として起きるのは、観光事業者がサプライヤーとしての対応が従来のやり方とは大きく異なるということです。
今まではオフライン(電話・メール・窓口対応)で良かったのが、一気にデジタル化の推進が求められるようになります。ここで気になるのが、小さな事業者が複数のSaaSやツールなどを同時に扱えるかという疑問です。
観光業界は他の業界に比べても中小事業者(SMB)の割合が多く、また大手の事業者だとしても、IT会社のよう外部ツール依存度は低いのです。最近になってようやく始まったと言っても過言ではありません。
この点で一番重要だと思ったのは、観光事業者としてのデジタル化 = DX推進を行うためのクリティカルなポイントとして、必要なラインナップが全て1つにまとまった「オールインワン型のSaaS」という部分。
普段から使う基幹システム(予約・在庫管理)に様々なサービスが入っていれば、それを使う事業者としてはとっても楽だなと。これが今日のNutmegのバーティカルSaaSとしての礎になっています。
実際のProduct開発は大変でしたが、この点はまた別の記事で詳しくご紹介したいと思います。僅か3人で新しいProductを半年という短期間で仕上げたのはなかなか大変でしたが、今となっては本当に良い思い出です!
サービスを開始後はTractionが出ず苦悩の日々
思い切ってProductを大きく変え、なんとかして新しいSaaSである「現地体験向け予約サイト開設サービス」をローンチすることができました。
ただローンチしてからはほどんどTractionがなく、不安な日々を過ごしていたのを覚えています。一体どんな状況だったのかを順を追って見てきましょう。
SaaS開始:2021年1月〜からローンチ
2020年の年内になんとかSaaSを作りあげた私たちは、年明けからSaaSとしてのサービスをスタートしました。
当時はまだまだ外出規制がされており、多くの観光事業者は休業中でアウトバウンドとしての営業なんて出来ない状況でした。なんせ事業者自体がやっているかどうか、会社が存続しているのかどうかすら分からないのです。
そこでユーザー獲得として行ったのが、インバウンド型のデジタルマーケティング。元々得意としていた分野だったので、SaaSのローンチに合わせて以下を行いました。
成長の兆し?:当初から契約・利用登録は取れた
デジタル型のインバウンドマーケティングは当初から成功し、リードの獲得はもちろん、問い合わせなしでいきなり登録してくれるユーザーが現れました。
このノウハウは今でも生きており、インバウンド型のマーケティングだけで多くの契約や利用登録は取れている状態が続いています。(需要があれば別記事で書きたいと思います)
登録後のオンボーディングもなんとか頑張っていましたが、マーケットの状況が悲観的なだけにあまり進まない案件が続出しました。結局いつ観光って再開されるの?って疑問に思うと、作業する側は気持ちが重くなるのはとても共感できますよね。本当に暗い時代だったと思います。
実際は不安:ユーザーはいるのに全くPMFを感じられない
毎月登録する事業者やNutmegを使ってオープンするサイトは増えていくものの、SaaSとしてのPMFは全く感じられない状態でした。
なぜなら実際の観光が再開されていなかったため、Tractionのメインである予約がほとんど伸びなかったのです。
中にはオンラインツアーだけを頑張っていた事業者もいましたが、あまりの客数の少なさや収益性の低さからギブアップするところが続出。なんとかしてサポートしたかったのですが、事業者として心が折れるのは致し方ないと歯痒い思いをしていました。
サービス開始から半年間はこの状態で、本当にこのまま同じProductで良いのか常に悩んでいました。
WithコロナになってようやくPMFを感じる状態に
サービスの開始から本当にこれ大丈夫なの!?という不安な毎日を過ごしていましたが、少しずつPMFの兆しが見えてきたのが心の救いでした。
そして本格的に観光再開した時からは、ようやく本当のPMFを感じられるようになりました。直近ではオールインワン型の価値を認めてもらえる状態になってきましたので、その経緯や背景をお伝えしたいと思います。
信じて進んでいけば救われることもあるのだと、皆さんにはお伝えしたいです!
