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2020年3月29日 21:35
その男には、顔がなかった。鉄のようにつるりとしたのっぺらぼうで、灰色のコートに身を包み、私が帰る夜道の街灯の下に、ただじっと立っていた。少し俯いて、どこか寂しそうだった。私が横を通り過ぎても、身じろぎひとつしなかった。初めてその男を見た晩から、雨が降っている夢を見るようになった。どこかの町でもなく、山や海でもなく、灰色の果てのない世界に、雨だけが降っている夢だ。頭上を見上げても足元を見