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これからも本屋を続けるために|近隣の方々と、出版社・著者の方々に伝えたいこと

五月の3日間

どのように開けるかだけを、ずっと考えていた。2日に、以下のnoteを公開した。

二つのクラウドファンディングのどちらにも、今日もたくさんの支援をいただいている。寄せられるメッセージ、誰かのアクション、その他の何かに毎日、心を揺さぶらている。

この時点では、まだ具体的な方針は決められていなかった。しかし最近の3日は、まるで1か月のように長い。

5日には、「本屋B&B」の下、吹き抜けでつながる1階で「発酵デパートメント」という店をやっている、小倉ヒラクくんと公開でzoomで話した。

彼らの店は開けていた。ぼくたちの店は閉めていた。しかし悩みはどちらも同じだ。

これからのBONUS TRACKと、各々の事業。店づくりの話であると同時に、どちらかといえばより大きな、場づくりの話になった。

Youtubeにアーカイブが残っている。

この2日から5日までの3日間のあいだに、ぼくの中ではわずかな希望が見えはじめていた。だから、2日の記事よりは、5日の動画のほうが少しだけ、自信をもって話しているようなところがある。7年半の利益と借入をすべて使い果たして作った店に、この2ヶ月、ほとんど売上が立っていないというのに。

そこからさらに数日。考えて、話して、また考えて、やっとまとまったことについて書く。

「本屋B&B」ではこの5月中旬より、2つの新しいことをはじめようと思う。

近隣の方々へ:安心して行ける本屋

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1つ目は、予約制での営業だ。

本来であればもちろん、通りすがりの人に、ふらりと立ち寄って、自由に棚を見てもらいたいと思う。

けれどこのような状況下で、そのような営業をしようと思うと、想定されるリスクがいくつもある。

まず、人が増えすぎた場合、入場制限をしなければならない。すると、ふだん以上に人員が必要だ。入口に案内が必要だし、行列ができれば整理をしなければならない。並ぶ人にはもちろん、スタッフにもリスクがある。もちろん、そのぶんのコストもかかる。

しかも「本屋B&B」のような店は、目的の本を探すためだけよりも、本との出会いを楽しむために来てくださる人のほうが多い。当然、長時間ゆっくり過ごすことが前提となるが、もし外に行列ができていたら、気分的にゆっくりできない。買うものを買って早く出よう、という気持ちになってしまう。

かといってもちろん、何の人数制限もなく入れてしまって、店内の人数が増えれば、今度は店内が、誰にとっても安心してゆっくりいられない場所になってしまう。結局、早く出ようという気持ちになる人も多いだろうし、スタッフにもリスクだ。

ゆっくり、安心して、本との出会いを楽しめるように。そのために、予約制にすることにした。

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予約は1時間。客数は最大3人。徒歩や自転車などで、公共交通機関を使わずに来店できる方のみ。20分ごとに1人ずつ入れ替わる。もちろん窓を開け、換気につとめる。新しい「本屋B&B」は2階で、天井も高く広々としていて、風もよく抜ける。マスクの着用、アルコールでの手指消毒などの感染対策はもちろん行う。なるべく対面せずに会計できるように工夫する。

普段と大きく違うのは、1万円以上のお買い上げをいただくことと、オリジナルのトートバッグをお付けすることだ。お会計が1万円を下回る場合は、1時間の予約につき1枚、トートバッグ代として、2000円を頂戴する。

もともと「本屋B&B」において、1万円以上のお会計はめずらしくない。1時間もゆっくり過ごせば、欲しい本の合計額がゆうに超えてしまう人は、きっと多いはずだと思っている。

1万円に達しない場合は、2000円をいただくことになる。ご想像の通り、店側の気持ちとしては本当は、この状況下で安心して本と出会うことができる空間、そこでゆっくりと過ごす時間を提供するために、どうしても1時間に3人限りという特別で贅沢なものになってしまうその営業を成り立たせるために、いただくものだ。

けれど、その空間で手に取れるもの、その価値を構成するものの多くは本であり、中には出版社に返品できてしまうものもある。お預かりしたものを売る店をしているのに、いわば入場料のようなお金をいただくことは、この業界の商習慣からしても、堂々とすべきことではない。だから、トートバッグを作って、その代金とすることにした。

5月15日から、この予約営業を開始する。

移転期間も含めたらほぼ2ヶ月のブランクがある。本当は入れたい新刊も、まだまだ揃えきれない。徐々に追加はしているけれど、「本屋B&B」にならきっとあるはずのその本は、ひょっとしたらまだ見つからないかもしれない。どうかあたたかい気持ちで、いらしていただきたいと思う。

こちらのフォームから予約ができる。【2020年5月16日追記】本屋B&Bのウェブサイトにも、説明を掲載した。

あくまで、事前にご予約されて、1時間をゆっくり過ごし、1万円分の本を買うぞ、あるいは、2000円のトートバッグにお金を払うぞ、という方だけが入れる。大変恐縮だけれど、出版社の営業の方などの訪問は、いまはまだご遠慮いただきたい(新刊情報はぜひ、メールなどでください)。

限定的な形であれ、やっとこのように言えるのがうれしい。

近隣のみなさま。
こちらよりご予約のうえ、ご来店を心よりお待ちしております。

出版社と著者の方々へ:本を売るオンラインイベント

2つ目は、オンラインでのイベントの開催だ。

「本屋B&B」は、2012年の開業以降、毎日、トークイベントを開催してきた。その多くは新刊が出たばかりの著者と、その対談相手になる方をお招きして、語っていただくものだ。直近では、多い日は100人以上、平均でも50人近い集客をしていた。

