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英語で落語!?噺家林家染太さんに聞く!(その2)...英語にかかわる仕事をする人々(2008年3月掲載インタビュー記事)



はじめに


「様々な世代の人々が様々な場で、生涯を通して何らかの形で英語にかか わって仕事をしています。英語は人それぞれ、その場その場で違いま す。このシリーズでは、英語を使って活躍する方にお話を聞き、その人 の生活にどう英語が根付いているかを皆さんにご紹介し、英語の魅力、 生涯にわたる楽しさをお伝えしていきます。英語はこんなに楽しいも の、英語は一生つきあえるもの。ぜひ英語を好きになってください。」

という趣旨で、筆者のコラムFor Lifelong English(旧『TOEFLメールマガジン』) では、英語にかかわる仕事をされている方々にお話をうかがいました。本稿は「英語で落語!?噺家林家染太さんに聞く!」(その1)に続く(その2)です。話し手:林家染太師匠さん、聞き手:筆者、同席者:TOEFL事務局の根本斉氏です。


今回は、英語落語を始めたきっかけや、上方落語と江戸 落語との違いなどについてお話を伺いました。


 英語落語を始めたきっかけと落語界入門

鈴 木: 英語落語は、どんなきっかけで、誰に習って始めたのですか?

林 家: 昔から父の職業がら家に留学生が遊びに来たりパーティしたり と、結構インターナショナルな環境だったので、英語にとても興 味はあったんです。HOEインターナショナルという英会話学校が あって、たまたまチラシ見て入ったんです。そしたら、桂枝雀師 匠もそこで習っていたという、なんという偶然。そのときの英語 の先生が、「落語研究会に入っているんやから、英語落語なんか してみんか?」と誘ってくださって、やりますやります、と。そ うして一緒に訳してもらうようになりました。 僕がそんなに英語が達者ではないので、中学生でも聞いてわかる ような単語、センテンスを使おうといつも思っています。大阪の おっちゃん、おばちゃんが聞いてもわかるように、難しい言葉は 言い換えてつくります。だから高校生なんかは、すぐによう笑う てくれます。

鈴 木: とてもいいことですね。僕は英語の基礎は中学校の英語で十分だ と思っています。

林家: はい。学生時代には、まだアマチュアだったんですが、山本先生 という英語の先生が、一緒にアメリカ・シアトルとアトランタに 英語落語の講演に行こうって誘ってくださいました。プロの落語 家さんと、外国人の落語家さんと一緒に、僕は学生の身分で連れ て行ってもらいました。教育実習が終った次の月でした。 シアトルで「バンバーシュート」というパフォーマンスのお祭り があって、全世界からいろんな方が集まって、いろんな大道芸が あったり、ブラジルの人はカポエラやったりという中で、2000~ 3000人入るホールで、英語落語やらしてもろたんですよ。落語と 三味線、太鼓、全部持って行ってやったら、もう大爆笑でした。 また外国の方はすごく笑っていただけるんです。楽しもう、とい う気で来ていますから、日本のプレーヤーのことも乗せてくれる んですね。とても感銘を受けました。こんなに楽しいことない、 やっぱり落語家になりたいなぁと思いました。そうして卒業する ときに、すごく敬愛していた林家染丸師匠(上方落語協会 副会 長)に弟子入りしました。

鈴 木: なるほど。正式に今度は落語の世界に入門したんですね。学生時 代の落研と、やはり違うものでしたか?

林家: まったく違いますね。入った時に師匠に「君はなんぼネタ持って んねん」と聞かれて、「30ぐらい持ってます」と言うたら、「全 部とりあえず忘れなさい。今からお金の取れる芸をしないと。」 と言われて。それから一から修行です。

鈴 木: なるほど。今まで自分なりに練習していたものは、やはり通用し ない、と。

林家: はい。まず落語家の弟子修行があります。落語家になるには、こ の師匠のもとに居りたい、落語の芸をぜひ教えていただきたい、 と思う師匠のもとに直接弟子入り志願をしに行きます。これは一 期一会の世界です。その時その師匠が機嫌が悪かったり、弟子が たくさんおったら、断られてしまう。この世界は「この師匠がア カンからあの師匠」というのはまずできません。「じゃ誰でもい いんかいな」という話になりますから。ですから、ほんとにご縁 で。僕の場合は、師匠が階段から出てきた時に「弟子入りさせて ください」と、もう必死で「こんだけ師匠のことが好きです」て 言うて。師匠も機嫌が良かったからかな。その時はお蔭様ですん なり、「じゃ、とりあえず、履歴書もっておいで」と言われて 汚い字で書いて持って行ったんで す。そしたら僕の履歴書見て、「ほ えー」と。「何か字間違えてます か?」と聞きましたら、そうでなく て、僕の本名は荻山志行と言います が、うちの師匠の本名が木村行志な ので、名前の漢字がまったく一緒やったんです。これで「お前、 俺の字も珍しいけどお前の字もこれ珍しい。一緒の字やないか。 親に感謝せぇ。これで弟子とってやるわ。縁起がいいわ」と、弟 子入りを許されました。

