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アメリカ留学を振り返ってーMemorable Teachers(その8-2):Georgetown University Ph.D. Program in Linguistics第二の関門博士候補資格試験受験

表紙写真 1975年当時大学Lauinger Library内の博士課程学生用筆者個室

アメリカ留学を振り返ってーMemorable Teachers(その8-1):Georgetown University Ph.D. Program in Linguistics第二の関門博士候補資格試験受験」に続く(その8-2)です。



ジョージタウン大学言語学博士課程プログラムの特徴

アメリカの大学は学部、大学院のプログラムがしっかりしています。領域共通の基本的なもの、そして、独自のものを組み合わせ総合的に学べるようシステム化されています。前々回述べたPh.D. Qualifying Examinationと今回のPh.D. Comprehensive Examinationでは、授業でカバーしたことを全て理解したうえで自らの考えをキチンと論じることができるかどうかが問われます。

1970年代のジョージタウン大学大学院言語学博士課程は言語に関する諸理論とその応用を幅広く求めるプログラムが組まれておりました。言語に関する古今の諸理論を学ぶことに留まらず、社会・心理・教育への応用、そして、なによりも、抽象的にならないよう母語以外の言語を習得することに並々ならぬ力を注いでいました。上記2つの試験はそれに沿った試験です。Socialinguisticsの授業はその意味でとてもとても重要な授業でした。


Introduction to Sociolinguistics ll , オンライン授業の先駆けPersonalized System of Instruction (PSI)を取り入れたself-study方式ーRalph Fasold先生

Introduction to Sociolinguistics Ⅱ(954364)は、Personalized System of Instruction(略称PSI)と称するself-studyを取り入れた画期的な授業でした。シラバスの冒頭では、Introduction to SociolinguisticsⅡは、後述のIntroduction to Sociolinguistics1と共に、PSIによる全米唯一の社会言語学序論であるとの文言が明記されていました。アメリカの大学や大学院の授業は、教員→学生の一方通行の知識伝授型ではなく、教員↔学生の両方向対話型が主流です。両方向対話型授業をPSIでどう実現するのか興味を惹かれました。

毎年Fall Semester にIntroduction to Sociolinguistics I(954363)が、Spring SemesterにIntroduction Linguistics Ⅱ(954364)が開講されていました。筆者は1974年Fall SemesterにIを履修できなかったので、1975年Spring SemesterにⅡを取ることになりました。2つとも独立コース(autonomous courses)で、どちらを先に取っても、どちらか1つだけでも問題ありません。Iの方は言語社会を構成する話者個人(individual speaker)の観点から、Ⅱは言語社会全体の観点から、言語と社会を考察します。Iでは、例えば、話者個人の社会心理的要因によるA言語からB言語への切り替え(code switching)に焦点を当て、Ⅱでは社会全体の政治・社会学的要因によるA言語からB言語への切り替え(language choice)に焦点を当てます。テーマが非常にはっきりしていました。

筆者が履修したⅡのコース内容は以下の通りです。テキストはJoshua Fishman編のReadings in the Sociology of Language(1972. Mouton)、Advances in the Sociology of Language Volume Ⅱ(1972. Mouton)とその他社会言語学学術記事です。3つのtopicsを12 unitsに分けて次の諸項目を網羅しました。

[First Topic: Multilingualism and Nation
Unit 1: Multilingual situations
Unit 2: Diglossia
Unit 3: Qualitative formula
Unit 4: Quantitative formula
Unit 5: Quantitative formula;The numbers that go into and come out of them.

[Second Topic: Individual and group Selection of Language]
Unit 6: Language attitudes
Unit 7: Language Choice
Unit 8: Language maintenance.

[Third Topic: Language Engineering]
Unit 9: Language planning and standardization
Unit 10: Language planning cases
Unit 11: The UNESCO Report
Unit 12: Criticisms of the UNESCO Report.