「本屋B&B」のトークイベントのひとつの醍醐味は、著者や出版社と、その本の読者とが、同じ空間で顔を合わせるところに、本来はある。終了後はたいていサイン会を実施し、本が直接、読者にわたっていく。

しかし、2月中旬あたりから、イベントに人を集めることができなくなった。予定していたイベントのうち一部は、zoomでのオンラインイベントに切り替えて実施し、その後も、オンラインを前提とした刊行記念イベントをいくつも実施してきた。

オンラインでのイベントは、当初想像していたよりもずっと楽しく、盛り上がるものだった。コメントを通じた質問なども、普段よりも気軽に集まる。リアルでのイベントと同じようにとはいかないけれど、むしろ、また違った魅力がある。

しかしそのなかで、一番のジレンマが、本屋なのに本を売ることができないことだった。

これまでは、イベントに出てくださる著者や、企画に協力してくださる出版社に対して、本を売ることで貢献ができると考えていた。

けれどそれができなくなって、この1か月以上の間、なかなか著者や出版社のみなさんに、こちらからは声をかけにくい日々が続いていた。

それでも、声をかけてくださる方々がいた。断続的にではあったが、オンライン刊行記念イベントを何度か実施できたことで、やっと「本が売れます」と言えるだけの体制、その方法について、イメージできるようになった。

奇しくもいま、ネット書店は十分な在庫を持たなくなっているし、休業している書店も多い。出版社や著者のみなさんも、せっかくつくった新刊の売り方に困っていると聞く。

「本屋B&B」ではこれから、オンラインで開催する、新刊の刊行記念のトークイベントを増やす。それとあわせて、本屋として、本を売っていく。

【2020年5月16日修正】当初は、つくった資料を配りはじめた。けれどそのうち、やはり資料だけでは伝わりにくいと考え、相談会という形に切り替えることにした。

※上記のフォームがうまく動作しない方はこちらから。
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSeMPW39tDSH1wYEpr0O9L5NGZnMv6QOr48niOjWwAN2j_fy7A/viewform

このような形で出版社や著者の方に、ひろくイベントの開催を呼びかけるのは初めてで、少し緊張している。

けれどぼくたちは、新しいことをはじめようとしている。うまくいくかはわからないが、これをうまくいかせるしか、いまのぼくたちに道はない。

ひとつの空間に、人がぎっしりと集まり、同席した人たちと、目の前で起こっていることを楽しむ。そのような体験が私たちに戻ってくるのは、まだ随分先になるだろうと想像される。

けれど、本屋として、ある一冊の新刊が世に放たれたことを、著者や出版社のみなさんと一緒によろこび、読者のみなさんにそのお話を伺う機会を提供し、その本を売らせていただくという機会を、ぼくたちはなくしたくない。

リアルの場でのイベントの代替をしよういうのではない。同じ価値を再現することはできない。けれど、また違う、よい体験を提供することはできそうだと思っている。

久しぶりの方との再会や、初めての方とのよい出会いも、あるはずだと信じて。

出版社のみなさま、著者のみなさま。
どうか「本屋B&B」で、オンラインの刊行記念イベントを開催させてください。そして、その本を売らせてください。
こちらのフォームから、ご連絡をお待ちしています。

2つの近さ

冒頭に書いた、5日の小倉ヒラクくんとの配信。その終盤で、ぼくは2つの記事を引きながら、本屋はなくならないという話と、徒歩・自転車圏内と広大なインターネット、その2つを行き来する形に急にシフトした暮らしの話をした。

ライブハウスがなくならないのと同じ理由で、ぼくも本屋はなくならないと思う。本屋の魅力に取りつかれている人たちが、それを忘れることはないからだ。世の中がどうなろうと、誰かがはじめる。

けれど、だからこそぼくはいま、この「本屋B&B」をなくしてはいけない。なくしたくない。

今回ぼくたちが取り組むことは、急に訪れた暮らしの変化に、本屋というもののあり方を合わせる、その第一歩だと思っている。

キーワードがあるとすれば、それは「近さ」だ。本屋は2つの意味で、いまよりも「近い」のものになると、ぼくは考えている。

いまはまだ、遠くに行くことが推奨されるときではない。ぼくたちの「本屋B&B」においても、予約制での営業は、まず物理的に近くに住む方を対象にはじめる。

もちろんいずれは、予約も余計な仕組みもなしで、ふつうにフラッと入れるようにしたいし、遠くから来る人も迎えられるようにしたい。

けれどまず、いまは近くの、「本屋B&B」の開店を楽しみにしてくれていた人たちと、親密な関係を築くよい機会と捉える。会話することはできないけれど、この時期に来てくださる方は、かならずそのあとも来てくださる方になる。

同時に、オンラインでの情報は、このような状況下で、あふれ返っている。それでも特定の本屋にアクセスし、そこで何かを買おう、何かに参加しよう、誰かとコミュニケーションをしようという人は、その価値観や好みにおいて、とても近くにいる方々であるといえる。

「本屋B&B」で一緒にオンラインイベントを企画しようと手を挙げてくださる出版社の方、著者の方。そしてそれを、わざわざお金を払って見てくださる方。その距離は、たとえ物理的に離れていても、とても近い。

本屋は元来そういうものだ、という人もいるかもしれない。ぼくもそう思う。ただそれがより、顕著になるはずだということだ。

ことばにしてしまえばありふれている。けれどぼくたちは、あらためてその2つの「近さ」を大切にする、「近くの本屋」を目指そうと思う。

正直にいえば、この1~2ヶ月にかかっている。やってみないと、どうなるかはわからない。

それでも、それがぼくの仕事だと、少し恥ずかしくても言う。「本屋B&B」をなくさないこと。これからも本屋が続く世界に寄与すること。

いただいたサポートは「本屋B&B」や「日記屋月日」の運営にあてさせていただきます。