鈴 木: 縁って、本当にあるんですね。いい名前つけてもらいました ね。

林家: ええ、本当に親に感謝です。それから3年間、内弟子修行という落 語界の丁稚奉公がありました。掃除、洗濯、炊事など全部やっ て、よう怒られました。

鈴 木: 日本的な落語界の基本を徹底的に仕込まれたわけですね。江戸時 代から続いている伝統ですから、厳しいでしょう。

林家: はい。落語は二の次なんです。まず師匠の気を読みなさい、と。 師匠が次は何を欲しているのか。「おい」と言うたら、ぱっとお 茶が出るように。またそのお茶があったかいのか冷たいのか、ほ うじ茶か緑茶かそば茶か、そこまで読むのです。

鈴 木: 厳しい修行がないと、人を笑わすことはできないのでしょうね。

林家: ええ。うちの師匠がよく言います。「いい落語をしたいとか、面 白い落語をしたいと思うたら、まず、いい人間になりなさい」 と。『芸は人なり』と申しまして、どんなに隠してもその人が出 てしまう。せこい人はせこい芸になってしまうし、がめつい人は がめつい芸になる。だからまず、人間を磨きなさい、と。

鈴 木: 私もね、20代や30代の若い先生に「いいかい、人間は生きたよう にしか教えられないから、間違ったらいつでも自分を反省しない といけないよ」とよく言います。

林家: おっしゃるとおりです。よく見せようとしても、ぼろが出てしま いますから。

鈴 木: 立派な修行ですね。いろいろと不慣れなことやご苦労もあったで しょう。

林家: 修行中は親のありがたみもよう分かりました。よく手紙を貰って 読んでいましたね。弟子というのは、いつ破門になるか分かりま せん。師匠が怒って「君はもう破門や」と言われたら、もう二度 と落語界に戻れません。喩えるなら、薄い氷の上をそーっと歩い ている感じです。また僕のはよう割れるんです。 僕は車の運 転が下手で、あるとき師匠を車でぼんとぶつけたことがありまし た。

鈴 木:(笑い)

林家: さすがに師匠もびっくりしてはりました。

鈴 木: しかし、そういうのでは破門にならないでしょうね。 林家: そうですね。でも今までに一度だけ、破門と言われたことがあり ます。お正月に一門みんなが集まって新年会をやるんです。無礼 講で盛り上がって、「みんなで麻雀しようか、ちょっとお前も入 りなさい」て師匠に言われてやってたんです。そしたら、僕はた またまいい並びになって、ちょうど師匠が捨てた牌がこれが上が り牌で、物凄いいい役だったんで「ロン!」。そしたら「破 門!」て。「破門」の方が役が上だったんですね。 鈴 木: 修行が無事終わり、どうやってまた英語落語をされるようになっ たのですか?

林家: 修行が終わると独り立ちで、『林家』という家名を背負うて落語 をします。もちろん、古典落語が本業ですが、学生時代にしてい た英語落語もまた再開したいなと考え、桂かい枝さん、桂あさ吉 兄さんと、昔から繋がりのあったイギリス人のダイアン・オレッ トさん、カナダ人のクリス・リーさんなどと、一緒に英語落語し ましょう、と始めました。僕は英語落語会を開いて、外国人の方 に来ていただいたりとか、落語以外でもちょっと変わったことを しようと、三味線でじょんがら節を弾いたりビートルズの「デイ トリッパー(Day Tripper)」を弾いたりして、結構笑っていた だいたりします。

鈴 木: 英語落語は即興でされているの?

