連続ブログ小説「南無さん」第四話
春はうららか、南無さんの朝は起き抜けの放尿から始まる。
寝床からかわやへ向かう間に、申し訳程度に身につけていた布はすでに脱ぎ捨てられている。生まれたままの姿で放たれる黄金色の水は、ジョボジョボと深淵の闇へ吸い込まれていった。一糸乱れぬ大放尿。梵我はここに一如である。
日課を終え、南無さんはかわやを後にする。その表情は穏やかでありながら、澄み切った鋭さをもたたえていた。
残尿はない。陰茎を振るうなどの女々しい行為は、南無さんにとって必要なかった。
南無さんが己の陰茎を手ずからもてあそぶようになったのは、成人してのちのことである。それまで無為自然に夢精を享受していた南無さんは、陰茎に手を触れるなどということとは無縁であった。放尿時は前述のとおりである。手を添えたことすらもなく、幼少の頃より、真っ当なるノー・ハンド・ジョボを習いとしていた。それゆえ南無さんは、陰茎に手を伸ばすのが全て自慰のためであると認めていたのである。
ところで、ここはかわやとはいえ、その実、南無さんの自宅近所の公園のかわやである。南無さんの家にかわやはなかったのだ。
道すがら無意識に脱ぎ去られていた布を拾う途中、南無さんは足早に歩く男とすれ違った。
ふと振り返って、南無さんは男がそそくさとかわやへ入っていくのを見送る。悪いことにこのとき男は、股間を押さえているところを南無さんに見られてしまっていたのである。
南無さんの行動は早かった。
ジョボボボボボボ、これ、そこの御仁、ジョボボボなんですかあなたジョボボボ、これから出すものは、私がもらい受ける、ジョボボボボボボなんですって?ジョボボボちょっとジョボボボボどこに顔を出してジョボボあっビシャシャシャシャシャシャシャ
一身に般若湯を浴び食らった南無さんは口を開け放ったまま、はて、なぜ射精しないのかと疑問に思ったが、あまり相手を傷つけてはいけないと思い、立ち上がってポンと男の肩に手を置くと、ひとつ微笑みを残して家へ帰っていった。
病気の人には優しくするのが彼の信条だった。ほどなくして南無さんの家から、南無阿弥陀仏の大音声が聞こえてくる。
官憲が到着したのだ。