各unitで、それぞれのテーマに関する複数のreadingsが課せられ、約20の質問項目に答えながら読んで理解したら、指定された日時に教室に行き小テストを受けます。約15問の質問があり正答14個以上パスで次のunitに進みます。但し、*星印が付いた最重要の質問を間違えると他が正答でもアウトです。テストはFasold先生のSeminar-Sociolinguisticsに在籍する学生proctorsの一人とman-to-manで実施されます。先生とのin-personで行う全体授業は、最初のorientation、3つのtopicsに関して月1回ペースで行われるclass discussion3回、そして最後のfinal discussionの5回のみです。試験はmid-term examinationとfinal examinationの2つでした。最終評価は12 unitsのテスト50点、mid-term exam. 20点、final exam.30点で合計100点、GU Grading Systemに基づき、A = 95-100、B+=85-94、B= 70-84、C= 50-69、F = 0-49で最終成績が付きます。

PSIは学習者ペース(self-paced)である為に早く進めるも、ゆっくり進めるも履修者次第、早く終える履修者は、semester終了2週間前に実施されるearly final examinationをとることもできます。ゆっくり進めるのも可能ですが、学期終了までに終わらなければ単位は取れません。事前対策として、3回のdiscussion、mid-term examination、final examinationの日程を固定し、更に、12 unitsのテストで得るクレジットを後になるほど多く配分するといったスライド制を採りました。

先輩格に当たるproctorsは、この分野の学会誌に論文が掲載されるなど優秀でした。特にアフリカや中南米出身のproctorsからは、アフリカや中南米の多言語社会の実情についての詳細を聞くことができ有意義でした。筆者は、推奨されたスケジュールに沿い、全ての課題や小テストを無事終了しました。達成感が残るとてもよい授業で、最終評価もAでした。


使用Texts: Reading in Sociology, Advances in the Sociology of Language
授業シラバス,Unit 1~12の課題と指定papers
筆者のmid-trem exam
筆者のFinal exam

Introduction to Sociolinguistics lは夏休みに筆者独学で挑戦


Spring Semester終了後、Fasold先生のOfficeに行き、夏休みにSociolinguistics Iを授業を取らずに"self-study"したいのでシラバスをいただけないか尋ねたところ、先生はニコッと笑いながら“No.”と答えました。当然です。なんとも厚かましく非礼なお願いでした。全units課題をこなしても、あの活発なdiscussion、field work、proctorsとのやりとりが無ければ頭に残りません。

その後、筆者は履修した人からシラバスを入手し、夏休みの間に全てのunitsのreadingsを読んで質問に答え、一通りの知識を習得できました。しかし、Sociolinguistics Ⅱの知識と比べ、working knowledgeとしの機能は見劣りします。後に筆者が執筆した社会言語学の論文には、(*5)Ⅱで得た知見が色濃く残り、SociolinguisticsⅡがいかにinteractiveかつproductiveな授業であったか、改めて実感しました。まだpaper-pencilが主流の時代にできたのですから、最近のonline環境をもってすればできない訳がありません。ともあれFasold先生のIntroduction to SociolinguisticsⅠとⅡはとてもよくシステム化されたself-study方式の授業でした。

Introduction to Sociolinguistics Ⅰ指定テキスト (筆者独学用)
Introduction to Sociolinguistics Ⅰシラバス,Units 1~12の課題,papers (筆者独学用資料)

後に慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)や立命館大学生命科学部・薬学部で筆者が構築・実践したProject-based English Program(*6)で参考にさせていただきました。Fasold先生はシャイで控えめという印象でしたが、とても精力的でこれら2つのPSI授業を基に2冊の著書を書かれています。The Sociolinguistics of LanguageとThe Sociolinguistics of Societyです。

R. Fasold 著:The Sociolinguistics of Language, The Sciolinguistics of Society

(その8-3)に続く。

(*5)“The Sociolinguistic Profile of Brussels.” (Yuji Suzuki. 1981. The Hiyoshi Review No. 27. Keio University)および「多言語社会の実態と苦悩」(鈴木佑治. 1999. Keio SFC Review No.5. Keio University)の2点は、Sociolinguistics Ⅱで取り上げた学術記事を参考に執筆しました。

For Lifelong English 生涯英語活動のススメ(鈴木佑治 Website)

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鈴木佑治
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