林家: いや、僕は丸暗記です。即興なんて恐ろしくて。覚えて、まず仲 間に聞いてもらって「ああ、その発音はちょっと違うな」とアド バイスをもらいます。僕の場合下手なんで、通じなくて。

上方落語と江戸落語


鈴 木: 古典落語はどのようにして覚えていかれるのですか? 林 家: お噺は300~400ぐらいあります。僕らの稽古は『膝稽古』と言 いまして、お師匠はんは座布団座っており、弟子は座布団はずし て座って対面して、『口移し』と言いまして・・・別にキッスす るわけではないんですけど。

鈴 木:(笑い)

林家: 「こんにちは」「おう、誰かと思たらおまはんか、さあさあ、こ っち上がり」て師匠が言うて、そのとおりに繰り返して発声して 覚えます。僕はこれまた覚えが悪いんで、よう師匠に叩かれた り、お湯をぱっとかけられたりしました。普段は優しいんですけ ど、稽古になると厳しい。 

鈴 木: 入門されて7年とのことですが、落語界ではどのくらいなのです か?

林家: まだ、ぺいぺいです。上方落語は、江戸落語と違って真打制度は なく、すごくアバウトなんです。江戸は前座・二つ目・真打とあ りますが、大阪は、何もないです。それはお客さんが決めること であるという考え方です。

鈴 木: なるほど。江戸と大阪のカルチャーの違いですか?

林家: そうですね。もともと発祥も違います。江戸はお座敷で、落語好 きな方が集まって、「こんな話どう ですか」「おお面白い面白い」とい う落語研究会みたいな感じですが、 大阪は谷町9丁目にある生國魂神社 の境内に茣蓙敷いて、見台(けんだ い)という小さい机と膝隠しとい う、裾が乱れるのを隠すのがあっ て、張り扇(はりせん)と小拍子を持って、叩きながらリズムを 取って、お客さんを注目させて噺をしていました。江戸は 『粋』、に対して大阪は『派手に陽気に賑やかに』です。

鈴 木: 境内で?まるでお祭りのようですね。 林家: そうです。ストリートパフォーマンスですね。上方落語には『は めもの』といって落語の最中に三味線とか太鼓とかをバンバン BGMで鳴らしたり掛け合いしたりもあります。派手な、サービス 精神旺盛な要素がありますね。

鈴 木: 大阪の庶民のものであったことは確かですね。

ここで小噺:一緒にアルバイトをしていたミュージシャンの卵が桂枝雀師匠の息子さん

林家:本当に縁とは不思議なもので。学生時代にある牛丼屋さんでアル バイトしていたとき、前田君いう、ミュージシャンの卵の人と2人で、暇 やから夜な夜な夢を語っていたんです。僕はプロの落語家になってお客 さんを笑わせたい。彼はプロのミュージシャンになって皆を湧かせた い、言うて。あるとき僕が、たまたま桂枝雀師匠のチケットを持ってい たもんですから「君も舞台に立つんやったら、MCとかせなあかんから、 面白いから落語見に行かへんか?」言うて見に行ったんです。それから 半年経って知ったんですけど、その人ね、実は桂枝雀師匠の息子さんだ ったんですよ!何で言わへんのや、という話やないですか。桂師匠はス キンヘッドで、彼、金髪なんですよ。全然わからへん。 何で知ったかというと、たまたま雑誌見てて、親子対談って師匠と前田 君が載ってたんです。「何やこれお前や、どういうことやねん?」言う たら、「実は息子で・・・」て。僕はまったく知らんで、息子さんに ね、お父さん、桂枝雀師匠のことをおもろいでー、って勧めていたわけ なんですよ!家におるっちゅうねん! 彼もなんで言わなかったか というと、親の七光りが嫌いで、また僕がすごく落語が好きだから言い そびれたんですね。 それから何年か経って僕はプロになって、枝雀師匠の奥様、つまり前 田君のお母さんもプロの有名な三味線引きなんで、初めてお会いしたと き、「初めてお会いさせてもらいます」言うたら、「私は前から知って ます」と言われましたね。

鈴木:(笑い)

鈴木の一口コメント

染太さんの話の内容にリズムを感じました。自分の人生で大切な節目節 目の出来事を演歌のコブシのように振り絞るかのように語り聞かせてく れました。お師匠さんに弟子入りを許される時の話も、前田君との出会 いも心地よい笑いに包んでさらっと出す、さすが噺家です。大阪落語と 江戸落語の違いもとても面白い。落語世界の奥の深さを示す貴重な情報 です。これを英語で伝える染太さんの挑戦を応援したいですね。染太さ んは、日本語、英語、それに加えてコンテンツである「落」語のトライ リンガルと言えるでしょう。

続きは(その3)にて。

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