ハワイでうっすら感じた初期のPMF(2021年7月〜)
「国内旅行」という部分は実は日本国内に限ったことではなく、アメリカでも同じです。ある意味Nutmegが救われたのが、元々別のサービスを使ってくれていたハワイの観光事業者がNutmegのSaaSを使ってくれたことです。
アメリカではいち早くから旅行が解禁され、そのピークとなる2021年7月は多くの観光客でハワイが賑わいました。今まではワイキキは日本人中心だったのが、多くのアメリカ人が所狭しと押し寄せてきたのです。
マーケットが戻った時にどうなるかがPMFとしての初期の見極めでしたが、この点はハワイでのD2C支援が非常に上手くワークしてくれました。従来は直販が低かった事業者が、より多くの直販をNutmegを通じて獲得できたのです。データ分析すると、狙い通り!安心・信頼を求めて欲しい情報を探している観光客が増えていたことに気づきました。
Tractionとしての実績を見た時に、「もしかしてこのサービスいけるんじゃないか!?」とうっすらPMFを感じるようになった時です。
ただサンプルが少なすぎて確信を持つことができず、本当にスケールするのかどうか見極めが難しかったと思います。(当時は定員制限もしていたので、フルキャパシティでやった時にどうなるかも不安でした)
日本国内で感じた本当のPMF(2022年4月〜)
本格的にPMFを感じられるようになってきたのは、日本国内で観光が通常に近くなってきた2022年の4月以降です(執筆時点では1年も経っていない)。
この時に今まで開設してきた各事業者のサイトで予約が入り始め、沖縄や琵琶湖などの有名な観光地でしっかりと実績が出る状態に。特に2022年の夏は導入してから短期間で実績が出た事業者も多数存在し、SaaSとしての価値を感じられる状態になりました。
日本国内においても元々予測していた通りにマーケットが変わってきており、オンラインをベースとした盛り上がりと安心・信頼を求めている観光客との橋渡しを上手くできたと感じています。
一方でオールインワン型に関しては、忙しすぎる夏ではまだまだ感じてもらえない状態でした。2年振りにくる観光客に事業者は嬉しい悲鳴をずっと上げており、回すので精一杯のため予約以外に取り組める余裕なんてありません。
オールインワン型の価値が浸透し始める(2022年10月〜)
2022年の忙しい夏が終わった後に、振り返りを含めて事業者の皆様とお話をしていた時です。夏の間に仕込んできた様々なDX向けの機能を紹介し始めた時に、ようやくオールインワン型の価値を感じてもらえるようになりました。
現場レベルの業務効率化から始まり、顧客体験を良くするためのデジタルツール、そしてより直販を上げていくための仕組みが「1つのSaaSの中に入っている」のはとても珍しかったようです。
今でもまだまだ進化中&浸透中ではありますが、コロナ当初に予測したことが次々と実現し始めています。100%PMFしているか?と言われると分かりませんが、少なくともコアな価値と方向性には同意頂いたNutmegの良さは伝わっていると感じています。
まとめ
コロナ禍でピボットしてからは困難の連続でした。ローンチしたは良いものの全く出ないTraction、PMFっぽいけどサンプルが足りなくて確証が持てないなど、思い返すと本当に不安な日々だったと思います。
ただ今になって振り返りと、自分たちが強く信じた道をまっすぐに突き進めたことが功を奏したと思います。短期的に結果が出なくても諦めない、波が来た時に本当に乗れているか確認するのは大切だと今でも感じています。
こういった苦難を乗り越えて、ようやく大きな成長の波に乗りかかろうとしているのがNutmegです。では実際にアフターコロナの世界で、NutmegのSaaSがどんな課題を解決しているのか?
次の記事では、PMFを感じたNutmegが解決している今日の課題や将来的に解決したい課題を詳しく解説。以下よりご覧ください。
もしNutmegのストーリーに共感いただいた方や、私に興味を持って頂いた方は、是非一度お話しできればと思いますで下記よりお問い合わせください。