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アイスランドに伝わる刺繍について書かれた本

ミュージシャンのビョーク(Bjork)さんが好きで、作品づくりをするときはいつも彼女の音楽を聴いてインスピレーションをいただいています。

彼女の故郷はアイスランド。
北大西洋にある島国で、自然豊かな火山国としても知られています。
首都はレイキャビークです。

https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/iceland/index.html


↑外務省がアイスランドについて掲載しているページです。

アイスランドの国土の特徴や歴史などを知るうちに
「アイスランド刺繍」
というものはあるのだろうか、と思い調べてみました。


ありました!
見つけたのがこの一冊の本でした。

古本屋さんのサイトで見つけたのですが、ズバリ
「Traditional Icelandic Embroidery」
Elsa E. Gudjonssonさんの著作
※Gudjonssonのはじめのoにはアキュート・アクセント「’」がつきます。

初版本ではなく出どころもよくわからなかったのですが(お恥ずかしながら全て英語表記でしたので理解が難しかったです)、ちょっと高価だったのでためらいつつ購入しました。
1985年にアイスランドで発行されたものだそうです。

ところが「買ってよかった!」とおもえるすばらしい内容でした。

著者のGudjonssonさんはアイスランド国立博物館の織物・衣装部門の責任者でありアイスランド文化と刺繍の歴史に精通した方だそうです。

アイスランド刺繍の発展や、時代によってどのようなスタイルが主流だったかについて詳しく説明されており、伝統刺繍に焦点を当てた貴重な資料と言えると思います。

また人々の生活や思いを形にする過程がしるされており、刺繍が装飾だけではなく人の感情や文化の記録であることに強く感銘をうけました。


…とは言っても私は英語がほとんど読めず、つたない力で自分なりの翻訳をしましたから正しく理解できているかどうか不安はありますが。


ただ、日頃から自分が抱く問いに対してひとつの答えを出してくれる本でした。

「どうして私は刺繍で表現するのだろう」

私の制作は「うちに還(かえ)る」をテーマとして医療画像や人体をモチーフにすることが多いのですが、針を持ちながら「これを刺繍で表現する意味があるのだろうか」という思いが頭をよぎることがあるのです。

自分の頭部CT画像を刺繍した作品(2022年作)

もちろん自分にできること、楽しいことが刺繍しかなかったというのも大きな理由の一つではあります。
しかし自分自身を納得させ、これからも針を持ってつきすすんでいくための大義名分がほしい、と思っていたのです。


この本を読んでいると数々の歴史的な刺繍作品を写真で味わうことができます。
数百年という時間がしみこんだ渋みのある布地に、数千の糸(ステッチ)が横たわっています。

手でなぞればボロボロと糸が切れるほど劣化しているかもしれません。
しかしそんな危うさの中にも美しい糸の発色は残り、ここまで朽ち果てずにかたちを残してきたという「力」をかんじます。

宗教的なモチーフが多く教会の祭壇にかざられていたものと思われますが、絵画ではなく手間ひまのかかる刺繍にしたことは人々のつよい宗教心のあらわれではないでしょうか。

またサッとたたんで持ち運べることで災禍を逃れることができたという一面もあるかもしれません。

刺繍家の立場からいうと、ステッチを見ればそれを手がけた人のことがわかる気もします。
糸の緊張度でそれをひく力加減がわかります。
作品の大きさやステッチの難易度をみると、作者が途方もない制作の荒波にもまれたことが伝わります。
作業中のつくり手の眉間のシワやため息を手にしているような気分になります。
たとえ写真ごしであったとしても、それらの「熱」がおしよせます。


何よりこの本が素晴らしいと思ったのは、作品の一部の図案まで掲載されているということです。
つまり中世ヨーロッパの刺繍作品を2024年に生きる私が同じように作ることができるのです。
これは絵画や彫刻では出来ないことだと思います。


はなしをまとめます。
刺繍というものは古来からその美しさが宝石と同じような地位をもって重宝されてきました。

それだけでなく宗教心や他者をおもう強い心を手間ひまの中につめこむことができます。
そしてそれをそのまま後世に伝えるタイムカプセルでもあります。

私の作品もその大きな文化の流れにあることを改めて意識しました。



これから大きな作品にいどむ時にもかつての刺繍職人の偉大な功績をおもい、もしかしたら数百年後のだれかが私の作品を手にして何かを感じてくれるかも?…とかんがえれば最後まで刺し抜く気力がわいてくる気がしました。
そしてこれからも刺繍での表現をつづけていこう、と決意をあらたにしました。

次の展示に向けてがんばります!


今回も最後まで読んでくださってありがとうございました。

ナース刺繍は現役看護師兼、刺繍家の私が人体や医療画像をモチーフにした作品を制作しながら
「内に還(かえ)る」
というテーマを表現しています。
ホームページでは作品紹介やお知らせなどを致しておりますのでご覧いただけますと幸いです。

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